秋田へようこそ、探偵エルフさん!
鬼容 章(きもりあきら)
第1話 ばっけ味噌ライスボールの謎を追え!
第1-1話 ばっけ味噌ライスボールの謎を追え!【事件編】
現代日本の田舎、東北地方の北部。
秋田県人口は100万人を割り、88万人を割り、いつも瀬戸際にあるような気がする。
私の住む、
さて、今の大館は、春の最中だ。
今季の冬は、少し強めで短く居座った。そのおかげで早く春を迎えている。
桜の開花予報通りで、先週末から少しずつ咲いていた。
私は春が好きだ。
たった2週間の躓きも、春の陽気な風は許してくれるような気がするのだ。
毎日が幸せだと、もっと私は生きやすいのに、現実世界はそうもいかない。
せっかく近くの
知らない家族や会社員たち、若い人たちに、私の小さな幸せはぶち壊された。
冬囲いが外された噴水前まで歩いて行き、私は下を向いてため息をついた。
体感的な面では、東北の刺すような春風は冷たい。
「はぁッ、
好きな時期だから、桜の季節だから。
だからこそ、陽気さに憂鬱な感情がかなり混じる。
いっそ春も嫌いになれたら、どんなに幸せだろうか。
雪解け水だって、川から海に流れ去ったのだ。
春の弱気は、私を売れない詩人へ替える。
そんな春の詩人と化した私の靴先に、コツンと石が当たった。
ふでふでしい程、ずんぐりした顔で細目、愛嬌ある顔立ちは、お世辞にも美形ではない大型犬の顔。
そんな天然記念物の
ちょっと期待して、拾い上げてしまった。
裏面をついでに見る。
WA ROCK ODATE
わろっく? 和ロック? それが大館とどういう関係だ?
意味は分からなかったが、私は久々に周囲をキョロキョロと見回した。
これを落とした人がいるかもしれない。
「ふーむ、良い目をしている」
気取ったような少女の声だ。どちらかというと、英語訛りが混じった日本語だ。私ほど訛っていないのが、少し羨ましい。
私に、わざと石を拾わせたのか。
他の大館の人たちは、警戒心が高いのか、無視していたようだ。
嵌められたと思った。だけど、私の方が彼女の容姿に見とれてしまった。
海外の美少女が、木製のベンチに腰をかけて、脚を組んで座っていた。
彼女の靴は、歩き続けたせいで泥と傷だらけだった。
一方で、きちんと身なりが整った女性用の探偵服、白い肌は透明で、何より線が細い。
小顔で目鼻が整っている。
勝気そうで、大きな碧い目は全てを見通すよう。
長い金髪は2本に結われて、帽子からのぞいていた。
一番、私の目が離せなかったのは、帽子から2つ出ている、その長く尖ったエルフの両耳だ。
「あ……探偵エルフさん……?」
「そう。私は……」
ぐー。
彼女の腹の音がなった。
春の陽気な太陽光は、真面目なシーンでも空気を読まない。
気取ったエルフさんの表情が崩れた。我慢が限界だったらしい。
「ごめん。腹が減ってきた」
「あー、んだがー」
私は、パーカーのポケットに、石ころを突っ込んだ。
代わりに背中に下げていたリュックから、小袋を外へ引っ張り出した。
さらに、その小袋から自分で握ったおにぎりの包みを2つ取る。
ジブリ映画の少年キャラみたいに、不器用に「ん!」だけ口にして、探偵エルフさんの手におにぎりの包みを押し付けた。
エルフさんは状況を理解できていなかった。困った顔で手にしたおにぎりと、私の顔を見ている。
飼い犬でいう「よし。食べて良いぞ」の私の指示待ちか。
「金だば取らね。まんつ、
「あぁ、いいとも。かたじけない。わぉ、ナイスライスボール。いただくよ」
私は、探偵エルフさんの座るベンチに、一緒に腰をかけて座った。
私たちの視線が同じになる。
小器用に手で包みをあける、エルフさんは目を見開いた。
少しあぶったおにぎり、つまり焼きおにぎりなのだ。
彼女は嬉しそうに微笑むと、私の作ったおにぎりに、かじりついた。
頬がリスのように膨らんで動く。ややあって、彼女は口を開いた。
「ふむふむ。へぇ、意外だ」
「どう変わってらって?」
「山菜の苦味は、味噌と合うんだな」
「あー、ふつうの反応だなぁー」
日本人よりも日本を知っています顔で、エルフさんは良いコメントをした。
ちょっと期待外れで、私は拗ねた。
おにぎりを少し炙って、味噌をみりんで溶いてからだと、工程3つでおにぎりに溶き味噌を綺麗に塗れる。
焼き目も、見た目も、ばっけ味噌おにぎりとして良くなる。
食欲に負けず、料理は焦らず丁寧に、調理の工程を意識して、か。
今は
そのおかげ様で、見ず知らずのエルフさんの腹を満たすことが出来た。
「残念ながら、私は日本に来て8年目だ。さすがに日本慣れしている。……で、この山菜はナニモノだい?」
「ばっけ」
「え、何て?」
「ばっけを知らねえが……えーと、ふきのとう」
「……ッ!!」
今度はエルフさん、焦った顔になる。
彼女の顔が、私の顔に、すごく近づいた。
生真面目に、エルフさんは物申した。
「胃薬は持っているかい?」
「え、要らねーべ? んだって、
ここまで生真面目に、山菜が何たるかを知っている外国の方は初めてだった。
ある意味で、一周回って新鮮な反応だ。
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