勝算

 氾濫したベイケの魔力が速攻で、ベイケを毒栄養で回復する。どうギルベキスタを倒すか、ベイケがイメージ訓練をする。

 暴走したベイケの魔力が次々と毒魔術でギルベキスタを襲っている。どのくらいの傷を与えているのか手応えがまだわからないが、ギルベキスタはベイケの暴走した魔力を慎重に見極めている。

 周囲でベイケの魔力が支配的になる。観察していた世界魔術師四人と、ベイケの仲間三人と、数人のギルベキスタの同居人は、ギルベキスタの個人魔力をベイケの個人魔力が押し返そうとしているのを見て楽しんでいる。

 勝ち目のない戦いに挑んだ青年をもっと長く見ていたい。観察しているものたちはそんな気持ちだった。

「契約魔術、毒魔術」

 ベイケが契約魔術で毒魔術を使うと、ギルベキスタは許可した。しかし、攻撃をくらう時はその毒魔術を完全に無力化している。

 ギルベキスタの契約魔術についての思想がわかり、少し面白かった。

「召喚、異端魔術師ダイツア」

 ベイケが召喚魔術に頼った。

 それを見ていて、ミシアも、ノアミーも、ウォブルも、緊張感でいっぱいになる。召喚魔術を使うのは危険だ。何が起きるかわからないぞ。仲の良い召喚相手でなければ、素直に召喚士の依頼を実行してくれるような相手ではない。

「拒否する」

 隣室で壁を透視しながら観戦しているダイツアは、ベイケの召喚を拒否した。

 召喚失敗だ。

「まだ、あるぞ。召喚、魔術師ギルベキスタ」

 ベイケが敵であるギルベキスタを召喚して、ギルベキスタと戦わせようとする。

「やってみたくなる気持ちはわかるが、わたしはその形式的な召喚魔術の使い方は好きではないな。拒否する」

 ギルベキスタがわずらわしそうにいった。

 またしても、召喚失敗だ。

 まだ、ベイケの魔力は暴走している。次々と氾濫した魔力がギルベキスタを毒魔術で襲っている。

 しかし、ベイケの仲間の三人はベイケが何を狙っているのかわかっている。教師エンドラルドを倒し、魔族を倒したベイケの最強技だ。

「いや、これが最強技ってわけじゃないぞ」

 ベイケがふと周囲の感想を察したのか、そんな解説をする。

 問題はギルベキスタがベイケの狙いを注意深く観察したことがあるかどうかだよなあ。ギルベキスタにとって想定外の攻撃だというのなら、ベイケに勝ち目がある。

「うおおお、暴走が止まらねえ」

 ベイケの精神の中枢から魔力が暴走していて、ベイケ自身は本当に魔力の暴走を止めることができない。ベイケの暴走した魔力が次々とギルベキスタに毒魔術をくらわせる。

 ギルベキスタが放ってくる雷撃は、ベイケの暴走による毒栄養で回復している。

 そして、ここで攻撃を先取るんだ。

 外すわけにはいかないぞ。全力だ。全力でベイケはあの一撃を放たなければならない。

「暴走制御」

 ベイケが暴走して氾濫した魔力を高精度で制御して、効果的に魔術を構築して、魔術師ギルベキスタに毒魔術で攻撃した。

 ギルベキスタはそれをくらう。

 どうだ。

 ベイケはこの技の効き目を早く確認したい。

「この程度が全力だったというなら、おまえは魔術師としての世界観が狭かったといわざるを得ないぞ」

 ギルベキスタがそう言い放って、ベイケの暴走制御の毒魔術をくらいながら、まだかなりの余裕があることをにおわせていた。

 安心しろ。もっとすごい技を狙っている。それが本当のおれの全力だ。ベイケが思った。

「わたしが世界に溶けているというのは本当だ。わたしが倒れる可能性はまずない。それでも続けるか、挑戦者よ」

 ギルベキスタの問いかけに、

「続ける」

 ベイケは答える。

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