第3-2話 ピンクと黄色の景色の謎を追え!【推理編】

 道の駅おおがた。

 来客者たちと、車が多く、昼前だが少しずつ混み出していた。

 世間的には、ゴールデンウィークは今日からなのだろう。

 私のように、引きこもりたい人には重たい現実だ。


 父はトイレに向かったようだ。

 好奇心の塊のホームズさんは、どこかへ1人で調査に出かけた。

 いつの間にか、私は独りだった。でも、息苦しさを感じない1人の時間を望んでいた。

 小畑勇二郎おばたゆうじろう元秋田県知事の銅像たちと一緒に、大潟村の空を眺めていた。

 最近までの冬の雲は薄くて、黒くて、近くて、頭上から私を押し付けてくるようだった。

 今見える春の雲は、ちょっと優しい色をしているけど、薄いすじ状で、すぐに形がなくなる気がする。

 雲のように、気まぐれ。せっかく旅に出て来たのに、もう家に帰りたくなる。

 感傷的な気分になっていると、エコバックから何かを取り出そうとしているエルフさんは、ふわっとした私の悩みの核心を探ってきた。


「ソナタ君は、人ごみは嫌いのようだね」

「ん、嫌ではねぇばって……」

「自分のペースを他人に乱されそうだと思うのかな。まぁ、落ち着いて、お1つどうぞ」

「また、おやつで買収すんだべ」


……と言いつつも、私は食べる。

 見た目は白もろこし。食感は柔めで……。

 んん? んめな、これ。

 サクっとより、もっと軽い口当たりだ。後から酸っぱさが出てくる。

 私の反応に、疑いは多少混じる。

 探偵エルフさんが、咳払いをして、仰々しく説明する。


「米粉のラムネ菓子だってさ」

「んだすか」

「こめらむね、それはお兄さんに勧められたものだよ。秋田の人は面白いんだ。並んでお菓子を買うつもりだった。並んでいるお客さんたちと、次々に握手をしていたら、いつの間にかレジの前に立っていた。」

「エルフの握手は、1つ前さ、進む効果あんだべな。秋田の人は珍しいのが好きだもんなぁ」


 人生ゲーム、もしくは双六みたいな例えだと、私は思った。

 エルフ種が多いのは、多種民族に寛容なヨーロッパやアメリカだ。

 日本では少ないながらも、北海道や青森県がエルフ人口多いとは聞く。

 少し南の、秋田県や岩手県では、今現在でもエルフさんが珍しい。

 大自然だし、エルフいそうだけどな。イーハトーブと、美の国、なんだもの。


 目の前の探偵エルフ・ホームズさんは、また私の目の奥を覗き込んで、クスクスと笑ってから自分の袋からコメのラムネ菓子を1個ほうばった。

 知的好奇心が次から次へ移る、それがエルフ種のはずだ。長命な種族なので、2つ、3つ、何かしらの極めた技能がある。

 それなのに、短命な人間の中でも、おっとりし過ぎの私に使う時間が勿体なくないのだろうか。

 1袋分のこめらむねを食べ終えて、さらに考え事で、私の気持ちは落ち込んだ。

 探偵エルフさんは懐から、黄色い個包装を2つ取り出した。


「さっき買ったお菓子は、もう1種類ある。秋田では有名なお菓子らしいね」

「んだ。有名なパンプキンパイだ」

「さて、ここで食べても良いが、あっちから君のお父さんが帰って来たぞ。車で移動になるね」

「あー、うん……うーん……うん……」


 ずっと移動待ちだったのに、ついに移動となると、私は名残惜しく感じてしまった。

 一瞬だけども、パンプキンパイがお預けになったせいではない。

私は犬か、いや違うか。

 車移動の間が少しあり、パンプキンパイを2人で食べた。

 これまた、んめぇッ!

 思ったよりも甘すぎない。それでいて、カボチャの餡がギッシリと入っていた。


 桜と菜の花ロード。

 秋田県道298号、道村大川どうむらおおかわ線。

 男鹿市おがしから、大潟村を通り、五城目町ごじょうめまちに至る、一般県道だ。

 その一部区間、大潟村内の約11kmの沿道に、ピンク色の桜並木と黄色い菜の花が延々と続く。

 路端に駐停車できる場所もある。

 そこに車も多く停まって、お花見スポットになっている。

 観光で来た人々は、カメラや携帯電話、アイフォンやスマートフォン、などで思い思いに写真を撮っているようだ。

 広大かつ黄色い菜の花畑を、蝶々がヒラヒラと舞い遊んでいる。目線を少し上にするとピンク色の木々で、桜の花びらが舞い降りてくる。

 幻想的な景色に陶酔しそうだ。


 この木々の向こうには、広大な田畑が広がっている。

 田起こしされて、そして代かき、次に田植えと、秋田県民なら想像つく、春の日常的な風景があるはずだ。

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