書庫
礼拝堂をさらに奥へ進むと、廊下があり、いくつものドアがあった。すべての部屋を確認したかったが、ベイケが特に興味を持ったのは廊下の左側の真ん中あたりにある階段だ。
階段の隣には『書庫』の板が貼ってあるのだ。
「おーい、こりゃ、どうする。書庫だぞ」
「書庫って何?」
「本がいっぱいあるところ」
「今から読むの?」
「読まない」
「安心した。きみは物知りだが、ここで書物を熟読し始めたらどうしようかと思っていたよ」
「いや、でも、どんな本が置いてあるかの確認はしたい」
「二、三冊持っていく?」
「持ち出すのは危険じゃないかなあ。教会遺跡の本だぞ。一冊も失ってはいけない貴重品のはずだ」
「書庫で何をするんだ?」
「本を読むんだよ」
「きみは変わり者だな」
「魔術書とかなら読みたい?」
「斬撃魔術の本ならね」
斬撃魔術の本を見つけるのは難しいなあ、とベイケは思った。
ベイケとしては、教会遺跡に書庫が残されていたのは、物凄く大きな収穫なのだ。書物の出来には上下があるだろうが、もし、特一級資料がずらっと並んでいるなら、大人の大学者たちを読んで本格的に調査してもらいたい。そのためには、怪我で寝ているはずのエンドラルド先生の協力が必要になるだろう。
ベイケの目的は、教会滅亡後世界の現在において、教会が滅亡する前の時代を探すことなのだ。さっきの腐敗した神官が三千年前の教会滅亡の時代から生きていたことから、この教会は教会滅亡の時代からずっと続いているのだと推測できる。そして、それなら、この教会遺跡の書庫にある本は三千年以上前の本。
教会が滅亡する前の本。
魔術師ギルベキスタがこの地域一帯を統治していた時代に書かれた本。
そういう本が収集されている可能性が高いのだ。
もし、魔術師ギルベキスタの日常生活を知ることのできる本があるなら。
それがあるなら、どれほど嬉しいか。
魔術師ギルベキスタがいいやつだったのか、やなやつだったのか、その時代の人の感想を知りたい。現在では、魔術師ギルベキスタが人々にどう思われていたのかは完全に失われているのだ。
魔術師ギルベキスタは、みんなに慕われていたのか、嫌われていたのか、それすらわからない。
魔術師ギルベキスタの魔術について書かれた魔術書があったら、ぜひ手に入れたい。
魔術師ギルベキスタを超える魔術書があったら、その時は、ベイケの異端研究が捗るだろう。
三千年以上前の古書だ。そんな古代語を読むことができるだろうか。ベイケは頭が痛くなる。
ベイケは試しに一冊の本を取り、開いてみると、その文字がベイケにも読めるものであることを確認すると、すぐに本をもとの場所に戻した。
「あそこの緑の液体、動いていないか」
ミシアがいうので、ベイケは書庫にたまっている液体を見た。確かに動いている。
あれは、液体生物だ。腐敗した建物に棲みつき、人々を襲う。
「こんな大事な書庫で戦いたくはないなあ」
ベイケはそういったが、すぐに液体生物に毒魔術を飛ばした。
ミシアは後退する。液体生物はおそらく毒を持っている。ミシアは液体生物と戦いたくない。液体生物はミシアの苦手な敵だ。ミシアは心の中で考える。液体生物と上手に戦う手段が浮かばないのはミシアの弱点だ。弱点は減らしていかなければならない。どうすれば、液体生物の苦手さを克服できるだろうか。苦手な敵がいることをミシアは自分で許すことができず思い悩んだ。やはり、魔術師として腕をあげていくには、いろいろと考えなければならない。良い師が欲しい。教師エンドラルドが教えてくれないのだから、他に誰か良い師が見つからないだろうか。
ミシアがそんなことを考えているうちに、ベイケと液体生物の毒毒対決は激しさを増していた。
「おりゃあ、毒では負けねえ」
ベイケが気合を入れて液体生物を毒で殺す。毒にはたくさんの種類があるので、毒性の生物も毒で死ぬことはよくある。
バチバチバチと液体生物の体が毒ではじけ、ベイケの毒魔術で液体生物の生命力が失われていく。そのままベイケが気合で押し切って、液体生物を倒した。
ミシアは液体生物に後退したことを重く受け止め、これから戦闘に何度も関わるのなら、その戦闘で生きのびるためには液体生物にも勝てるような準備を整えていないと危険だと考えた。
そんなミシアの悩みにはまったく気付かず、ベイケは毒毒対決に勝利したことを誰も讃えてくれないことを悔しがった。
「あそこにも液体生物がいるな」
ウォブルの視線の先に緑の液体生物がいる。この書庫は液体生物が縄張りにしているようだ。ひょっとして、この液体生物たちは人のことばが読めるのだろうか。いや、それをいってしまうなら、この書庫に液体生物が執筆した書物が置いてあっても不思議ではない。
紙が美味しいだけかもしれないけど。
ウォブルと液体生物の戦いが始まった。ウォブルに襲いかかろうとする液体生物をウォブルが重力を加速させて圧縮して、液体から固体に変わるまで押しつぶしてしまおうとした。
液体生物は宙に浮かされ、宙でもがいているので、自由に動くことができなかった。このまま宙に浮かばされたまま、重力が加速して圧縮させられてやられてしまうのだろうか。ウォブルの魔力がそこまで持つか。
ガンッガンッガンッ。ウォブルが重力操作を解除して、固体になった液体生物を床に落とした。ウォブルが液体生物に勝ったのだ。
そして、四人は書庫をあとにした。
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