第14話 市民のにゃー! 比内とりの市の謎を追え!

第14-1話 市民のにゃー! 比内とりの市の謎を追え!【事件編】

 1月の最終土曜日。秋田県も大寒のころだ。

 最高気温までマイナス気温なので、道も家もカッチンコッチンな凍てついた状態である。

 雪の質がサラサラしていて、朝の煌めきは幻想的だ。でも、除雪をがんばってしていたら、その景色は日常の中に消えていく。

 なんだか今日は、寒い風が強く吹きつけている。

 見える杉の木々に真っ白な雪が降りかかり、ちょっと美味しそうなのだ。

 そんな感じで、冷たい雪の中での雪かき作業の汗もあり、私の思考回路はショート寸前である。

 ぼんやりする頭で考えた。9時過ぎには、比内ひないへ向けて出発したい。だから、早めに除雪を終えた。

 私は身体にまとった雪を払い、温い室内へ入った。家外の寒さを後追いで感じる。


「うへぇ、さんびー!」

「おー。ソナ、おはよう。あぁ、全部1人でやってくれたか。ありがとう」

「お父さん、朝から疲れてねぇが?」

「うーん、この時期は家さ籠りがちになるべ」

「私は職人さんでねぇがら分がんね。レナは?」

「辛辣なお言葉だ。レーちゃんは、まだ寝でらべ」

「あー。私、起こす」


 私の父、ミツハルは、木工職人だ。

 冬場は寒い中、室内に籠って作業しがちだ。時期的な仕事の繁忙もある。

 今、娘の私が出来る家事を負っている。真冬の田舎で、2人暮らしはお互いの機転が利かないと上手くいかない。

 うーん、じゃあ季節は関係ないね。その都度、助け合っているから。


 一方で、居候。探偵エルフさん、レナ=ホームズは、夜更かしの常習者だ。

 昨日の夜遅くまで、何の映画を見ていたのだろう。昨晩の夜更かし、テンション高く笑ってらっしゃった。

 さて、今朝に話は戻る。

 私が汗を拭いて、服を着替えていると、そのエルフさんが布団から起きて、目をこすりながら歩いてきた。

 白猫の着ぐるみを来ていたので、猫エルフという新種 (嘘)である。

 彼女は着ぐるみを脱いで、私服に着替え……やめた。低気圧の朝に弱いタイプか、それとも寝ぼけているのか。


「うー。さむ。着替え中止」

「にゃー! おめだばいつまで寝てらんだ!」

「にゃー?」

「そこに疑問を抱ぐでね! まんつ着替えろ!」


 にゃー、にゃーはー、もちろん猫語ではない。

 ただの方言的な感嘆だ。全国的には、あーもう! と少し怒り気味になる感情だ。

 レナは冬用の探偵服に着替えたようだ。

 ただ今日の行く場所を考えた私は、極地防寒具のような恰好に彼女をさせた。

 今日の吹雪、着過ぎて汗をかくくらいで、まだマシだ。

 彼女は眉を下げて、冗談だと思って笑う。


「さすがに厚着じゃないかい?」

「……」


 私は無言で応える。おもむろに、室内のストーブを消して、窓を開けた。

 さすがに彼女も、秋田の冬に気づいたようだ。イギリス娘は目を丸くして、私に賛同した。

 さて、出発……とならなかった。

 父の車の窓が凍結していて、なかなか出発できなかった。

 にゃーはー! はい、こういう使い方だ。本日、踏んだり蹴ったり。


 車で出発してからも、道路の地吹雪が激しい。

 餌釣えつりから大館南おおだてみなみバイパスに入り、鹿角かづの方面へ向かう。

 この国道103号線も視界真っ白な雪道であった。

 父はスピードを落としつつ、難なく運転している。

 安全運転、右折。

 扇田大橋おおぎたおおはしを越えると、もう目的地の駐車場であった。

 道の駅ひない隣の大館市比内おおだてしひない総合庁舎。ここから会場の比内ひないグラウンドまで800Mある。

 まぁ、歩いて行こうかな。

 私の動きに、父は半端な反論をした。感情的になりつつあった私は、電話越しに父へ話す。


「いやー、ソナ、歩いて行けるとは思えねばって……ちょ、仕事の電話だ……」

「だば、会場前で降ろしてけれ」

「あー、ごめん。急いで市内さ戻らねばならね。2人とも降りて!」

「にゃー! 今日は何だぁ!」


 私たちの下車後、すぐに父は車で比内ひないから離脱した。

 まだ私は会場まで歩いて行こうと思った。

 その強情ぶりに、虚弱エルフさんは本気で焦ったらしい。

 目敏く周囲を観察していたレナは、急ぐ私の袖をつかんだ。


「ソナタくん、シャトルバスで行こう!」

「え、あぁ、うん」


 私の怒りはすぐに消えた。

 最近、レナが私の扱いに慣れてきた気がする。

 一瞬の間で、冷静な判断をしている。探偵さんの観察力が発揮される。

 シャトルバスは快適だった。

 そして私たち2人は、比内ひないとりのいちの会場である、比内ひないグラウンドへ到着した。

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