世界征服の発端?
第18話:文豪ブラザースキー・レディー・ド・ハマル【BL注意】
「わぁ、ここがスターシャさまの愛してやまないお母さまのお部屋」
『初侵入。トラップはないと確認。クリア』
今日はダリアさまとナタリーを招いて、私以外入らないお部屋へご招待しております。いつもながらナタリーの秘密警察スキルは重宝いたします。でもどや顔はなさらない方がいいですわ。凛とした顔が台無しです。
そのお部屋。
お母さまが以前住んでいたお屋敷の離れ。
正妻に追い出されてから十五年間。
お父さまはいつ帰ってもいいようにと高度な魔道術式を使用して封印をなされました。
お母さまが以前からお願いしていたこと。
「私が死んだら、あの離れを処分してください。きっとですよ!」
と、普段では考えられない強い口調で懇願したとお父さまからお伺いしました。
きっとご自分の事は忘れて、新しい人生を歩んでほしいとお父さまに伝えたかったのでしょう。
お母さまはなんと優しく高潔でいらっしゃるのでしょう!
「では開けますね。いろいろなものがありますけれど、なるべく触らないでくださいませ」
「ええ、それはもう。大好きなお母さまの遺品ですものね。ダリア、決して触れることはいたしません」
『手を消毒済み。だが接触は不可』
お二人ともなんと優しい方でしょう。お母さま、スターシャは本当に素敵なお友達を得ることができましたわ。
「では、お入りになって」
伯爵邸の離れにしては少し狭い作りです。
お母さまは、
「あの離れは六畳一間のワンルームでした」
と、懐かしそうにおっしゃっておいででした。
「ここが
狭いお部屋です。
真ん中に『お布団』という物がかけられた、足を入れられる作りの四角い家具。たしか「おこた」とか言っておりましたわ。
部屋のはじには狭いテーブルがあり、雑多なノートや本が散らばっています。ブイアァルゴォグルという物がおこたの上に置いてあります。
書棚には色とりどりの、日本語の文字。
厚い本、薄い本。
絵の描いてある本。
帝国では見たことのないカラフルな書棚です。
壁にもカラフルなポスターが。
きれいでかわいい美少女が書かれていますが、リアルな絵ではありません。
なんだかデフォルメされて、目が大きく変な風にきらきら光っています。
髪の毛もピンクや薄いエメラルド、黒と蒼とのメッシュなど。
服もピラピラしていてかわいいのですが、こんなものを着ていたら風邪をひいてしまいそうです。
あとお人形さんもおいてあります。
五センチから二十センチの大きさ。
ポスターと同じような少女のお人形が多いですわ。
お二人はこれを見て最初は後ずさっておりましたが、慣れてくるといろいろな本やお人形を間近に見て観察するようになりました。
「こ、このお部屋にみちあふれているものは異国のものでしょうか?」
『スターシャ様の母殿は異世界から来たと推論』
お母さまはこの国では見られない黒髪でした。
黒髪といえば皇国の民ですが、そこではないとおっしゃっていました。
もっと遠くよ、と。
ああ、お母さま。
またお会いしたいですわ。
皆様に自慢したい。
せめて写真をお見せしようと思い、この前見つけた不思議な板を手に取りました。
「これがお母さま。そこのお人形さんのようなお召し物を着ていらっしゃいますけれど」
触ると光る魔道具のような板。ほかでは見たことがありません。でも高貴なお方や帝国軍の秘密研究所にはあるのかしら。
お母さまのお姿をお見せしようとしたのですが、うまく出てきません。この前はすぐに出てきたのですが。変なところを触ってしまったかしら。
いろいろと画面を触っていましたら、なんとお母さまの声が!
「ふふふ。見つけてしまったようですわね。これを見ているのはスターシャ? それともアンドレイ様? あの陰険女でないことを祈ります」
お二方は完全に固まっておいでです。抱き合ってぶるぶると震えて。
ナタリーは画用紙ほどのメモ用紙に『ブルブル』と走り書きをしてわたくしに見せています。
「お母さま。スターシャですわ。お久しゅうございます。お母さまが亡くなって、もう十年がたちました。お会いしたかったですわ」
わたくしが十年の間、会いたかったというとても強い思いを込めて声をおかけしますが、無情にも通じなかったようです。
「まあいいわ。ここの品は多分スターシャくらいしか使えないでしょうから。よくお聞きなさい、スターシャ。ここの品々は上手に使えばあなたの強力な武器となるでしょう。でも……」
ゴクリ。
「間違って使っちゃったら『ヘンタイ!』といわれるから気を付けてね♪」
た、確かに。
この様式はあまりにも常軌を逸しておりますわ。
でも前に掘り起こしたスロットルVのレシピや、机の前に貼ってあった『いうことを聞かないときのPC調教法メモfor姉貴』という不思議なメモをヒントに転写を可能にしましたから。
「それと。これは絶対に使ってはいけません。本棚の奥にもう一つ本棚があるけど、それを見るとSUN値がガリガリ削れるわよ」
気になります。
人間は「見ちゃダメ!」といわれると、かえって見たくなるとお母さまがおっしゃっていました。
ということは「みなさい」という指示でしょう。
まだ震えが止まらないお二人。放っておいてごめんなさい。
ナタリーの手には
『危険。退避準備』
という周りが黄色と黒のトラ模様の小型プラカード。
スターシャ。これから冒険します。
気を付けていってまいります。
ガサゴソ
ガサゴソ
ありましたわ。
なんだか紙でできた箱に、読めない日本語で『開けちゃダメ』『禁書ボックス』という張り紙が。コミケッタスペシャルとも書かれています。
それを丁寧にはがして中を見ます。
やっぱり日本語は読めませんが絵は見えます。
……ハダカ?
それも紳士と紳士が裸で絡み合っている?
振り返ると肩越しにのぞいていたお二人が、鼻血を出して倒れています。ナタリーの手には血染めのハンカチ。それには『しゅごしゅぎ~』と書かれていました。
わたくしは軍隊生活が長かったせいで何とも思いませんが、淑女にとってはやっぱりショッキングでしたわね。
ナタリーならばク-ルに受け流すと思いましたのに。
気絶しているお二人にシーツをおかけしてから、また冒険を再開します。
これは秘境探検ですわ。
危険な罠がたくさんあるでしょう。
でも負けずに気を付けて進みます。
日本語だけで書かれた普通のご本がありました。
これならば多分普通の内容なのでは?
興味がゾゾゾっと湧いてきました。
でも読めません。
うう~ん。
十分間ほど悩み、ついにわたくしは思いつきました。
好奇心の勝利です!
あの互換機能。
あれで日本語をルーシア語に変換できないでしょうか?
必要は発見の母ですわ。
いつもの操作を何度も試していると、コピーされた薄い本が読めるようになりました!
本の題名は……
ぶぶぶっ。
ぜえはあ。
ぜえはあ。
さすがのわたくしも鼻血が。
その題名は
『イケメン神父。昇天ハレルヤ!』
作者名
『ブラザースキー・レディー・ド・ハマル』
あらすじ
イケメン退役軍人の憂鬱をこれまたイケメン神父が『心と体でもみほぐす物語』
作者様のサインも入っております。
B.L.
?
よくわかりませんが、たぶんお母さまの愛読書ですので、有名な文豪なのでしょう。
ほかにも
『無人島で九百九十九人の美女とパコパコ三昧』
作者名
『ムネスキー・プルンプルン』
というものも。
これはR18変態紳士向けと書かれています。
やっと立ち直ったナタリーが、今直面している問題を、この作品で乗り切れるのではと作戦を提案し始めました。
さっそくお役所で使う用紙にびっしりと書かれた文字が。
『今度の二人目の婚約話の相手。ベッカー伯爵の末娘ツェツィーリアは極度な潔癖症との秘密警察情報。ミハイルが嫌われる材料に使うという作戦を立案。成功確率八十九パーセント』
さすがナタリー。それはいい考えです。
きっと普通のお方なら、この異国のご本はショックを受けて寝込むくらいの異質さ。
必ずやうまくいきますわ。
◇◇◇◇
聖歴1941年4月23日の空戦日記
何度見ても美しいお母さまへ
今日スターシャはお母さまの秘密を知ってしまいましてよ。
お母さまはどうしてあのようなご本や円盤。それにカードや、飾り紐に付けられたお人形などを隠されておられたのでしょう。
素敵ではありませんこと。
わたくしはあまり興味がわきませんでしたが、ダリア様とナタリーは
「スターシャさま、これをお譲り、いえお貸しいただけないでしょうか!?」
『これは大いなるデータが取れる可能性あり』
と興奮しておりました。
ですがあれらの品はお母さまの大事な形見。
いくら
「死んだあとは絶対処分して!」
と言われましても、スターシャには処分などできません。この部屋において大事に保管しておきますわ。
ですのでお二人にはコピーを取って差し上げ、お譲りいたしました。
このくらいは許していただけるかしら。
でもなんだか不吉な予感がいたします。
どうしてなのかしら。
まるで世界に混沌を解き放ったような気持ちですわ。
いつも素敵な淑女であったお母さまに少しでも近づきたいスターシャより愛を込めて。
◇◇◇◇
読者の皆さまにも大切なファイルなどがおありでしょうか。
いなくなった後にファイルを消去できませんでしたら、異次元誘導弾で処分するサービスを承っております。
お代は★10個とフォロー100個でございます。
このくらいは価値がありましてよ。
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