第6話 秋田の夜空を翔る星の謎を追え!

第6-1話 秋田の夜空を翔る星の謎を追え!【事件編】

 甲子園で高校球児が熱戦を続ける、お盆の最中である。

 梅雨の長雨が上がると、気づけば猛暑と熱帯夜が続く真夏になっていた。

 お盆も過ぎれば、夏は終わるという話は十数年前までの話で、今では残暑もきっちり延長戦をしてくる。

 ここ、秋田県大館市おおだてしも夏の延長戦に入っている。


 朝のうちに、墓参りは終わっている。

 津軽つがる圏で有名な法界折は、大館でも墓参りあるあるだ。

 今年の墓にあげたヤクルトの飲み物は、ホームズさんの腹の中に納まっていた。法界折の食品は、昼ご飯代わりに、全部、私が食べた。

 そんなこんなで昼下がりの自宅だ。珍しく私から旧友ミヒロへ電話をかけている。煩いセミの音より、ミヒロの返事は早かった。


「レナっこ、病み上がりだろ……あたしは遊ぶのをやめておくわ」

「おめが夏休みの宿題が終わってねぇんだべ」

「あたしがそんなことするか? いや、しないね。ちょっと野暮用だよ……めんどくせーけどさ」

「んだが……」

「あらあら~、寂しそうですねぇ。レナっこちゃんが私を構ってくれないの~的な?」

「んなわげあっがい!」


 アッガイ! 

 せっかく察したのに、旧友に煽られて、私は怒ってしまった。

 ついでに勢い余って、通話を終了させてしまった。スマートフォンの黒い画面を見つめていた。

 そういえば、ホームズさんは今どこで何をしているんだろうか。

 何気なく外に出ると、久々に眩しい晴れ空が広がっている。午前中の曇り空は何処かへ消えてしまっていた。

 家の庭にある車庫の奥から、ホームズさんたちの声が聞こえた。父と何か話しているようだ。


「原付とゆーには、ずいぶんでっけぇもんだな!」

「エルフ年齢では乗れます」

「お、ソナと何処さが行ぐんだが?」

「ミツハルさん、声が大き……あ……ソナタ君に見つかったぁ!」


 ホームズさん、エルフ女性64歳が年不相応に子供っぽく怒っている。

 うーん、年相応なのか? 

 私は彼女の可愛い面に、少し笑ってしまった。当然、頬を膨らませて、彼女は怒って物申す。


「そんなにおかしいことかい?」

「いんや、夏休みだど、真面目に考えでらんだなーって。んだばって、何処さ行ぐんだ?」

「当てのない旅さ」

「格好つけたつもりだども、場所だば決まってらんだべ」

「あぁ、そうだよ! ヘルメットかぶって、乗った! 乗った!」


 気障な台詞も、ド滑り。エルフさんはまた顔を真っ赤にして、私にヘルメットを押し付けた。

 原付バイクって2人乗りできるんだ。

 まぁ、このサイズ感からできるタイプだろうけど。ヘルメットをかぶった私は、後部席に乗った。

 父が「気ぃつけでな~」と軽く言う辺り、事情を呑み込んだ様子だったので、私も納得した。 

 ホームズさんは彼女なりにドラマチックな演出がしたいのだ。

 もちろん、全て計算済みなのだろう。私もつべこべ言わずに、状況を楽しむことにした。

 国道7号線をだいぶゆっくり走るバイクのおかげで、稲が青々と成長してきた田んぼと奥に見える山の風景を眺めていられた。

……しかし、いつまで同じ景色を見ればいいんだろうか。

 ちょっと、レナの運転は安全速度過ぎやしないだろうか。

 慎重すぎる運転で、夕方に近づいて、JR鷹ノ巣たかのす駅へ到着した。

 綴子つづれこ太鼓の看板が目立つJRの鉄道駅。

 いや、その隣の方から、原付バイクを停めたレナが手を振る。そこは秋田内陸線の鷹巣たかのす駅だ。


「ソナタ君、阿仁あにへ行くぞ!」

「今から阿仁あにさ行ったら、日が暮れて次の日さなっど?」

「あぁ、今夜は寝かさないぞ?」

「ふぇ?」


 狙って台詞を放っているのだとしても、今日の探偵エルフさんは気障すぎる。

 私には刺激的なのだ。エルフさん、表情を変えずに駅中へ入っていく。

 一方で、私は目の前に秋田内陸線の列車がやって来ているのに、衝撃のあまり意識がハッキリとしていなかった。

 でも、ホームズさんに手を引かれて、初めて乗る列車は悪くなかった。

 秋田内陸線、鷹巣たかのす発→阿仁合あにあい行。


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