第1-2話 ばっけ味噌ライスボールの謎を追え!【推理編】
ふきのとうに限らず、山菜は適切に灰汁抜きをしないと、苦い上に大量摂取は身体に毒だ。
さらに見た目に騙されて、もしくは狙いと別の種類を食べて、食中毒案件といった事態である。
山菜やきのこでは間違いやすく、日本全国ではよくある食中毒だった。
日本人は貧しい時代を過ごした結果、食文化が海外の国より特殊化しているようだ。
食に関する知識と経験は、数々の犠牲の上にあった。
食中毒事件になる危険性が下がっただけ、今は幸せな時代だろうか。
エルフさんは、顔を離す。そして、少し脱線した推理を披露し出した。
「ふきのとうは、バターバーだろう。あれは、肝臓の毒だと、身内のエルフが言っていたぞ」
「あー。西洋フキの話だがー。ちょっと画像見てみ」
私はスマートフォンの写真フォルダを見せた。
ふきのとうは、黄色い花だ。西洋フキは、紫色。
花が咲く前のふきのとうの蕾でも、ある程度コツを掴むと分かるらしい。
安全牌で、山菜に関して素人の私は、ばっけ味噌を
慣れている採取者はまず、ふきのとうを選ぶ目がある。産地直売所なら、まず安心だろう。
探偵エルフさんは、丁寧に頭を下げた。
妙な律義さ。
最初の疑心暗鬼から、一歩踏み込んで、彼女は良い人だと思えた。
「知ったかぶりをした。すまない」
「ふふふ。
私は久々にガードを無くして、素で笑った。
優しい春風が吹く。桜の景色が優しく揺れた。
探偵エルフさんは、また真面目に私の目を見た。
「この公園の桜の木はたくさんあると思う。でも、君の目の方が綺麗だ」
「へ?」
「石を拾う前から、私は君を見ていた。何故か今、綺麗な目の奥が悲しみに満ちている」
「あ……その……」
初対面のエルフさんに、急に褒められて、その次に私の悩みの種の片鱗を掴まれて、両方のせいで私は狼狽するだけだった。
とんでもない詐欺師に捕まった。
冷静に無視をしていた、周りの人たち、その理由が何となく理解できた。
探偵エルフ、ホームズさんの第一印象はあまり良くなかった。
ただ……こんな酷い状況でも、私が落ち着いて話せる相手。ただし、初対面だ。
私の後悔を無くすことが出来るような気がする。
だけど今の不安を抱えて、交流を進めていいのか、と私は足踏みしてしまっている。
彼女の隣りに座ったのは、この際、どうでもいい話だ。
この戸惑いが複雑すぎて、私は悶々としていた。
一方、ベンチに座る彼女は、もう1つの包みの中身を食べ出した。
ばっけ味噌おにぎりを食べることに、当初怪しんでいた彼女は抵抗ない。
上機嫌な鼻歌交じりに、かじり続ける。
「気にならねぇの?」
「何がさ。ばっけ味噌ライスボールの安全性は証明されている。私の知識はアップデートされた。君のおかげで、今日も幸せな日だ」
「そう……」
「君は、コロコロと表情が変わるんだな。飽きないよ」
海外の人、特有の裏表ない感想。
初対面からグイグイと、私に好感を持っていると、彼女は伝える。
私はそんな褒められるような人間なのか。秋田に住む、目立つ特徴のないモブキャラ容姿の一般人だ。
思わず、私の思いが口から零れた。
「ばっけも、私も、ずっと秋田にいただけで何でもないのに……」
「なるほど。それが君の悩みか。では、質問を変えよう。足下の石を拾う好奇心を持つ君の性根は、県外、海外へ出たら、変わる保証があるかい?」
「何にもねえから変わんねえべ。私も、秋田も、一生同じだ」
「おっと、泣かせるつもりはなかったのだが……。ごほん。少しブレイクタイムだ」
根から染みついた『秋田県民らしさ』が私を苦しめた。
探偵エルフさんは、可愛いピンク色のハンカチをそっと差し出す。
そして、しばし待った。
彼女は色を無くしたように、桂城公園の花見と同化した。明らかな異端者なのに、それでも秋田の片隅の景色と一緒になっていた。
私の卑屈さとは別の空気感を持っている。自信とは違うけど、それに似た答えを彼女は持っている。
知りたい。その欲求が私の涙を止めた。
彼女は、少しだけ名乗った。空気を読み過ぎる性格が、彼女の口を重くしていたようだ。
「私は、日本に滞在中のエルフだ。数か月前まで、東京に住んでいた。理由があって、北上の旅をしている。秋田県に入ったところで、冬になり、雪が降り、長く居座っていた」
「……へぇ、行動的」
「探偵エルフさんだからな。そうそう。私のことは、ホームズさんとでも呼んでくれ。呼び名がないと、君とて困るだろう」
「……
「ふむ。では、君をソナタ君へ改めよう」
「……ホームズさんは、これからどこへ行くの?」
「うーむ。……今後の進路は悩み中だ。調査したいことは多いのだけどね」
泣いた後で、歯切れの悪い私に、会話スピードを合わせてくれた。
どうやら、ホームズさんは北上の旅の途中らしい。その道中で、知らない人との会話は慣れたようだ。
私は、彼女の足を止めていいのだろうか。すごく不安だけど、彼女の協力がほしいような気がする。
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