第20話:チョコレートよりもBLのほうが強力でしたわ。第4章終わりですわ
「まあまあ、ツェツィーリアさま。ここは甘いものでもいかがかしら。よろしかったらパンやフルーツなどをいただけません事? そこに塗るととても素敵な味になるものをお持ちいたしました」
嫌々ですがツェツィーリアさまは使用人にパンと冬のフルーツを用意してくれました。一応、パンとドライフルーツは大量にマリアのタンスに常備してありますが、相手の面子もありますものね。
素敵なバラの刺繍がしてある白いテーブルクロスの上に、パンとリンゴが数切れ置かれた皿が皆様の前に置かれました。
マリアが大きなマジックボックスから取り出した重い魔法釜を軽々と中央に置きます。
この魔法釜は底に特殊な発熱術式が彫られており、周りの魔力を集めて発熱いたします。
たしか重さは百キロ近くあった気がします。
マリア。その怪力、素敵ね。
そこにシビれる憧れます。
今度一緒にトレーニングをさせてくださいませ。
きっと今よりももっと大口径な兵器を振り回せますわ。今度は三十七ミリもいけますでしょうか。いまから空戦でぶっぱなすのを空想してワクワク致します。
「皆様、熱いのでお気を付けくださいませ。マリア、フォークを皆さまへ」
皆さまが手にされた長めのフォーク。
これに小さく切ったパンを刺します。
マシュマロという物がお母さまのお勧めでしたが用意できませんでした。今度はレシピをあの部屋から発掘して製作しますわ。
「このパンを釜の中の溶けたチョコレートに絡めて、外に出して冷やします。すると」
この前失敗いたしました溶けたショコラをお母さまのレシピで改善いたしました。スターシャは出来る子なのです。
今度こそはと入念に準備しておりましたが、わたくしはもう我慢できずに、皆さまに手順をご指導するという名目で実食いたします。
ほわあああ。
しあわせ~、ですわ~~~
「では皆さまも順番にいただきましょう」
わたくしのお誘いの言葉を皮切りに、お茶会に参加されている十名あまりの令嬢がチョコフォンデュを召し上がり始めます。
「ほわわわわ~。初めての味ですわ」
「こ、これはクセになるスイーツ」
「いろいろな取り合わせが楽しめますわ」
「きっと夏の果物にも合いますわね」
うんうん。
好評です。
お母さまのお部屋には何でもありますわ。光学迷彩の転写コピーをすれば使っても減りませんし、いろいろと楽しめますわね。
「ふんっ。食べられなくもないわね。小娘にしては上出来ですわ」
ツェツィーリアさまはだんだん貴族にあるまじき言葉を使い始めました。
「そんなに満足したのでしたら、わたくしが用意したものは、いりませんわね。皆さまにとっておきのルーシアジャムを用意したのですが、このような下賤の食べ物にうつつを抜かす貴族もどきにはもったいない」
だんだんと場がしらけて参りました。
ツェツィーリアさまの取り巻きの方々がおろおろし始めました。
誰も場を持たせることができなさそう。
『ここは徹底的に嫌われる作戦発動。例の兵器の使用を推奨』
セコンドからの指令が小さなメモで渡されました。
「ツェツィーリアさま。実はミハイルから贈り物があるのです。お渡ししてもよろしいでしょうか」
そっぽを向きながら、小さく返事をされたツェツィーリアさまに軽く会釈。
アレの入った紙の手下げ袋を渡します。
中を開けたツェツィーリアさま。
思わずのけぞっています。
「な、なんという。破廉恥……はれん……はれ……は。はぁはぁ」
息が荒いです。
これは目だけでなくお体にも毒でしたかしら。普通の令嬢だったら数時間は気絶するものですから。
【イラスト集。男に抱かれたい男ランキング2023年版】
【ネコとタチの美学】
そして
【イケメン神父。昇天ハレルヤ!】
この三冊を贈呈いたしました。
これでミハイルとの縁談は無くなったでしょう。
盛大に嫌われ……
「なんという、高尚な文学と絵画の融合! これはイルミターイ美術館に永久保存されるべき芸術作品ですわ」
ツェツィーリアさまの反応がぶっ飛んでいます。
目が血走っておいでですわ。
「スターシャさま。このご本の作者は何というお名前でしょうか。異国の文字で読めませんの」
はい。
そこは隠しましたわ。
転写する際に、わたくしのセカンドエフェクトが「決して書くな」と言っておりました。
ですがやっぱり教えないわけには参りません。
ツェツィーリアさま。その目が怖いです。
「ブ、ブラザースキー・レディー・ド・ハマルですわ」
「まあ、なんという神々しいお名前。ブラザースキー・レディー・ド・ハマル先生。お慕い申し上げますわっ!! わたくしツェツィーリア、一生をかけてあなた様のいらっしゃる高みに登って見せます。そして世界中にこの作風を伝道してまいります!」
ああ。
なんという事でしょう。
不吉な予感は当たってしまいました。
この世はこれから混沌に満ちた世界になっていく気がいたします。
「ところでミハイルさまは、この作品をどこで手に入れたのでございましょう。お会いしてお伺いしとうございます」
うっ。
まさかの逆効果。
「ミハイルに聞きましたところ、これは東部戦線で拾ったとのこと。なんだか皇国の兵の中で流行っているとか」
「それはよいことを聞きました。わたくしは何としても皇国に参ります。そこでレディ・ド・ハマル先生を探し出してお弟子に……」
わたくしはツェツィーリアさまを、とんでもない道に誘い込んでしまったようです。
ツェツィーリアさまに厳重な口封じをして、この書物を差し上げました。妄信している彼女なら絶対に口を割らないでしょう。
◇◇◇◇
「ベッカー。卿の娘、ツェツィーリア嬢はうまく踊ってくれるか?」
「はい。ナヒモヌフ侯爵閣下。あ奴はプライドの塊。ですが、もう後がないことは十分承知しているはず。今度こそ自分が尻に敷ける相手と判断して納得して婚約に前向きです。必ずやザイツェフをたぶらかしましょうぞ」
ベッカーは海軍軍人としては無能だが貴族社会での暗躍には長けている。
任せておいて大丈夫だろう。
あのスターシャとかいう娘の弱点も探ってくるように指示をするか。
そろそろ尻尾を捕まえねばカタリーナがうるさくてかなわん。
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