第3話:スイーツの仇は空戦で

「仕方ありませんわ。皆さま、お口直しに、わがナヒモヌフ侯爵家お抱えパティシエの三番弟子が開発した新しいスイーツを。これは遠くフランセ国の王室に伝わっていたマカロンと言って……」


 いちいちもったいぶって説明するカタリーナさま。あれが貴族の嗜みなのですね。了解コピーしました。

 

 皆様が欠伸をするくらい念入りにするのがコツのようです。


 

 頃合いを見計らって、まん丸なお菓子が乗ったお皿が皆様の前におかれます。


 美味しそう!

 これがマカロン!

 Z・O・Y絶対おいしいやつ!!


 下町でも最前線でも甘味はほとんどありませんでした。ブロックチョコが至高の存在!


 私は伯爵家に引き取られて、初めてこのスイーツという異次元の食べ物に出会いました。


 これは人間の索敵網に有効な打撃を与えるための補助兵器ですわね。一瞬、目がくらみました。意識をこれに向けさせるジャミング。なんという悪魔的な兵器。


「このスイーツは……。形は……。色は……」


 延々とカタリーナさまの熱血演説は続きます。


 だけど、そんなのどうでもいいのです!

 早く口に入れたい、放り込みたい。


 しかしナタリーからの静止が。


『お嬢殿。「どうぞお召し上がりになって」コマンドまで食べるのは不可』


 という捕虜に対する拷問官のような言葉のメモ書き。


 ナタリーったら、今度秘密警察への勧誘をお父さまに進言いたしましょう。


 あら、忘れておりましたわ。ナタリーのお父さまが秘密警察の長官でした。



 永遠と思われる拷問の時間が過ぎていきました。しかしその時間は唐突に終わりました。


 ウウウウウーーーーー!!

 ウウウウウーーーーー!!


『空襲警報発令。帝国臣民につぐ。直ちに近くの堅固な建物に避難せよ。繰り返す……』


「く、空襲ですって? 戦争はずっと遠くでやっているんじゃ……」


「だ、大丈夫ですわ。お父様が帝都の守りは万全といっておりましてよ」


「セバス、セバス! 私を安全な場所に!」


「どきなさい。伯爵令嬢の私は、男爵令嬢のあなたよりも早く逃げる権利がございますわ!」


 お茶会の庭園は大混乱になりました。


 カタリーナさまは令嬢の皆様にもみくちゃにされ髪型が爆発ヘアに。押し倒されてバラの埋まっている花壇に頭から突っ込んでいました。


 痛そうですわ。 

 今度、敵の八十八ミリ高射砲弾が当たっても傷がつかない防御障壁の作り方を教えて差し上げましょう。


 皆様の慌てようを冷静に観察して、貴族とはいざというときには、ああいう慌て方をしなくてはいけないのかと冷静に観察しておりました。


 しかし私も足元を見て愕然とし、皆さま以上に慌てました。


「私のマカロン!」


 丸いマカロンはテーブルから転げ落ちて、令嬢がたの足元にコロコロ。パンプスに蹴り飛ばされ……


 思わず四つん這いになって両手でグワッシとつかんでしまいました。


 ああ、なんと罰当たりな。


 踏み潰されたマカロン様は、戦場で砲撃にさらされた後の掩体壕のように、ぐちゃっとつぶれています!


 これでは下町の三秒ルールも使えなさそうです!


 おのれ、敵爆撃機。


 帝都の、いえマカロンの防空能力をなめてはいけません事よ!


「カール。敵戦力は?」


 後ろに控えていた執事カールを振り向き、迅速な状況報告を求めます。


「は。帝国の仮想敵国、連合王国の義勇空軍と魔道兵部隊かと。

 ランチェスター重爆撃機十二機。航空魔道兵一個大隊。帝都西方十kmを高度三千にて進撃中。速度二百五十。

 あと五分三十二秒で宮殿上空に到達予定にございます」


 詳細な戦闘情報を、慇懃な態度で無表情に伝えてきました。相変わらず、どこで情報を仕入れてくるのか不思議な有能さです。ナタリーと似たような単眼鏡モノクルが似合っています。


 さすが情報局の元エリート。

 もの言わぬ洗練されたバトラーの顔に、単眼鏡モノクルがきらりと光ります。


「では上がるわよ。マカロンに仇名すものに正義の鉄槌を!」


 周りを見渡すとカールとナタリー以外はみんな逃げ散っていました。

 ちょうどいいですわ。物陰に隠れて変身する必要がない。


「二十ミリを」


 それを聞いたカールは武器アイテムボックスから、全長百八十センチある二十ミリ対物ライフルを出して私に渡してくれます。


 渡してもらった軍用の演算装置を内蔵したゴツいポーチを腰につけて操作すると一瞬にして豪華なドレスが収納され、代わりに正規品をチューンナップした帝国航空魔道兵の装備が体に吸着します。


 足には漆黒のひざまでの魔導兵用編み上げブーツ。

 その上には白い乗馬ズボンのふくらみ。

 片袖を通しただけの、ボアのついた黒い軽騎兵ジャケットを背中に払う。

 額には横長のパイロットゴーグル。


 私の能力の中で一番自信のある光学迷彩によって、生意気な悪ガキの外見にマトリクスを書き換え。


 理由?

 女性兵士だと侮られるじゃないですの。

 深夜に寝床で襲われるとかはめんどくさいですわ、撃退するのが。


 ごつい兵士ということも考えましたが、質量が違いすぎるとずっと擬態しているのが大変で。


 なので私本来のゆったりと後ろに垂らした三つ編み銀髪をボサボサしたショートに。

 目の色も紫から真っ赤で吊り上がった目に。

 身長と体重はほぼ同じの百四十センチ。体重はないしょ、という少年兵が戦場上空を飛び始めました。


 極寒の東部戦線の一月、地獄の十日間。

 トロツキーグラード攻防戦の包囲網を食いちぎる打通作戦。その先陣を切って戦ったエースもこの少年兵、ということになっています。


 その後、伯爵であるお父さまの権力で戦死したことにしたの。

 その少年兵が、今甦り帝都上空を守る。


 いえ、私のスイーツを守るの!

 

 ワクワクしますわね。

 空戦終わってお家に帰ると、きっと甘いお菓子が待っている。


『お嬢殿。貴族令嬢に相応しいふるまいをとの伝言あり』


 ナタリーが伝言を書いたプラカードを掲げて指示をしてきます。


 え?

 空戦しいているときの私は令嬢ではないわよ。

 空の狼。

 敵を食いちぎるのが生きがい。


 さあ、行くわよ。

 空戦が私を待っている。

 お茶会バトルよりもはるかに楽しいお時間。


 私の唯一の趣味であり特技である空戦。


「きゃ~っはははっ! 空戦、気持ちいいいいいい!!」


 私はブーツの底に刻まれている魔道術式に魔力を流し込み、急速上昇を始めました。



 ◇◇◇◇


 聖歴1941年2月3日


 お母さま


 無敗の兵士であるはずのわたくしは見事なまでの惨敗を喫してしまったようです。


 お茶会へ持っていく手土産。わたくしの心のこもった品々は非常に不評でした。どうしてなのでしょう。実用性を考えて選んだのですが、貴族社会というものは別の物差しがあるようです。


 やはりスターシャには難しい世界のようです。

 下町ならばきっとギャングを壊滅させたり、地下組織を牛耳ったりと楽しい生活ができたはずでしたのに。


 軍隊生活も性に合っていました。


 でもこれもお母さまの願いである「貴族令嬢として幸せになってね」というイシューをソリューションして、ディメンジョンのアップデートによるセルフトランスフォーメーションでビレンズドーターになって見せますわ!





 ◇◇◇◇


 ビレンズドーターでいいのかしら。

 あなたはご存じ?

 わたくし英語が苦手ですの。ルーシア語しかわからなくて。


 もしお分かりになりましたら★を3つつけてくださらない?

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