第4-2話 雨季に香る赤い花の謎を追え!【推理編】
「おはよう。身体、大丈夫だが?」
「あぁ、いつの間にか寝てしまったらしい。ソナタ君には迷惑をかけてしまった。すまない。だけども、今は調子良いようだ」
朝起きたら、寝込んだホームズさんは、すでに昨日を忘れて平然としていた。
このまま突っ走ったら、探偵エルフさんは厄介事を抱え続けるだけで、彼女自身に見える成果がない状態になる。
それじゃあ、人生が楽しくない。昨日まで悩んでいた私が言うことかは置いておいて。
1つ、私の中での区切りがついたことを、ホームズさんにちゃんと私の口から伝える。
ありがとう、と感謝を直接言う。ここ、とても大事だ。
用事が前日に終わったのに、終わっていない日と、私は今日をそう捉えた。
ならば、もう終わった、と2人の共通認識にしてしまおう。
幸い今日は、土曜日だった。
やるべきことが分かっている私なら早い。
朝ごはんは、市販のヨーグルトの小カップ1杯と、これまた市販のスムージーを小さいので1パック。
手早くお腹へ入れた。
片づけも早々に、ホームズさんへ告げた。
「あべ、行ぐど!」
「どこへ?」
キョトンとしているホームズさんを、強制的に私服へ着替えさせた。
いつものようにホームズさんから私ではなく、今日は私から彼女を、雨が降る大館の町中へ連れ出したのだ。
弱っている人にとって、日本の6月は優しくない。
高い湿度、少し肌寒い気温、鬱陶しい季節。ただ幸いなことに、雨は少し弱い。
傘をさす手に、少しだけ力が入る。
今日はマイナスな感情に浸りたくない気分だから、少し反抗的に行くぞ。
iPhoneを片手に、ホームズさんは、不思議そうに首を横へ傾げた。
その視線は私へ何かを訴える。
「
「いや、ソナタ君、存在しない地名を言われても、大館ビギナーには分からないのだよ」
「あー、今だば
「ほう、いつの時代の地名だい。
「元々だば……
「えど……?
「んだんだ」
江戸時代には、参勤交代という江戸へ大名が赴く制度があった。そのためもあって、東北地方にもいくつか街道が整備された。
1つは、関東→福島→宮城→岩手→青森方面の、
ちなみに、『みちのく』とは、だいたいがこっちの範囲をさす。
もう1つが
ちなみに、
それと、久保田藩と秋田藩は同じと私は思うが、主城や昔からの呼称など複合的な問題で、明治時代になっても度々、呼称変更が繰り返された経緯がある。
私は自分で説明して、歴史的に難しいことをさらっと言っているのだと、生まれて初めて自覚した。
出羽国を語ると平安時代より前の話だし、秋田の呼び方に関すると明治時代までもつれこんでいる。
ホームズさんに分かるのか……?
私はそーっと彼女の顔を覗き込んだ。
「はっはっは。歴史的に複雑な統合は、ユナイテッドキングダム、略してユーケーと同じさ」
「イギリス?」
「ユーケーの首都ロンドンは、イングランドにある。何だか日本のイギリス呼びはしっくり来ないんだよなぁ」
「んだのが! えぎりす、正式名称でねぇのー?」
「まぁ、私はイングランド人だから気にしないが……。北アイルランド、スコットランド、ウェールズ、イングランドがブリテン諸島にあって、関係国と一緒に『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』を構成している。ユナイテッドキングダムは、日本語呼びでは連合王国だね」
「日本が、
「向こう住みの人でも、東アジアで日本の位置を正確に分からない人もいるかもしれない。そこはお互い様だ」
なるほど。
私はあまり深く考えていなかった。そこは反省だ。
ただ正確な地図の話は、ポルトガルの宣教師さんたち、
思ったよりも、ホームズさんは地図を気にしていないようだ。
たぶん、自分の目で見た方が早い、と言いそうな感じがあった。
「うんうん。ソナタ君が考えている通りだ」
「私の心を覗いだのが……
「それは私の方からも言いたい台詞だね」
ホームズさんのことが私も少し分かって来た。
逆の立場では、私のことをホームズさんも分かっているのだろう。
お互いの思考が読めるくらい単純に、台詞が顔に書いてあるのだろうか。
雨の道は、国道7号線に入る。
目的地で開催されている祭りの看板が立っていて、ホームズさんは目の色を変えた。
驚いた目になったが、クスクスと目を細めて笑い出した。
「ソナタ君、気が利くね。大館バラまつり、いいね♪」
「たまたま、
大館バラまつり。
6月の梅雨時期、大館市内の石田ローズガーデンでは、バラまつり期間なのだ。
私は、偶々覚えていただけだ。本当に、偶々だから!
わざとツーンとした表情をとり、また歩き出す私。
その後をホームズさんは、嬉しいオーラを出しながらスキップして、ついて来た。
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