第17話:一個連隊が壊滅だと……?【戦闘回】第3章、終わりですわ
フルダ要塞上空五百メートル
西プロシアン軍第三航空魔道連隊
第一大隊隊長、ハンス・アルベルト少佐
目の前を空中管制飛行船が墜落していく。煙をはいていないところ見ると、内部から船員に被害を与えての撃墜か。相当数の魔道兵にとりつかれたか。
「周囲警戒を厳にせよ。敵影は?」
「見当たりません。……いえ、いました。飛行船内部。飛び降りた敵兵が一人。敵魔道兵です」
前方距離三百。
周囲に伏撃がないか注視する。
光学迷彩の気配なし。
ほかに魔道反応もないと探知員が報告。
第三中隊を飛行船の救援に向かわせよう。
「第三中隊。敵を排除しつつ、船員の救助を」
しかし。
先ほどの指令は何だったのだ?
「敵の大規模な援軍を探知。要塞上空に集結せよ」
と。
すでにほとんどの敵対空陣地は無力化している。
要塞上空は安全だ。
だがそんなところに集結する必要性は感じられないが。
東部の迎撃大隊が増援を要請をしてきているのか?
さっきから妨害電波がひどいため、戦場の様子がわからない。
「第三中隊接敵。なんだ、こいつは、ウガッ」
「シュミットがやられた! 第二小隊救援に迎え。敵は小回りが利く。中隊全機で包囲する!」
先鋒の小隊長が真っ先に被弾するとは。
バディは何をしていた。
「こいつ。高速ヨーヨー機動からのインメルマンターン。東洋の雑技団か? それでいて周囲に小銃弾をまき散らしていく」
「死神だ。クソッ。
「フォックス1。統制射撃用意。
「だめです。あれは味方にデコイを重ねています。ハンメル被弾。同士討ちだ、くそっ」
いいようにかき回されている。
たった一人の……少年兵?
遠目でもわかる。
クソ生意気な笑顔をゆがませながら、人を撃ち殺す死神。
それにデコイを作り、敵にかぶせるなど聞いたことがない。
いや、ある。
たちの悪いホラだと酒の
東部戦線に死神が住んでいると。
たった一人で魔道兵一個大隊を壊滅させた少年兵。
トロツキーグラードの包囲網に風穴を開けて、東部戦線の膠着状態を動かした元凶。
殲滅のウリエル。
やつは本当にいたのか?
でなければこの状況を説明できない。
既に一個中隊が壊滅寸前。
「第三中隊撤退。第一中隊は俺に続け。援護する。第二中隊は十二名でフォックス1。罠を張れ」
FOX1。長射程攻撃。
十二名での統制射撃は敵の予想進路をふさぐ。
確実に数発の魔道弾がヒットする。
やれるか?
「第一射、敵を右に誘導。第二射、上空をふさぐぞ。第三射、こっちが本命だ」
敵の進路をふさぐ七.九二ミリ弾。
三発当たった。
胴体と頭に直撃。
だが最大パワーの貫通術式だったはずなのに、平然と飛行を続ける少年兵。
接近している俺たちに気づいた。
目が合う。
目が話しかけてくる。
『ゴイッショニ オドリマショウ』
なんだこいつは。
「敵、こちらへ突撃。スコップを振りかざしているだと? ふざけるな! フォックス3(近接戦闘)!」
速い!
俺か?
狙いは。
慌てて銃剣をつける。
いや、間に合わない。
小銃の銃口を向ける。
「隊長! 危ない!!」
間に割って入るバディのローラント。
ズザッ!
ローラントの左腕が銃を持ったままこちらへ飛んできた。
頭の上半分とともに!
「きさまぁ!」
すれ違う時。
奴が「チッ」と舌打ちした気がした。
だが表情はまるでケーキを前にしてうっとりする少女のようだった。
「追うな。急降下して退避。味方連隊司令まで撤退、再起を期する。急げ」
奴は魔導兵が包囲しても、それを翻弄するテクニックがある。
それならば、徹底的に物量で押してやる。
「味方のミートチョッパーでひき肉にしてやる!」
◇◇◇◇
<スターシャ>
あの一個大隊は半壊したわね。逃げていく敵は捕まえにくいわ。だったら敵中央に参りましょう。
真正面からの斬首作戦ね。
西プロシアン軍の指揮官様はお父さまのようなロマンスグレーだとうれしいわ。素敵なステップで踊ってくれるかしら。でなければスコップで無理やり。
「大尉殿、敵の中隊規模の魔道兵によるインターセプトを受けております。目標到達は遅れます」
あら。中隊の皆様とご一緒にパーティをしようとしていましたのに。
残念です。
「では、先にメインディッシュをいただくとしよう。そちらのオードブルは任せた。好きに食っていいぞ」
わたくしは全周囲索敵術式を発動。強力な魔道波を全方位に放つ。
これはジャミングにも使えるので便利。
いたわ。
一個連隊、いえ二個連隊近くいるわね。
前面と左右、あと地面すれすれとラストベルトに、それぞれ一個大隊かしら。
包囲して統制射撃でハチの巣作戦かしらね。では同士討ちが始まる中央分断しかないですわ。
わたくしは再び加速。
敵編隊の中心部に向かって突撃。
周囲に百発以上の銃弾。
外部に展開していた既に半壊した防御障壁が吹き飛ぶ。
張りなおすのは面倒ね。
敵がいる下で混戦に持ちこんでから急上昇で敵を狙いましょう。急降下して敵をスコップの餌にしようと追いかけますが、よく逃げますね。
お上手ですわ。これでは消耗戦になってしまいます。
最初から戦闘を避けて逃げている?
囮という事ね。
ではどこから襲撃?
どどどどどど!!
地上から重機関銃の発射音。
十二.七ミリクラスの対空機銃かしら。
たちまち二つ目の防御隔壁が粉々になる。さすがに重機関銃の集中砲火は厳しいですわ。デコイもすべてが消し飛びました。
う~ん、どうしましょう。
防御隔壁はあと一つ。
張りなおす間に、回り込んできた魔道兵に接近されてとりつかれるとまずいわね。
しかたありません。
胸のポーチからスロットルV。
一気に飲み干します。
うえ。
まずい。
やっぱりストロベリー味とか、バニラ味とかに改良しましょう。
術式スロットが四倍になる。
魔力総量三百パーセント増加。
消耗魔力全回復。
空戦機動術式中止。
デコイ術式中止。
警戒アラート中止。
防御隔壁最大パワーで急速展開。
ユニット3をセット。
背中にしょっていたマジックバッグから自動的に、巨大な質量を誇る三十ミリガトリングガンが出現して両腕にホールド。
広域オープン拡声術式発動。
「フルダ正面全戦闘員に次ぐ。直ちに物陰に隠れよ。無駄死にするなよ。生きていれば楽しい事もあるし、うまいものも食える。母ちゃんに生きて会いたい奴は隠れることを勧める。あと五秒、四、三、二、一」
ファイア。
おいしいアイスキャンディーのような火箭が連続する。
一分間に九千発、一秒で百五十発の三十ミリ魔道砲弾が四方八方に発射された。
一見無軌道な射線が交錯。
敵が集まっているところに向かっていく。
これ全部誘導魔道弾ですの。
しかもクラスター式で子爆弾が百発以上飛び散ります。
トロツキーグラードで一度だけ使ったけど、あの時はすごく戦死者が出て。味方も死んでしまいましたので使い勝手が悪いの。
だけど今回は味方が要塞にこもっているからいいわよね。
「大隊長。こちら第一中隊コーネフ。敵ほぼ全滅。さっきの爆発は何だったんです?」
あら。
見えなかったのね。
「めったに使えないウェポンを使った。要塞守備隊には被害がないだろう。多分」
通信が途切れました?
なんだかため息をついて呆然となっている気配。
いえ、これは楽できるという性根の腐った軟弱表現。
「……こちら通信兵。敵の無線を傍受しました。平文です」
「どうした?」
「それが。敵航空魔道連隊が壊滅したと。大騒ぎです。地上部隊も歩兵部隊に大損害が出たようです」
そうでしたか。
二か月かけて精魂込めて三十ミリ弾に爆裂術式を彫り込んだ甲斐がありましたわ。
「それと要塞守備司令から伝言です。暗号通信が不安定で一言だけ」
「なんといっていた? 感謝されてチョコレートの増配ならありがたいが」
「要塞兵をチョコレートみたいに溶かす気か? であります」
◇◇◇◇
聖歴1941年4月17日の空戦日記
愛情深い私のお母さま
スターシャは久しぶりの空戦を満喫して大変すっきりしております。
フルダから帰るときは、久しぶりに魔力切れになりました。
でもそれはとてもいいことです。運動した後の汗を拭きとる瞬間の爽快さ。コップ一杯のお水のなんと美味しいこと。
空戦の後はやっぱりスイーツですわ。
要塞上空でダリア様が作ってくださった甘~い強化ブロックチョコレートを味わったあと、近くの基地に保管してあったプロシアンスイーツを皆さまでいただきました。
ああ、スイーツ。
味方はもとより、敵の皆様にも分けて差し上げたい。
スイーツは世界を救うのです。
今日はフルダ正面を平和にしてまいりました。
もう当分戦闘は起こらないんじゃないかと基地の指令さまがおっしゃっていましたわ。平和はいいことです。
やっぱり良いことをするとお茶とスイーツがすすみますわ。
ではこれからルーシに帰ってナタリーやダリアさまと一緒に、世界をあま~いもので覆いつくす陰謀を始めたいと思います。
今日も良いことをしてお母さまに褒めてもらいたいスターシャより。
◇◇◇◇
先ほど、スターシャに質問がありましたの。
「三十ミリガトリングなんか作れるか。それに持てるのかよ!?」
なんという夢の無いお方。
ガトリングは少年少女のロマンですわ。心にいつもガトリング。愛するあの方のハートを射止めるためにガトリング。
あら、あなたも素敵でいらっしゃるわ。
各種三十ミリ魔道弾のフルコースをお選びなさいます?
それとも★とフォローを押してスターシャをよろこばしてくださいます?
一緒にガトリングのロマンに浸りましょうよ。
きゃ~~ぁははは!!
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