第14-2話 市民のにゃー! 比内とりの市の謎を追え!【推理編】

 ただ今日の扇田おうぎたは地吹雪が手強い。

 底からの寒さと白の雪景色が洗礼となって、私たちを迎えてくれた。

 中ボス的だ。

 そんな比内ひないと言えば、級友のシアである。

 もうちょっと落ち着けば、長身美人なのだけど、吹っ切れた煩さがシアの持ち味だ。


「おっはよー! 今日も冬らしく良い天気だねー!」

比内ひないの人は慣れすぎだ!」

「いやぁ、レナっこちゃん、実際は私でも寒いよー。でも、今日と明日は、比内ひないとりのいち! 激熱イベントでしょー! 雪も寒さも関係ないよねー!!」

「おおー、説得力あるー!」


 元気に言うシアが会場ゲートを指さした。

 こんな荒れ模様の天気だけど、比内ひないに集まる人たちでにぎわっている。

 まず屋台やキッチンカーが見えた。

 もっと奥が比内地鶏ひないじどりの出店とステージだろう。冬の活動力は比内の人に倣えだ。

 見る、遊ぶ、買う、食べる。

 4拍子がそろった冬の大イベント、比内ひないとりのいちが始まっているのだ。

 毎日の雪かきで疲れた身体、そして冬のせいで溜まっている食欲、全て発散のチャンス、私にとっても大大大イベントである。


 比内地鶏ひないじどりの肉やきんかん、しいたけ、ねぎ、にんじん、白菜などを煮た、比内地鶏ひないじどりかやき鍋は大鍋から1杯ずつ振る舞われる。

 回転率が早いと、ご飯を食べるまでの時間も早い。

 比内地鶏ひないじどりの強みである出汁の濃さ、そして肉の弾力だ。

 寒さに凍えた身体の奥底から満たされる温かい1杯。そして、がっつり食べられる。

 はー、んめぇもんだ。

 湯気ごと食してお腹の中へ、代わりに出た白い息が幸せ色に染まる。

 テントの横で、私たち3人も固まって食べていた。

 レナは無言でもぐもぐ食べている。朝ごはん1人だけ食べていないので、ブランチ状態だ。

 食べるのもそこそこに、シアに話しかけた。私の気がかりを話しておいたのだ。

 旧友の毒舌っ娘ミヒロがいない問題だ。だいたい想像はつくけど。


「今日、ミヒロはいねんだな」

「大寒に負けたミーちゃんは、風邪で寝込んでいます。布団の中で丸くなる猫です」


 どうやら、ミヒロ猫は風邪でダウンしているようだ。

 誕生日が近いのに、ミヒロは元気ないモードで良いんだろうか。

 そもそも今日、主役予定のあいつが欠席だ。

 自分から誘っておいて体調管理が出来ず欠席とは、旧友よ、本当に残念な娘だ。

 それで、私も失望のにゃーが口から出た。


「にゃー。あれだば、身体弱くてダメだなー」

「うんうん。ところでレナっこちゃんは、何で目がキラキラしているのかなー?」


 私と話しつつ、シアが司会者並みの観察眼で、レナの様子をうかがっていた。

 言われると確かに、「猫……にゃー……」と、うわ言を放っている。

 方言に関しては、レナに私から意味を教えることはない。

 むしろレナが聞いてくるのを私が待つスタイルだ。

 ただ、彼女の理解力はたまに天然ポンコツ娘なので、探偵の可愛い推理に私もいちいちツッコミすることもない。

 そのボケに慣れてしまったのは、私の家で同居しているからだ。

 優しい司会者、シアはちゃんと振っている。誰でも対等に話すのは、煩わしさもあるけど、良い才能なのかもしれない。


「にゃー、は方言だよー。にゃー、にゃー、言う人は怒りん坊だから、しじがるのも程々にねー」

「しじがる?」

「それも方言だよー。お節介、ちょっかいを出す、なんて言うかなー」

「おー。ガチおこぷんぷん娘。それは気を付けるよ」


 シアとレナの話を聞いていて、怒りん坊は私のことだと気付いた。

 でも、腹が減ると怒りやすくなるので仕方ないのだ。空腹は私にとって耐え難い。

 と言う訳で、比内地鶏ひないじどりの千羽焼きを買おうとした。

 よくよく見ると、値段が結構する。高校生の小遣いでは、予定していた出費の計算が合わない。


 ぐぬぬ。向かいの比内地鶏ひないじどり焼き鳥を買うことにして、行列に並んだ。

 焼き鳥が出来上がる、焼けるまで時間がかかるのは何となく察した。

 時折、吹雪が立ちっぱなしの身体にぶつかる。

 この寒い中で待つのは、空腹が拍車する。


 ぐぬぬ。超寒い上に、腹減った。にゃー、すら出ない。

 そんな私の顔を見てから、レナはシアと目配せした。

 たまにある2人の阿吽の呼吸だ。レナは私の手を引いて、行列を離れようとした。察したシアが残る。


「屋内へ行こう」

「ここは比内地鶏ひないじどりの申し子のシアちゃんにお任せあれー。3本買うよー」


 私はシアの心意気に甘えて、屋内のスパーク比内ひないへレナと退避する。

 何だか、向こうも食の気配がする。人の波に乗って、私たちは入場した。

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