第23話:陰謀と厨房と。第5章、終わりですわ

 帝都高級レストラン個室

 海軍元帥ナヒモヌフ侯爵



「卿のところにも情報が来ているか」


「うむ。あの情報であろう。ケルテンを中心としてごそごそと何やら始まっているとか。奴は何をしでかすかわからん。あの極悪策士め」


 やはりな。

 クトゾフの奴もなにか手痛い一撃を食らったらしい。それにしてもベッカーの奴、自分の娘も満足に教育できぬとは。


「お互いケルテンの奴とは完全に敵対関係になったと思って差し支えないのか? ならば我らの仲も考えねばならん」


「卿次第だな。卿の海軍と儂の陸軍では歴史的な因縁がある。それを超えて手を結ぶというのならばな。ワシが」


 あくまで自分が軍閥のリーダーとなりたいというわけか。


 ようするに、この肥え太ったイモムシ陸軍の奴に名声だけはくれてやる。


 しかし実は儂がいただくとしよう。


「ああ、いいだろう。あいつの暗躍をこれ以上見過ごせぬ。なにか尻尾をつかんで叩きのめしてやる。その代わりゼレノアの件、こちらで処理していいのだな」


 儂は海軍工廠の流通下請けなどを一手に引き受ける企業を配下に抑えている。ここに奴の支配下にあるゼレノイ商会から譲り受けた砲弾製造工場を合併吸収させる。


 ゼレノアの奴、ダリアとかいう娘の婚約先選定の自由をいただきたいからと、儂にとりなしを求めてきた。その礼として砲弾工場とは気でも狂ったか。


 やはり平民での考えはわからんな。


 まあいい。

 ゼレノアの奴の首にも鎖をつなげた。


 それを徐々に締め付け、経済においても儂が帝国陸海軍を牛耳る影の実力者となるのだ。


「ところであの連中の後ろ盾だが。ツポレノフの奴が付いたとか。やつは皇太子派。するとやはり我らは第二皇子派を率いることとなるか」


「そうなるな。するとあの老いぼれ宰相の奴とも手を組まねば。内務省はほぼケルテンが押さえておるからな。いつかは奴を失脚させて第二皇子派で実権を握る」


 これで帝国が真っ二つになる。


 もともと分裂を繰り返している国だ。それを押さえていたのは絶対専制君主である現皇帝が優秀だったからだ。


 ケルテンを使った裏からの支配も儂ら貴族の自由を奪った。


「ケルテンの奴にも手痛いしっぺ返しを食らわせぬとワシの気が収まらん。何か策はないか」


 あるにはある。

 こいつとともに動いてみるか。


「あれだ。新規編成をしている奴の配下、ザイツェフ大尉、ああもう少佐か。独立魔道大隊。戦果を欲しがっているそうだ。望み通り陸軍・海軍の激戦地へ送り出してやろうではないか」


「なるほど。娘どもの軍隊ごっこをつぶして、あいつらのほえ面を見るのも一興。誰か戦死してくれれば弔電の一つでも送ってやろう。嫌味をこめてな」


 しかし何を考えているのだ。

 娘どもを戦地に送り出す貴族など聞いたことがないわ。


 貴族の娘は外交カードにすぎん。それ以上でもそれ以下でもない。


 カタリーナと第二皇子との婚約話を急いで進めていこう。


 ◇◇◇◇


 <スターシャ>


「ダリアちゃん、素敵ですわ! もうこんなに腕が上がりましたの? なんでもコピーできそうですわ」


「そ、そんなことないのです」


 目の前の厨房施設に並べられているスイーツを見ながら、ニコニコしながら照れるダリアちゃん。


 いつもながらのスイーツみたいな笑顔。食べてしまいたいですわ。


「ダリア、光学迷彩を使ったスイ-ツのコピーには自信ができましたのですが、イリーナさまの使う砲弾は毎日二発が限度なのです」


 わたくしたちのチームは新編成の独立魔道大隊所属の、強襲打撃小隊という形になりました。


 早い話が大隊すべてでわたくしたちを守っていただき、打撃小隊でジャイアントキリングをします。


 そのための主砲が、今回お父さまの計らいで魔道中尉になったイリーナさまの武器。


 百五ミリ無反動砲。


 単発ですので後ろで弾込めをする必要がございます。これをダリア様が買って出てくださいました。


 現在、厨房にてその砲弾を製造しておりますの。


 百五ミリ砲弾は結構な重量があります。カサもございますので、数が撃てません。ですがダリア様の得意技術、物体コピーを使う予定で少数の砲弾だけで出撃。

 使いきる前に再びコピーして増やす。


 こんなアイデアをナタリーが出してくれました。


『スキームの有効性確認。超強力な魔道弾を作れば作戦立案可能』


 いつもながらのお役所文字で書かれた大きなメモ書きを得意満面な表情で見せてきます。


 今ではイリーナちゃんの魔道弾は、わたくしの二十ミリレベルの威力が出せます。


 ですが問題がひとつ。


 ダリアちゃんもイリーナちゃんも魔力は相当なものですが、演算術式スロットがひとつしかなくて。これは鍛錬をして増やすしかございません。

 士官学校とか、予科練で訓練をするのが普通なのですが。


 わたくしはなぜか生まれたときから六十ありましたの。

 ですから九歳から楽しく戦場遊びができました。


 いまでは百二十個以上スロットがございますわ。それになぜかわたくしだけステータスとかいう物が見えます。これで効率的に術式を発動できます。

 今度ダリアちゃんやナタリー、イリーナちゃんにもできるか試していただきましょう。


「よかったのです。皆さまのお役に立てそうで。ダリア、もっともっとがんばりますなのです」


 ダリアちゃん、かわいい!


「ボク、いえ、小官は空を飛べません。いったいどうしたらよいのでしょうか」


 それまで


「ほ、本当に厨房で砲弾作っているんだ。冗談かと思っていたけど」


 と、顔を青くして物陰に隠れていたイリーナちゃんが恐る恐る聞いてきます。


「大丈夫よ。もうちょっとお待ち遊ばせ」


 ふふふ。


 そろそろ帝都防衛司令官のジュコ-フさまに頼んでおいた『足』が到着する頃ですわ。



 ぶぉおおお……


「来ましたわ。お外に参りましょう。あ、火気を確認してください」


 またイリーナちゃんのつぶやきが聞こえます。


「火気って。火器の間違えじゃ……」


 気にしないのが一番ですわ。




 庭に急きょ構築した飛行場にマリアの操縦する飛行機が着陸。


「お待たせいたしました。五分二十九秒も遅刻してしまいました。この罪、万死に値します。この命を持って償います」


 その『イリーナちゃんの足』から降りてくるなり、操縦していたマリアが片ひざをついて、左肩に付けていたファイティングナイフを首に押し付けました。


「ストップですわ。マリアがいないと作戦行動に支障をきたします。そんなことをされては困ります。それより……」


 あっけにとられている皆様に紹介します。


「これが我が小隊のホームベース、レッドビコント。三座三葉機、推進式プロペラなので前に三人乗れますわ。その最前席にイリーナちゃん。ここで無反動砲ぶっぱなしてちょうだい。全部の魔力と愛を弾に込めてね」


 真っ赤な三葉機。

 素敵ですわ。

 

 これでお母さまの念願であった『レッドバロンに会いたいわ~』に少し近づいたかしら。


 でも男爵バロンにはなりません。イリーナちゃんは子爵ビコント


 いいですわ。

 お父さまにちゃちゃっと肩書を書き換えていただきましょう。


 優秀なお父さまならば、貴族籍もきっと書き換えられますわ。




 ◇◇◇◇


 聖歴1941年5月10日の空戦日記


 お母さま!


 この世は皆さま良いお方ばかりでスターシャ感激しております。


 イリーナちゃんとダリアちゃんとは、『ちゃんづけ』で呼び合う仲になりましてよ。イリーナちゃんはたまに『さんづけ』になってしまいますが。


 イリーナちゃんはまだまだびくびくしながらですが、ご一緒に遊んでくださります。


 この前など白目をむいて急に居眠りをされました。


 わたくしとダリアちゃんがプチプチグミを作ろうとしてちょっとだけ爆発をさせてしまった時です。爆発はあらかじめ空間断層によって封じ込めておりましたのに。


 なかできれいで盛大な花火の花が咲いたのに感動したのかしら?

 明日もよい刺激がありますように。


 常に新しいことに挑戦するスターシャより。



 ◇◇◇◇


「ボク……小官は流れ星になりたくないです。だから★押さないでください。いやです、いじめないでください。あとをついてフォローしてこられると、失神してしまいます。へりょ」



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