第6-3話 秋田の夜空を翔る星の謎を追え!【解決編】

 阿仁合あにあいから10数kmの山道を登ってきた。

 阿仁あにスキー場の駐車場には、天体観測を楽しむ人たちがそこそこにいた。

 今月はペルセウス流星群らしい。今晩が極大で天候も晴れ。

 ライリさん曰く、天体観測ファンはたまらない最高の状態らしい。

 ホームズさんが虫よけスプレーを念のため、もう少し丁寧にレイアさんにしてもらっている間、外で私とライリさんは2人きりだ。

 長々と星の話をされると思った。彼は大真面目に言った。どうやら私の表情は読みやすいらしい。


「ソナタさんはかなり純朴だから、表情から何を考えているか読めるよ~」

「んだば、何考えてらが分かるすか?」

「ん~、僕もレイアちゃんに告白しようと思うんだ~!」

「へぇ~。……えええッ!!」

「し~、声が大きいね~」

「すみません」

「カマかけたら当たったっちゃったかな~? じゃあ、そっちもがんばりなよ~」


 レイアさんとホームズさんが車から出てきた。

 そして、ライリさんはレイアさんを連れて、星が綺麗に見える方へ歩いて行ってしまった。

 もうホームズさんとは呼べないな。森吉山もりよしざんで、レナと2人きりになった。

 秋田の夜空に星が流れる夜だ。自然と目線は上に行く。今、顔が真っ赤でも彼女には見えないだろう。


「ソナタ君?」

「レナと星を見れで良がった!」

「!!」

「レナ!」

「はい、ソナタ君!」

「何でもねぇ!」


 案外、レナと名前呼びがすんなりと言えた。その間、流星は何度も私たちの頭上を翔けている。

『何でもない』ことだから、何でもないと言っているわけではない。ここまで来ても、まだ照れ隠しだ。

 宇宙の現象としてこんなに美しく、エルフのレナ相手に話せることが楽しく、今の私はそう思えた。


 レナは静かに星空を見上げていたけど、涙が頬を伝っていた。

 星降る夜は、今までの色々な思いが流れる。お互いに言葉は少なかったけど、噛みしめるように話し合った。


「どうしたんだ?」

「あまりにも星が綺麗なんで……ね」

「ありがとう。夏の思い出が1つ増えた……ありがとう」

「はじめての感情が多くて、何だか今夜はとてもうれしい夜だ」

「んだな、私もだ」


 今は感動で胸がいっぱいだ。古典的なムードの高め方だけど、言葉よりも多く分かり合えた気がする。

 探偵エルフさんのレナと、秋田の夜空に翔る星を追った、夏の思い出の日を私は忘れたくない。


 しばらく星を見ていたけど、車の中へ戻るにはまだ名残惜しい。気持ちが上がり過ぎて、私たちは寝落ちするのも早かった。

 阿仁あにに住むレイアさんのお宅に一晩お世話になる。

 次の日、始発とともに鷹巣たかのす駅行きの秋田内陸線で戻った。最寄りの駅まで阿仁あにの男女コンビは見送りに来てくれた。

 列車の中では、景色をボーと眺めて、お互いに言葉がなかった。

 忘れないように思い出を何度も繰り返していたからだ。あぁ戻るのか、と思えるので、昨夜は特別な出来事をしてきたのだ。

 鷹巣たかのす駅からは、あの低速な原付バイクで大館へ戻ることになる。

 レナは眠そうに目をこすってから、ヘルメットを私に渡してきた。レナの目が腫れていたので、思わず私は噴き出した。

 バイクのサイドミラーで自分の顔を見たレナはバツが悪そうな顔をした。私は1発かました。


「お恥ずかしい顔ですが、大館に戻りたいと思います」

「レナ!」

「夢じゃないんだ! また泣きそう!」

「ちゃんと運転せじゃ!」


 安全運転は大事だ。今日のレナは涙を堪えた。

 帰りの国道7号線は、行きよりも低速運転だった。

 その乗車の長い間、レナの胴に抱きついても文句は言われない。レナがくすぐったくて笑って、背中が動いた。

 まだ、この距離感に慣れなくて。少しの静寂があったけど、向こう側の闇に溶けて行ったようだ。

 強い朝日が原付バイクに当たる。

 一斉にセミが鳴ぎ出す。朝のうちは夏の生暖かい風でさえ優しく、私には居心地よく感じた。

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