みんなで出撃です

第24話:大甘巨砲時代の始まりです

 聖歴1941年5月13日

 帝都南四百キロ

 特別演習場



 ちゅどどどど~~~ん!


 前方の山肌にクレーターができました。


 美容の天敵、ニキビのようなものが山肌にできつつあります。これは後で森林再構築をしないとですわ。でも木を一本一本転写するのは骨がおりますわね。


 そうですわ。

 皆さまの魔力増大訓練に使いましょう。

 魔力は使えば使うほど総量が多くなるという説がありますから。


 でもなぜかしら。

 退役していく魔道兵の皆さまはみんなしわくちゃになっています。


 きっと皆さま人生の大半を魔道兵として過ごされたのですわ。魔道兵の任期は五年ですから、その何倍も働いた愛国者さまばかりなのね。


 わたくしの同期は皆さま二階級特進されたので、魔力総量が育ったことは聞いておりませんが。


 とにかくダリアちゃんの作った甘~い強化チョコレートを食べれば万全です。



「少佐殿。ボク、小官は照準がやっぱり下手です。ごめんなさい」


 イリーナちゃんが二メートル以上ある百五ミリ無反動砲を右肩に担いで訴えてきます。


 頭には飛行帽と照準器付きゴーグル。

 顔の下半分は発射煙ですすけています。


「う~ん。練習を始めてまだ三日目ですもの。これだけ撃てれば順調ですわ」


「照準術式がないのにあれだけ飛ばすとは、さすがお嬢様のご友人。特殊部隊からお誘いが来ます」


 マリアが操縦稈を握りながら、ほめたたえます。


 そうそう。丸メガネは伊達メガネで、実は防弾ガラスだそうです。二十ミリ弾程度ならば跳ね返すとか。ほかにも秘密の機能がありそうですわ。


 さすが戦闘メイドです。


「マリアこそなんでもできてしまうのね。まさか重爆撃機も飛ばせるとか?」


「はい。お嬢様。重爆敵機はもちろんの事、戦車・装甲車・重砲。必要となれば戦艦の操舵もできます。もちろんナイフ戦闘も狙撃スナイパー観測手スポッターも」


「飛ばせるんだ……」


 皆さま、棒読みに感嘆しておいでです。


 本当、安心できますわ。



「う~ん。何か良い方法はないかしら」


 お母さまのお部屋にあった『軍事専門誌』に書かれていた、フォックスⅠ、長距離兵器の半自動誘導セミアクティブミサイルAIM-7『スズメ』。あの転写ができればよいのですが。


 残念ながら、お母さまのお部屋にはミサイルはおいてありませんでした。珍しいこと。ありそうですのに。


「ダリアちゃん。誘導弾は作れません事? 撃ちっぱなしスタンドオフとまではいかなくてもいいの。半自動セミアクティブでもいいわ」


「わかりましたのです、スターシャちゃん。ダリア、考えてみますのです」


 いつもの笑顔が素敵。


 開発の鬼の顔が隠せていいわね。夜中まで研究開発をしているとか。


 ダリアちゃんのお父上ゼレノア男爵さまが、わたくしのお父さまに泣きついていました。


 夜中に娘の部屋から不気味な笑い声が聞こえると。きっと素晴らしい発明が成功したのですわ。


 この純真な笑顔で笑われているのでしょう。


『……』


 地上にいるナタリーから無線が。


『帝国データ銀行バンクとのリンク開始』


 カールの単眼鏡と似ている、なんでもわかるメガネにバージョンアップしたのかしら。


 どのような仕組みかわかりませんが、魔道通信で帝国情報をすべて閲覧できるという優れもの。


 敵側情報もある程度知ることができます。


『このデータをもとに精密誘導可能』


 それもすごいですが、このナタリーの通信が不思議ね。

 わざわざ小型ブラウン管を持たせられて『それを読んで』とか言われ書かれました。メモが見られないでしょうと、皆さまに一つずつお配りしていましたわ。



 そうですね。


 ナタリーは魔力も少ないし、演算スロットは一つ。

 ですから地上でなにかできないか考えておりましたの。誘導だけなら魔力もいりませんので地上からできるかも。


「ではダリアちゃんに今度作っていただきましょう」


 そう。

 あくまでもわたくしは影の存在。


 できるだけ戦果をあげないで、イリーナちゃんが大戦果をあげるの。

 それで立派な紳士としてデビュー!


 完璧なシナリオですわ。


 ◇◇◇◇


 数日後



「スターシャさま。できましたのです! 誘導弾」


 ダリアちゃんがハアハア言いながら、南部避寒地にあるケルテン家別邸のサンルームに入ってまいりました。


 いま四人でチームワークを高めるためという楽しいお泊り会……げふん。強化合宿をしております。


 もう雪は降らなくなりましたわ。

 代わりにほこりだらけ。


 ダリアちゃんの肩のほこりをマリアが払います。


「まあ、どんなものですの?」


「すごいのです。二種類できましたです。一つはナタリーちゃんが目視で誘導する手動の無線誘導弾です。そして二つ目は」


 ダリアちゃん、二つ目には自信がありそう。

 この前教えて差し上げたサムズアップをしておっしゃいました。


「全自動弾なのです! 狙った獲物は必ずしとめるのです。多分、猛スピードで前に飛ぶのです」


「多分、前に。なんですね……」


 イリーナちゃんが青くなっていますが気のせいですわ。


 実際に試してみないとわかりません。

 当たり前ですわ。


「ダリアちゃん。詳しいお話をお願いします。陸路でインディー諸国からの密輸品のお茶が入りましたの」


 マリアがお茶を入れてダリアちゃんの前にティーカップを置きます。では優雅なお茶会を楽しみましょう。だってわたくしたちは普通の貴族令嬢ですもの。



 ウウウウウーーーーー!!

 ウウウウウーーーーー!!


 おや。空襲警報ですわ。


 いったいどこにくるのかしら。


『報告が遅延。0910時通達、合州連盟の長距離重爆撃機B-13、十二機。南方ヒマララ山脈を越えて南部の油田地帯を目指して進撃中』


 一緒にとなりでお茶をいただいていたナタリーが片眼鏡をいじりながら最近使いだした黒板にチョークで書いて知らせてくれました。


 B-13ですか。

 東部戦線でさんざん墜としましたわ。


 よい練習相手になりそうね。


「ここからちょうど二百キロというところかしら。イレーヌちゃん、準備は良いかしら?」


「だ、大丈夫……だと思います。小官は頑張りますです」


 よかったわ。

 では初の実戦です。


 見せてもらおうか、ダリア製新型魔道弾の性能とやらを。


 戦闘前の慣用句だとお母さまのご本に書かれていたセリフを言ってから、レッドビコントに向かいました。




 ◇◇◇◇


 聖歴1941年5月13日の空戦日記


 お母さま!


 ダリアちゃんは天才ですの。


 お母さまの愛読されていたらしいボロボロになった軍事雑誌。

 たしか『丸い』でしたっけ?


 あれに書かれていた、元ニホーン軍の誘導爆弾。


 それに近い魔道弾を作ってしまいましたわ。


 ニホーングンの誘導爆弾はご婦人のお風呂に突っ込んで『エロ爆弾』と呼ばれたとか。


 それをお話したらダリアちゃんったら


「ではわたしの魔道弾は殿方用のお風呂を直撃する性能を目指すのです!」


 とか。


 何か違うと思うのですが、誘導兵器が出来上がりましたわ。


 あなたの好きなものが大好きになりつつあるスターシャ。

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