第10-2話 腹TUEEEE! きりたんぽの謎を追え!【推理編】

 朝から昼へ向かう、午前の大館おおだてニプロハチ公ドーム前は、太陽のおかげで寒さが緩む。まずまずの人の流れがあった。

 白いドーム会場の前には、噴水池がある。そして、柵には『きりたんぽまつり』臙脂色の幟旗が立つ。

 その奥、凸凹の女子ズが立っていた。

 長身の娘の方が、子供っぽくはしゃいでいる。その横で小柄の娘が冷めた目つきで見ている。

 長身女子、明らかにスポーツする恰好のシアは、去年までは国民体育大会・陸上競技の強化指定選手だった。

 奇行癖から協調性がないので、今はチームを離れて、自由人なのだ。

 そして、謎の動きは、国体で有名な『若い力』の動きだ。第2回石川いしかわ国体で集団演技されて、それから脈々と受け継がれてきた。

 寒そうに首をすくめ、秋用コートのポケットに手を入れる小柄ヤンキー娘、ミヒロは辛辣な一言を吐いた。


「集団演技なのに、協調性がなさそうな、お前が一番機敏に動けるのな」

「ふふん、シアちゃんの動きがすごいって認めてくれるんだね! 未来のアイドル候補生のミーちゃん!」

「誰がアイドルになるんじゃ! あたしはロッカーになるの!」

「アイドルもロック曲やるよ~!」

「それは知っているわい! ロックの魂は売らんぞ!」


 夫婦漫才が続きそうなので、私は咳払いで止めた。シアとミヒロは、私たちに気づき、挨拶を交わす。

 おずおずした感じのレナは、遠慮がちに私たちに聞いた。


「その……きりたんぽという謎のグルメを私は食べるのだろうか……」


 秋田に馴染んでいる3人は、思わず吹き出してしまった。

 特に、ミヒロと私は大真面目な探偵の話なのだが、笑いが堪えられなかった。

 シアだけ笑わず、ギリギリ踏みとどまり、謎のカタゴト外国人になっていた。とはいえ、この級友らしい悪ノリではある。


「きりたんぽ、怖くないデース。そこで作る。食べる。きっと好きになる。ハイ、ニッコリ~!」


 あぁ、シアの言いたいことが分かってきたぞ。

 私とミヒロは、笑うのを止めて、目配せした。ミヒロはシアに耳打ちして、先に右の道へ歩いていく。

 レナは不安そうに見てくる。私は向こうを指さして言った。


「たんぽ汁食いて……その前に! 会場で焼いてば分かる! せば、あっちゃ行ぐど!」

「なるほど。参加体験型学習ワークショップか!」


 きりたんぽ一万本焼き。350円で、きりたんぽを作る工程の1部を体験できるのだ。

 私たちが口で煽るよりも良い。会場が優しくレナを導いてくれる。

 ただし、探偵エルフさんは目を回している。


「なるほど、兵士は武器を自分で組み立てできて当然か」

「……」


 ポンコツ探偵の推理は凄まじい。ついに、武器系の短穂?

 思わず、ツッコミたかった。ただ、彼女の成長を信じて堪えた。

 それは、短穂の話だ。すれ違い漫才はまだ続いていたのか。

 もう私は心の中でツッコミをすることにして、会場の空気にレナの修正を任せた。

 スタッフさんに、木の棒に刺さった丸い米の塊を各々もらった。


「木の棒に、半分つぶした、おにぎりライスボール?」


 レナの戸惑い声。

 さすがに、殴り合う武器でないと気づいただろうか。

 しかし、隣のシアとミヒロが、探偵のミスリードを助長した。


「半ごろし~!」

「あたし、つぶしが甘い方が好きだわな。食感重視、私の好みよな」


「ハーフ キルド ライスッッ!! は、はんごろしッッ!!」


 プロレス技を見たような、扇動的な実況解説になっている。

 それだけ、レナには刺激的な方言だ。

 米粒を半分つぶしているので、半ごろし。米のつぶれ具合で、触感や汁の染み方が変わってくる。

 探偵エルフさんは、おっかなびっくり、調理用手袋をはめた手で、棒に米を伸ばしている。

 さて、凸凹コンビは次の工程に移る。ゴロゴロと机の上で転がして、きりたんぽの形を整える。


「ころがす~、ととのってきました~」

「あ、破けたところをごまかしていいか?」

「いいの~、いいの~。やればできる~、なせばなる~」

「ま、ゴロゴロっと」


「半ごろし、伸ばして、ゴロゴロでリカバリーしたつもりなのかッッッ!!!?」


 ポンコツ探偵、壮大な事件が発生している言い分だな。目の前のスタッフさんが苦笑いしているぞ。

 そうこうしているうちに、ミヒロ・シアは次の工程へ移っている。七輪で、たんぽの表面を乾かす。


「醍醐味~。表面をさっとね~」

「七輪に先がくっつきそうなのだが! 倒れる! 熱っつ!」


「半ごろし、伸ばして、ゴロゴロ、表面をあぶられた……」


 レナのささやき。

 その解説の通りの工程ではあるけど、聞いた人がミスリードしそうな表現だ。

 深刻そうな顔のままだから、また笑いを堪えないといけない。

 ミスリードをばらまく、2人は次の工程へ移っている。網の上、きりたんぽに焼き目をつける。


「おこげ~、私好き~」

「おい、なかなか焦げねぇぞ」

「水蒸気が出てくるはず!」

「ふーん、合図があるんだな」


「半ごろし、伸ばして、ゴロゴロ、表面をあぶって、焦がす」


 レナは白目になりながら、きりたんぽを焼いている。

 イギリス産エルフ娘には刺激が強すぎたようだ。いや、1人ミスリードを深めすぎているだけだ。

 香ばしく焼けたきりたんぽに、スタッフさんから味噌を塗ってもらい、きりたんぽは完成した。

 私たち3人は、美味そうな匂いに、たまらず噛り付いた。

 探偵エルフさん1人が目をつむり、恐る恐る口に運ぶ。


「……うまい」


 レナは、きりたんぽと和解できたようだ。

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