第25話:一発必中ですわ【戦闘回】第6章、終わりですわ
聖歴1941年5月13日
ルーシア帝国南部バーク油田地帯上空
合州連合ブラザー・ピルグリム中佐
「このB-13もそろそろ旧式になりつつありますね」
となりで操縦稈をにぎる操縦士、バクスター曹長がぼやく。
「仕方ないだろう。初飛行からすでに七年たっている。それでも防弾能力は皇国軍の紙装甲陸上攻撃機の数倍はある。めったなことでは墜ちない」
帝国との戦いで、総兵力で負けている合州連合が有利に立てたのは、この長距離爆撃で敵の輸送網を叩いたことにもよる。
しかしそれは奴のいないコースを取らないと成功しなかった。
「さすがに例の死神はこの南部方面にはいないでしょう。気楽でいいです」
「ああ。だいたい奴は死んだはず。連合王国のガセネタで『奴は地獄の底から這い出てきた』と言っていたが、サンクスデージョークにしてはタチの悪いジョークだったな」
去年冬の大攻勢では、帝国の東部主要都市トロツキーグラード占領目前まで行った。
敵三十万の兵を包囲、降伏寸前まで追い込んだのだ。
この大軍が戦場から消えれば、圧倒的な優位に立てたはず。
これを一人の少年兵によって邪魔された。
殲滅のウリエル。
あいつだ。
その機動性。
火力。
隠密性。
継戦能力の高さ。
全てが人類離れしている。
奴の行くところに重爆撃機が突っ込んでしまった時には悲劇が巻き起こる。
詳しくはカウントできないが、奴に撃墜されたB-13は五十機を超える。
重爆隊だけで四百名近くが戦死・負傷、あるいは捕虜となっている。
まさに合州連合の天敵だ。
「中佐、腕がなりますね。今回は初の戦略爆撃。帝国の柔らかい腹を直接たたく」
「そうだ。敵の継戦能力をじわりじわりと削り取る。今回は石油精製施設の破壊だ。これでシベリー戦線の奴らが助かる」
敵の反転攻勢が戦線を大きく後退させてしまった。
そろそろ帝国も補給能力が限界になっているはずだ。それに加えて燃料がないとなれば攻勢はとん挫する。
「そろそろバーク油田の上空に近づく。コンバットボックスを作る。三個編隊で大型密集陣を形成しろ」
さあ戦略爆撃だ。
広大な帝国領土があだとなっているな。
迎撃などできないだろう。魔道兵はいないはず。
だが念には念をいれて。
「敵魔道反応はあるか?」
「いえ。全く……ウガッ。なんだ。この巨大な魔力は。鼓膜が破れる!」
観測員が急いで外して放り投げたのレシーバーから、ここからでも聞こえる大きな受信音が聞こえた。
「方位は?」
通信兵が代わって計測。
「方位西方、距離五十。何かを発射した。すごい速度だ。来る!来る! 着弾!」
左を飛行中の第二編隊前方で巨大な爆炎が!
全編隊がその中に入っていく。
「損害知らせ!」
爆炎を通り抜けた。
左右を見る。
いない。
三十六機のB-13。
半数は黒煙を上げて墜落中。
残る半数はよろよろと飛行している。
たった一発だと?
たった一発で重爆撃機三十六機が無力化された。
次に攻撃を受けたら全滅する!
「ば、爆弾投棄。各自進路を取り散開しつつ緩降下。帰投せよ」
ガッデム!
高射砲ではない。
発射地点は西方上空千メートル以上だった。
新型兵器か。
情報局は何をしていた。
だがまだ開発途上なのだろう。
次弾は来ない。
この兵器が実戦配備されたら、それこそ殲滅のウリエルが大量に発生するような状況になる。
ラストベルトの直下は重爆の墓場か。
近い将来、戦略爆撃ができなくなるかもしれないな。
◇◇◇◇
「イリーナちゃん。しっかりして!」
わたくしはレッドビコットの三座席のうちで一番前に座っているイリーナちゃんのところまで駆け付けた。
さっきまで主翼でお座りしていたの。
最後尾のマリアの操縦の邪魔にならないように、そして中間座席に座っているダリアちゃんの頭をけ飛ばさないように、急いでイリーナちゃんの背中を支えました。
「す、すみませんなのです。ダリア、つい趣味に走ってしまいましたのです。イリーナちゃんの魔力がものすごく多いのがわかったので、それを全部一発にこめて近接信管でやっつけようとしたのです」
ダリアちゃんが必死に、ごめんなさい、ごめんなさいをしています。そんなダリアちゃんもかわいいですわ。
「戦果は……っと。三十六機全部引き返して、半数は撃破。そのうち半数を撃墜。残りはヒマララ山脈を越えられないわね」
大戦果と引き換えに、イリーナちゃんは白目をむいて気絶しています。
「イリーナちゃん、喜んでくださいませ。これで英雄子爵イリーナ中尉の誕生ですわ」
イリーナちゃんの両肩を持って揺さぶります。
でも起きませんわね。
完全にお昼寝しています。
これでは地上の戦いは危険です。
やっぱり航空魔道兵で正解ですわ。
「ボ、ボク。どうしたのでしょう。体に全然力が」
頭をゆすりながらもイリーナちゃん、目をあけました。
「イリーナちゃん、さすがなのです。ダリア、憧れるのです。気絶していても無反動砲は落としませんでしたなのです。スターシャちゃんのお母さまのご本にあったものをマネすると『イリーナちゃんは死んでも百五ミリは放しませんでした』なのです」
あの話ですわね。
でもその注釈には「お歳を召した方以外には通じません」と書かれていましたから、使わないようにしましょう。
同じようなもので
「一発必中魚雷を抱え 女度胸は雷撃機」
という詩もございましたが、これもやめておきましょう。
「さすがスターシャお嬢様のお友達。魔道兵大隊が全力で攻撃しても上げられない戦果をたった一発であげるとは」
マリアに褒められたということは危険ですわ。
「マリア。言っておきますがイリーナちゃんは特殊部隊にスカウトされては困ります。ほかの部署にもだめですよ」
「は、残念ですが承知いたしました」
ふぅ。
これでイリーナちゃん英雄化計画も第一歩を踏み出せました。
あとはどのような作戦で使うかです。
誘導弾はまた後で使うとして。この全自動? ではない気がしますが、とにかくすごい速度で直進することで回避不能のうちに近くで大爆発を起こして撃破する撃ちっぱなし砲弾。
一発しか使えないのですから、逆襲されたとき困りますわ。そのサポートはやはり新編成の独立魔道大隊にしていただきましょう。
わたくしは最終防御線……。
あ、それではわたくしが全然空戦できません!
作戦をもっと危険の伴うものにして、わたくしも遊べるようにいたしましょう。
◇◇◇◇
教養深いお母さま
ダリアちゃんったら、お母さまに心酔されていますわ。
お母さまのお部屋にあったラノベとコミック。そしてアニメ。
その影響で、『一発必中のドラマ』という物にとりつかれてしまいました。宇宙戦艦やボクシング。ファンタジーの片眼帯ヒロインなどが一発撃つと攻撃力がなくなるのが萌えるのだそうです。
「あの素晴らしい爆裂砲弾に降伏を!」
などと言って、高笑いをしておりました。
イリーナちゃんの無反動砲。たった一発しか撃てませんが、威力はわたくしの二十ミリの百倍はあります。
これからいろいろな作戦を立てられます。
砲弾の改良ももっともっと楽しみたいとダリアちゃんの目が言っておりましたわ。
きっと今晩もダリアちゃんのお部屋から「ふふふ。きゃぁ~っはっは!」というかわいい歓喜の声が聞こえてくるのでしょう。
ニホーンの伝統芸術をこよなく愛するお母さまへ感謝をお送りします。
◇◇◇◇
「ダリア、ニホーンのアニメ大好きなのです。葬式のフリードリッヒとか、魔術海鮮、ガルパンダなんかが好みなのです。どなたか送ってくださいなのです。だめなのです? でしたらエラエラ☆彡流星のようにいっぱい★を届けてくださいなのです!」
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