第12-3話 紅に変わり行く景色の謎を追え!【解決編】

 冬が迫るときに、天気良い秋であるのが珍しい。だから今日はラッキーすぎる日なのだ。

 少し前に、ミヒロが「ソナは、花より団子だろう」と真顔で言ったことがあった。

 悔しいが、それは正解だ。紅葉狩りが行楽である意味を、屋外で食べる弁当の美味さで、私は実感している。

 マカロニサラダ、肉団子、フライ、から揚げ、卵焼き、たくあん、そして味のついたご飯。

 秋田っぽい見た目ながら、味がしっかり洋風である。『きみ恋カフェ』さんの店内BGMは、昭和レトロ感ある、おしゃれなカフェ音楽だった。今度はゆっくり店内で食事にしたい。

 昭和を少しかじって生きてきたレナが、彼女にしか分からない表現で、味の感想を口にする。食事に夢中の私に代わり、ミヒロが口達者に返事してくれた。


「なつかしいカフェの味がする。本当に昭和の思い出深い味わいだ」

「平成半ば生まれのあたしに言われてもな」

「昭和って言っても、本当に子どもの頃のあいまいな記憶だぞ。君らの4分の1の成長スピードだ。例えるなら、君たちが学童になる前の頃の記憶はあるかい?」

「あぁ、そういうことかい。まぁ当然、覚えてないな……」


 ミヒロは、小学校の頃に両親を亡くしている。それで、ちょっと濁った返事になっている。

 レナはあまりその辺をよく分かっていない。助け舟。私が別の質問を仕掛けて、話を変えることにした。

 能代市二ツ井のしろしふたついのことに、私はすごく疎い。

 ちょうど、また新たな疑問が出てきたのだ。もりもりと、ごはんを食べながら2人に尋ねた。


「ドームがさきたがら、七座山ななくらやまど屏風岩を見で、パワースポットだ~って言ってるばって、なんたすげぇ神様がここさはいるのだが?」

「天神様だよ」

「お天道様なのが。ん、あの七座山ななくらやまの話っこだすべが?」

「そうそう。この二ツ井ふたついにも三湖伝説さんこでんせつがあって、八郎太郎はちろうたろうと天神様の逸話がある」

「んだのが。レナはいつ調べだんだ?」

「それは朝の眠気覚ましで、ちょっと【二ツ井ふたつい 伝説】検索をね……」


十和田湖とわだこをめぐる争いで、南祖坊なんそのぼうに敗れた。

その竜人の八郎太郎はちろうたろうは、米代川を下り、二ツ井ふたついの地で休んでいた。

勝手に米代川よねしろがわの水をせき止めて、住処にしてしまったので、この地の神々は相談しに集まるほど迷惑していた。

神々の決定で、天神様に事態の収拾を一任した。

八郎太郎はちろうたろうと天神様は、米代川で岩投げの力比べをした。本日でも、八郎太郎はちろうたろうが投げた岩が川の中に見えるようだ。

さて、天神様の圧倒的な力に、さすがの八郎太郎はちろうたろうも負けを認めざるを得なかった。

『ここから移動するのは良い。ただ底が浅くて、川の流れで下れないのだ』

 龍の姿になって、川下りするという発想は面白い。もしかしたら、天神様たちへ難題を吹きかけて、無理ならこの地にまた居座ろうとしたのかもしれない。

 しかし、天神様たちの機転で、神の使いである白い鼠たちを大量に集め、当時は八座山だった一角を削った。

 水が通ると、川に流れができるのだ。

 八郎太郎はちろうたろうは、その濁流で男鹿おが方面へ流れて行くことになる。向こうには、八郎湖はちろうこが出来る。今の大潟村おおがたむらにあった湖である。


 一方、その工事に驚いたのが、この辺りに住む猫たちであった。ここでも、猫の住処に大量の鼠は天敵である。集まった鼠たちを駆除しようと狩り出したのだ。

 天神様らは驚き、猫たちにその地へ留まるようにお願いした。

『生涯、身体にノミがつかないようにする。だから、鼠を見逃してくれないか』

 猫たちは了承し、その場に繋ぎ止められた。その地の名前が、『猫繋ねこつなぎ』である。

今では『ネ』の字が取れて、『小繋こつなぎ』という地名が残っている。小繋こつなぎは、道の駅ふたつい周辺の地名だ。“


 へぇ。私は感心した。

 現在と一部リンクすることあるから、それも郷土の昔話として面白いものだ。

 レナの逸話に、正直に思ったことを私は口にした。


「天神様たちの努力をさ、ドームが勝手にもらって良いんだがなぁ」

「ドームがどりょくしていることがあればもんだいない」

「ひらがな感がすげぇぞ。えらい棒読みだ」

「それより、ソナタ君は神様にお願いごとはあるかい?」

「今の幸せな気持ちがこれからも続いてほしい」

「ふふ、真っ当な願いだ」


 私は美味しいごはんを食べた後の気持ちよさのことを口にした。

 レナは、優しく微笑んだ。たぶん、違うことを考えている笑顔をしている。その間抜けた顔が、今の私には心地よい。

 すると、沈黙から帰ってきたミヒロが喚いた。


「他人の幸せは胸やけする! あたしの願い事も、天神様と、シア様に誓ったんで、レナっことソナは応える義務がある!」

「ん~、何の話だ」

「二人で仲良く『きみまちの鐘』を鳴らしてください。それを写真撮って、シアに送る。あたしの役目、OK?」

「む~、朝がらの悪だくみが分がった。最初からそう言え。」

「ありがとうの『あ』は、秋田県民の『あ』!」


 ミヒロは素直でないお礼を口にした。私たちの腹は満ちて、食後に牛にならないように立ち上がった。

 何となく、ドームとミヒロの悪だくらみの全体が私にも見えた。

 それなら、レナと私は堂々と手をつないで、笑顔で奴らの写真に納まれば良かったのだ。

『きみまちの鐘』に、私たちは2人で手をかける。ミヒロとドームが、それぞれにスマートフォンを向ける。

 カメラ音をかき消すようなくらい、荘厳な音が鳴った。結婚式レベルだ。すごく恥ずかしくて、すぐに私たちは赤面した。

 その写真が、級友のシアに送られるのは構わない。

 ドームを介して、レナの姉、シドニーへも写真が送られるのだった。おそらく今後、レナ姉のシドニーと私たちは、ややこしい話になる可能性がある。

 まぁ、その時はその時だな。今は諦めた。私は薄い笑みをもらした。


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