第11-2話 しずかな湖畔 やさしい告白の謎を追え!【推理編】

 秋田県大館市おおだてし田代町たしろまち早口駅はやぐちえき

 早口はやぐちは、世界遺産の白神山地しらかみさんちの端っこに位置する田代岳たしろだけや十ノ瀬山とのせやまなどの山々から、岩瀬川いわせがわ早口川はやぐちがわなどの米代川水系よねしろがわすいけいがある地域である。

 山と川、この日本らしい風景があると、昔なら職業として何があるか。山の林業及び川を使った運送業である。なお、鉱山もあった。

 時代とともに鉄鋼や木材の輸送は、川から鉄道に変わる。そして今の秋田県では、トラックなどの大型車用を用いた道路輸送が主流だ。

 上記で説明した通り、早口駅は木材などの輸送を目的とし、明治331900年に開業して今に至る。


 その駅前に、今、私たちはいる。

 今日は『9』のつく日なので、『早口市日はやぐちいちび』の日である。

 入口に、『まんずねまってたんせ』の面白い看板が、私たちを迎えてくれた。手書きでアットホーム感あるこぢんまりとした露店が並ぶ。

 すごく美味しそうな野菜や総菜、パンや、すてきな雑貨たち。まるで海外のマルシェに来たような楽しさを私は感じていた。

 不思議なはじめての感覚だった。とりあえず、テンション爆上がりなのだ。

 露店の1つ、能代市のしろしのアグリコッペさんのパンは、素朴な見た目ながら1個が大きい。これは食べ応えがありそう。

 お隣の露店、ふかさわファームさんは秋の季節の農産物がたくさんだ。

 生落花生? 乾燥でなくて、生? 

 私が不思議に思っていると、店のお姉さんに試食を勧められて、後で生落花生を煮ることにして思わず1袋買ってしまった。

 苦笑いの父が心配そうにして、目が輝きに満ちている私へ聞いてきた。


「おいおい、ソナ。それ、みな食べんだが?」

「うん、う!」

「あっはっは! お父さん、楽しみだわ!」


 皮肉なのか、現実逃避なのか、娘の奇行を父は笑って流した。

 露店の店員さんたちも思わず小さく笑っていた。

 私の母が亡くなってから、少し厳しい父が、かなり優しくなった。よく笑うようになった。

 何なのだろうと、当初の私は勘ぐっていた。でも今の父は明るくて、親父ギャグもよく口にするし、作品も挑戦的なものが多くなって、私は大好きだ。

 少し時間が経ってきて、地域住民の皆さんが続々と、車で市日いちびへやってきた。

 駐車場が混み始める。私たちは、露店の店員さんたちへお礼を述べてから、早口市日から離れた。


 その市日いちびで、空気のように元気がなかったレナは、車窓から稲刈り後のどこか寂しい風景を眺めていた。

 それは日本の風景として、美しくも儚さを感じるものだ。

 雅ではなく、俗っぽい風景だけど、私も心が動かされる。日本に住む者として、大事にしたい心かもしれない。

 それはともかく、静かなところでは、些細な変化にも気づきやすい。これは良い機会なのだ、と私は自分の不安へ言い聞かせた。

 細い集落の道を抜け、山道に入るとつづら折り、そして五色湖が見えてきた。道中の紅葉も赤や黄色に萌えて、素晴らしかった。


 駐車場、私たちは車を降りる。

 石造りの道を歩く。

 ここが山瀬やませダム、私の想像より大きいダムだ。

 ダム湖の紅葉は、人工物と自然の対比で、より良く赤が映えた。赤い山は鏡のように、風で波打つ湖に映る。

 すごく美しい風景!! とても風雅!!


「……ッ!!」

「ね、レナ、この風景すごくない!?」


 黙る娘にも効く光景だ。

 落ち込んでいるレナの青い瞳が少し動いた気がする。

 機会だと思い、私は軽いノリでわざわざ話しかけた。

 金髪の髪、ツインテールが動く。ほんの少し、レナは頷いたのだ。

 私は嬉しくて、顔をくしゃっとするくらい、声は出さずに笑う。

 するとレナは、重たい口をようやく開いた。


「ソナタ君……君は約束を守ってくれたんだな」

「ん、何のだ?」

「ほら、きりたんぽまつりの時の、2人でお弁当食べようって……」

「お? んだな!」

「ありがとう。今、決心がついた」

「ん~? 大事な告白だが?」

「そうだと私は思う」

「んだのが。まんつ、腹減ったし、飯にするべ」


 私はなるべく誘導しないように、レナへ短く答えた。まだ歯切れ悪いレナは少しずつ、五色湖ここで元気を戻してくれている。

 仕事合間の少ない休みの日、車を運転する父へ私はたくさんの感謝を覚えた。だから、駐車場においている車の中で、父は寝てしまったが、そのままにしよう。

 向こうまで歩く。落ち葉の道を東屋まで。そこで2人きり、お昼ご飯にすることにした。

 秋の紅葉狩り、そしてお弁当ピクニックの時間である。

 移動した先は、五色湖ごしきこの運動公園だ。

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