第32話:お呼ばれしておいてお茶ひとつ出していただけないなんて【戦闘回】第8章、終わりですわ


 <先ほどの戦い。スターシャ視点>


 1942年4月5日

 グダヌスク軍港航空基地



 飛行場にはいくつものクレーターがございますわ。埋め戻すのが間に合わないみたいです。


 相当な空襲にあっているみたい。連合王国海軍の航空艦隊は働き者さんですわね。


「少佐殿。全員集合いたしました」


 スピード出世で大尉に昇進したお砂糖ヴィクトル・コーネフ副指揮官がわたくしを呼びにまいりました。


 なんだかうちの隊に来たがらない中堅将校さんが多いそうです。大量にチョコレートを食べさせるから? そんなに甘いものが嫌なのかしら。

 なのでどんどんベテランになっていく隊員たち。


 本日は海軍様の手助けをせよとのご命令。


 連合王国海軍のお茶会は素敵だとの評判。

 スイーツはあまり期待できないけれど、素敵なお茶が取り揃えてあるとか。さすがお茶の産地インディー諸国を支配下におさめている王国。


 先日、素敵なことに、連合王国からグリーティングカードが添えられたビスケットが届けられましたの。


 なぜかザイツェフ少佐あてでしたが、これはご家族にプレゼントしてほしいという暗号ね。


 さっそくお茶会を開いて、みんなで食べました。

 連合王国の皆さまも気が利いていますわね。今日の艦隊の方々もお茶とスイーツを出してくださるかしら。



「全員、傾注! 大隊長よりお話がある」


「諸君、我々は敵味方双方に大分好かれているらしい。陸海軍、そして我が空軍からも指令が来ている。グダヌスクの封鎖をとけ。とな」


 ざわついている四十八名の隊員たちをコーネフ大尉が鎮める。ダリアちゃんたちは静かね。イリーナちゃんなんか白目をむいて直立不動ですわ。


「なに、連合王国の海軍は戦艦わずか八隻だ。艦載機も四百機程度。魔導兵部隊もたかだか四個連隊。精鋭の諸君らが一人一隻沈めれば撃滅できる」


 またざわつきます。

 よほどおしゃべりが足りていないようですわね。今度一日中早口言葉の練習をさせましょう。

 きっと素敵な活舌で無線通信ができましてよ。


「ただ今から各員に支給されるものは極秘兵器である。決して敵の手に渡してはならん。もしその危険があればそれを抱えて自爆せよ」


 おびえる隊員たちをナタリー少尉とダリア少尉のところに来させて、あるものを渡していく。


 それ、おいしいのよ。


「それは魔力増強剤。そして十キロ魔道爆弾だ。魔力増強剤は一見して一口チョコレートであるが、精錬された強化チョコレートの中心部にスロットルVが含まれている。それを爆弾投下の直前に飲み込め。沸き起こった魔力は全部爆弾につぎ込む。すると」


 右手で爆発をまねます。

 ぼんっ。


「想定爆発はTNT火薬で三百キロ。航空機投下用爆弾で五百キロ。砲弾ならば三百八十ミリ砲弾に匹敵する」


 あらあら、皆さま固まっておいでです。


 もっと早くにお渡しいたしたかったですわ。

 でも直前までダリアちゃんが改良に改良を加えておりましたの。おかげで大分威力が増しました。


 安全性は半分以下になりましたが。


「空軍の選抜魔道大隊二個が敵と交戦中に東をすり抜け、なるべく敵艦隊中央に接近。そこで特殊攻撃部隊が秘密兵器を使う。その時に巻き込まれないようにあらかじめ魔道波阻害シールドをできる限り多層展開。秘密兵器にパワー負けしたらハエのように落ちて海で溺死するぞ」


 秘密兵器とは無反動砲で飛ばす魔力の大暴走を起こす魔道弾ですわ。


 周りのすべての電子機材、それと魔導師の感覚をマヒさせます。そのすきを突いて四十八人の増強大隊が敵の戦艦に突っ込みます。


 戦艦一隻に八人。

 八発も大口径砲弾を急所に打ち込まれたら、どんな戦艦も大破します。連合王国の戦艦は速さが強み。防御力は帝国の戦艦よりもはるかに劣ります。


 六隻ほど航行不能になれば、あとの雑魚はバルティー艦隊が何とかするでしょう。


 え?

 あと二隻?


 それはわたくしのメインディッシュですわ。

 楽しませていただきます。





「ナタリー。準備はできているかしら」


 軍港の見晴らしの良い建物に登っているナタリーに連絡を取ります。


『問題なし。敵の艦隊一望の元。目視、レーダー、潜水艦情報すべて良好』


 わたくしたち四人前にあるブラウン管に文字が浮かびます。秘密警察の予算をこの開発に流用したとか。やりますわね。


 それにしても、なんだか目が回りそうな情報量ですわ。それを悠々と処理してしまうなんて、さすが秘密警察長官の娘。ゆくゆく楽しみです。


「ではマリア。操縦をお願い。皆さまも準備は大丈夫ですの?」


「ザイツェフ少佐殿。ここはきちんと軍隊口調で」


 いけません。

 マリアに怒られてしまいました。


 気を付けませんと。

 戦っているときなど、ついつい貴族言葉になっているみたいですもの。


 気を付けて丹念に全滅させないと、スターシャだということがばれてしまいます。


 ケーキを食べるときのように脇をしめて全身の気をこめ、精いっぱい頑張ります。





「ま、魔道ジャミング弾。発射します」


 イリーナちゃんは無反動砲を、レッドビコントの機体中心軸よりもちょっと左へ向けて構えます。


 これをまっすぐに前へ向けて撃つと、後ろの席のダリアちゃんが丸焦げになります。


 あとで改良しなくては。


「いいわ。ナタリー。誘導準備」


 今回の魔道弾は無線誘導で飛んでいきます。

 ナタリーのところに集まる情報を元に、精密な誘導をしていくの。


 まだ数回しか実射試験をしていませんが、ナタリーはすべて命中させました。お母さまの故郷の近くの国で行われているロケット実験とは成功率が違います。



 発射された誘導魔道弾は極超音速で飛翔。わずか数秒で敵艦隊中央部に到達。その爆発が周囲の機器をつぶしていきます。


 さあ爆発ですわ。


 きいいいいいいいいん!


「レッドビコントは基地へ帰投せよ。大隊諸君はお楽しみの時間だ。艦隊を撃破するなどという機会はめったにない。推進術式に全回路・魔力を投入。最大戦速で突っ込むぞ。黒色魔道兵前進せよ! 勝利の女神は貴様たちに投げキッスをしているぞ」


 最近統一した黒い戦闘服の一団が急加速。

 速度四百まで一気に速度を上げる。


 わたくしはお先に参りますわね。


「私は先に進路の邪魔ものと旗艦をつぶす。各員自爆などという無様なことになるな。確実にしとめろ。自爆などしたら今晩のおかずはすべて特別甘いスイーツをつける。喜べ」


 蘇生用のスイーツも開発中だと、ダリアちゃんが言っておりましたわ。不老不死の薬剤を合成できるのも、そう遠くないと思います。


 なぜか気持ち悪そうに、がぜん張り切り始めた皆さまをおいて防空駆逐艦の艦橋に突入。

 部下の突入路の確保です。


 艦長らしき人が拳銃を向けて参ります。

 いやだわ。

 そこはお茶のポットをスッと差し出すところよ。


 いいですわ、自分で探します。


「やっほ~。お呼ばれにきましたわ。スイーツはどこかしら」




 残念。探しても見つかりそうにありませんでした。きっと小さなお船だったからよね。


 旗艦の戦艦ならあるはず。

 せめてお茶だけでも。



 ばりばりばり!


 ちょっと固いガラスを魔道スコップ、グリムレイパーで破壊。

 お茶会の部屋に入りました。


 ですがやっぱりここにもございませんわ。皆さまお茶ではなく、銃弾でのお出迎え。お返しには七.七ミリ弾をばらまきます。


 ほとんどの皆さまには楽しんでいただけたようです。では大もの、初戦艦ですわ。空戦ではないけど、これも楽しみのうちかしら。


「ひゃぁああははは! 初の大もの。沈んでしまいなさい。百二十七ミリ徹甲榴弾。久しぶりに使うわ。発射!」


 艦橋から一直線に艦底まで串刺しにした、私の最大級の魔道弾が弾薬庫付近で爆発。並べられた三百八十ミリ砲弾が誘爆を起こし始めました。


 ここにもなかったわ。

 私のスイーツ。

 せめてお茶だけでも見つけなくちゃ。


 お茶を入れてくれれば助かるのにね。

 残念だわ。




 ◇◇◇◇


 聖歴1941年5月30日の空戦日記


 お母さま、ひどいのよ。


 連合王国の皆さまったらお茶会に誘っておきながらスイーツどころかお茶すら用意していませんでした。


 スイーツが出てまいりましたら、あんなことはしなかったのですが。ちょっとした仕返しに戦艦一隻を沈めてまいりました。


 あの後、戦艦五隻大破。航行不能になったのだけど、なぜかバルティー艦隊は敵前で謎の転進。


 その間に復旧して逃げてしまいました。


 帝国海軍の皆さまは基地になにか忘れ物を取りに行ったのでしょう。

 完璧主義者の集まりなのですね。


 今度は完璧に撃滅することでしょう。


 完璧でなくてもいいのでお茶を飲みたかったスターシャより。

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