第12-2話 紅に変わり行く景色の謎を追え!【推理編】

 明治天皇めいじてんのうが巡幸で、きみまち阪の地へお訪ねになった際、皇后様の手紙が先にお待ちになっていた。

 傒后きみまち阪。

「大宮の うちにありても あつき日を いかなる山か 君はこゆらむ」

 皇居にいても暑いこの日ですが どのような山をあなたは越えているのでしょうか

 私はなるほど、と思った。

 皇后様のお心遣い。明治天皇はいかほど喜ばしかったことか。

 手紙は人と人が離れていても、心と心を結ぶ。それは愛にあふれる素敵なことだったのだ。


 恋文の由来がかかれた看板と石碑の歌を見て、私はしばし放心してしまった。

 すると、例の3人がようやく追いついた。何だか肩で息をしている。3つの顔が鬼気迫る表情なのだ。

 ただ、恋文の由来を説明する気が満々だったようなので、3人とも少し残念そうな顔をして、七座山ななくらやまの空を眺めていた。

 一方で、私は自分がどんな歩き方をしてきたか、全く覚えていない。むしろ、好奇心のままに自ら突き進んだ。まるで闘牛が赤い布に反応してまっすぐ進むように。

 その好奇心の対象、恋文の謎は自分自身の足で解決させた。


 ややあって、私の放心が解けた。

 3人はそれぞれに、紅葉狩りを楽しんでいた。

 ドームは「パワーもらうぞ~」と七座山ななくらやまの方へ両手を掲げていて、それを見たミヒロは呆れて苦笑いしている。

 探偵エルフさんのレナは端っこで、ひっそりと写真を撮っていた。私のタイミングを計っていたようだ。

 一緒に同居しているので、察しが良すぎるレナはすぐ気づくと、私の方へ寄ってきた。

 大好きなレナの申し出は、私に断る理由がない。彼女に話しかけられただけで、もう笑顔になるのだ。

 私は一言、二言、レナと話してから、その差し出された手を受け入れた。


「ソナタ君、ソナタ君、中央の方にある屏風岩を見に行かないかい?」

「せば、紅葉見に行ぐが」


 山は標高の高いところから低い方へ紅葉が進む。つまり、平地の方は紅葉が最後になる。

 きみまち阪はゆっくりと紅葉が進む場所で、例年、紅葉シーズン後半まで色づいている場所なのだ。

 今日の紅葉狩りでは、屏風岩の方までしっかり真っ赤に紅葉が広がっていた。観光客たち、かなりの人とすれ違う。


 私はレナと一緒に、きみまち阪公園内を歩く。

 このまま手をつなぐかどうか、悩んだが後ろの気配を感じた。結局、手は放してしまった。

 私たちの後ろ、金魚のフンみたいにくっつくドームとミヒロだ。悪い性根の2人は、顔を寄せ合って良からぬ企みごとをしているのだった。

 屏風岩の見える場所へ移動中、勢いでミヒロがからかい出した。

 旧友は、向こうにある恋文ポストを指さす。そういうところは一生変わらないだろうな。少しうんざりした顔に、私はなった。

 どうせいつもの悪いノリなのだ。来るとわかっていれば、傷つくこともないのだ。


「ほら、ソナ。レナに手紙を出せ」

「まんだ書いてねぇばって~」

「まんだ? てことは~まだ!? じゃあ、いつ出すの?」

「年賀状だッ!!」


 来年の1月1日に、レナに恋文を年賀状として送ること。

 私の予定として今、確定した。

 カシャッと音が鳴る。無表情を装うドームが、iPhoneアプリで写真を撮った。

 それを見たミヒロは、ニヤニヤがいつも以上にえげつない。悪い笑顔だ。

 フォローしてくれるのは、パートナーの探偵エルフさんのレナだけだ。ただ彼女は混乱しているのか、フォローの仕方がずれている。いや、彼女の視点は並みではなく、ずれているから面白いのだけど。


「え、ラブレターを書いてくれるのかい。それは嬉しいけど、上手に手紙を書くのは緊張しないかい?」

「レナっこほど、くせ強ぇ字だば、私は書かねぇ!」

「字が汚いのは、いつものことだろう。英語の試験でも先生が理解してくれないんだ」

「レナ、答えが出ねぇの、めぐせぇ筆記体で誤魔化してらべ」

「ぐ……、探偵エルフさんは依頼人のため……」

「自分のこともちゃんとせで!」


 私は叱咤しつつも、別のことを考えていた。最近、楽しくなっている進学校の高校生活を思い出したのだ。

 高校生活でレナの得意科目は、意外と英語ではない。社会科を全体的に、と化学が出来ているようだ。

 ミヒロだと数学に、シアだと全教科に、高い学力があるらしい。

 えぇと、私は……国語が苦手なのだ。それ以外は並みの学力である。

 まぁ、学力なんて個人差あることだ。


 さて、妄想から今の場所に戻ろう。

 いたずらが過ぎたのか、ちょっと反省の色をミヒロは顔に浮かべている。目に見えて反省顔をする割に、すぐ反省したことを忘れる。

 女子大生のドームは、私たちの痴話げんかをパシャパシャとスマートフォンで写真に撮っていた。

 それを見た旧友は、なぜかイラついた顔をして、厳しい質問をドームにした。妙な正義感である。無論、旧友の独自ルールだろう。


「ドームは高校時代さ、何の教科が得意だったんだよ?」

「あ~、高校時代ねぇ……強いて言えば、体育だな。後は赤点コース……って、何で私にも火をつけるぅ!」

「うるせぇ。お前の指示に従っていると、あたしが面白くねぇ」

「むぅぅぅぅ。屏風岩のパワーも両手にもらっちゃうもんねぇ」

「勝手にしろ」


 ドーム・ミヒロの悪だくみ同盟が綻び出しているようだ。

 私は腹の虫が鳴ってしまい、私は赤面した。隣からクスクスと笑うレナに、私は手を引かれる。

 また手を握られているが、もうレナならいいかな、と私は思う。最近、地元を調査している状態と同じであるから、今更、照れることでもない。


『きみ恋カフェ』さんで、お昼ごはんにしよう。

 ドームを見捨てた旧友ミヒロも合流し、この紅葉時期に限定販売の『行楽弁当』を頼んだ。思案の結果、外で食べることになった。

 曇り空が流れていき、光が照らす。木々の葉っぱが囁く。その隙間から光が注ぐ。

 こういうお日柄よい日は、それだけでも気持ちいいのだ。すごくピクニック感があって、高校生になっても楽しいものである。

 目の前に木の机、木の椅子に私たちは座る。買ったお弁当を3人で食べた。ここから紅葉の中の屏風岩が映えて見える。

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