第12話 紅に変わり行く景色の謎を追え!

第12-1話 紅に変わり行く景色の謎を追え!【事件編】

 秋は気まぐれに変わる天気、そして肌寒さが増す一方だ。

 吹雪ホワイトアウトまでとは行かないけど、朝は濃霧で視界が悪い。その上、葉っぱや植物に、露や霜が場所によっては現れている。

 気温が1桁の前半になってくる。いよいよ雪が降り出すのではないかと、余計な心配を季節柄、日本人はしている。

 それに、後2か月。今年も残り日数わずかだ。ハロウィンと紅葉が終われば、行事も師走の雑務で忙しい。

 それは私の住む秋田県も例外ではない。

 今はまだ、ハロウィンと紅葉で、秋の行事が埋め尽くされているような気がする。


 山に朝靄がかかり、道路は昨日の雨で少し濡れていた。そこに1台のレンタカーが走る。

 運転席のドーム、助手席のミヒロは、無表情を装っていた。2人とも緊張で目がギンギンになっている。おい、バックミラーに無様な顔が2つ映っているぞ。

 ドームがレンタルした車が、大館おおだてから能代市のしろしまでの秋田自動車道を走る。

 朝眠さの極みという、ありふれた女子大生のドームが、そこそこな安全運転している。

 後ろの席の私たちの方も、現状がよく分かっていない。というか、レナは舟をこぎ、目が寝ている。

 私たち4人は、レンタルカーの暖房の効きが悪くて、移動の終始はとりあえず無言であった……と私の本音を伝えておこう。


 普段、弘前ひろさきに住んでいる女子大学生のドームが、真顔で「きみまち阪公園の紅葉見に行こう」と行ってきた。

 反骨心の塊の、地元大館の女子高生ミヒロが「おう、行こうぜ」と肯定的な返事をした。

 そんな会話は、ただの悪だくみに聞こえる。2人とも普段、良い子にはしないタイプだから。


 さて、私たちの乗る車は、道の駅ふたついの駐車場に至る。

 秋の空は曇天。気づけば霧も晴れていた。レナの目も少しだるいモードで、朝から通常営業を始めていた。

 ミヒロが思い出したようなフリをした。おそらく、私の気分を上げに来た。


「ソナ、じゃっぷぅ食うよな?」

「ん、じゃぶ?」

「じゃっぷぅ、だ。氷菓子」

「寒みし、どうだべ」

「そっか。じゃっぷぅ4人分で行こうか」

「おめだば、人の話聞げしッ!」


 結局、でもね。

 小さくても旅は堪能したい、という欲求もあるのだ。

 軽快なきみまちソングを聞きつつ、歩いて道の駅に入るのは、トイレ休憩のためだけじゃないぜ。

 米代川よねしろがわの見える、窓側の机椅子に4人で座る。

 道の駅ふたつい内の福多珈琲さんで、買ったばかりのじゃっぷぅを食べるよ。

 じゃっぷぅは、氷とアイスを混ぜたような懐かしい触感だ。かき氷やシャーベットより、舌触りがなめらかである。

 子供受けする甘味は、女子高生の私にもクリティカルヒットする美味さだった。練乳入りで、私は正解を導いたと直感した。

 単味のじゃっぷぅを上手にかき混ぜながら、レナは食べている。

 それはともかく、不思議なことをミヒロが聞いてきた。


「ソナ、レナっことじゃっぷぅシェア食いしないのか?」

「1人1個だべ」

「あ~、それ、あたしが前に言ったんだった!」

「何、悔しそうな顔してら?」

おべでろ~」


 何、ハンカクサイさんの口調の真似をミヒロはしているんだ。超神ちょうじんネイガーさんは、今ここにいないぞ。

 窓の外のドアが開いた。

 いつの間にか、席を立っていたドームが肩を落として帰ってきた。じゃっぷぅを飲み物のように一気飲みした。

 能代のしろ曹司本家そうじほんけの娘、ドームは特殊な訓練を受けているのだろう。いや、本家でも受けていないか。

 女子大生の個性、ちょっと変わった個性、はドーム個人のものだ。

 その女子大生さんは、空のカップを机に置いた。

 昨日の雨で米代川の水位が上がり、今日のカヌー教室は中止になったそうだ。ここ数日のうち、昨日はまずまず雨が降ったと思う。

 ジャプジャプ混ぜてじゃっぷぅを食べているレナが、猫目でじ~ッと、ドームを睨んだ。


「お前、私がカヌーで慌てふためくのを、ニヤニヤした顔で見るつもりだったろう」

「まぁ、そんなところ。もう今日のハプニングは起きないから安心して」

「腹が立つが、素直でよろしい。次はどこへ行くんだい」

「ん~と、きみまち阪で紅葉狩りにしよう」


 おぉ~! 恋文と紅葉の聖地!

 私は目を輝かせた。そういうのは文学的で素敵だ。

 次の私は、惚けた声を上げた。


「……あれ、して恋文なんだべ?」

「「「ふふん」」」


 周りの3人は、ドヤ顔で答えを知っていますアピールだ。

 私の父は大館市おおだてしと北秋田市には詳しい。だけど、あまり能代のしろの方面のことを教えてくれなかった。

 父が口を閉じる理由、私にも分かる。

 自ら出奔してしまうほど、曹司本家そうじほんけとの確執があり、昔の話を未だにしたがらないようだ。


 その結果、私1人なんだっけ状態だよ。親の問題と娘の好奇心は違うのに。

 むむむ。

 無知が恥ずかしい。友達みんなが私より知っていて悔しい。何なの、これ!

 じゃっぷぅを食べた空容器を、先に1人、ゴミに捨てた。

 私はさっさと、道の駅ふたついの横の信号機がある交差点へ歩いて行った。勝利の妄想モードから我に返った3人は、慌てて追ってきた。


 ただし、不機嫌な私の顔は、すぐに溶けた。目に見える光景が全てだった。

 傾斜地と岩場。水量が多く広い、一級河川の米代川。その立地が紅葉の木々の美しさを際立たせる。本当に、神様の、自然界の祝福を受けた場所だと思う。

 これが最強のパワースポットと呼ばれる、きみまち阪公園の紅葉だ。

 そうそう。きみまち阪紅葉まつり。今がちょうど盛りの期間なのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る