異端審査官
ベイケたちは、さらに芝草の都にある異端審査機関の本部に攻め込み、異端審査官たちを次々とやっつけた。
「異端思想は伝染病のように広がる。根絶することが極めて重要だ」
異端審査官はそのように演説をぶった。
異端審査官はなぜギルベキスタを讃えない魔術師を異端だとして迫害するのか。それはわからない。芝草人形は、世界の物質を掌握したギルベキスタを別種であることにこだわらずに大絶賛で讃えていたのかもしれない。芝草人形の体も物質でできている。だから、芝草人形の身体と精神も、人類と同じようにギルベキスタに掌握されているのだ。
しかし、正統な教えが残っていないのに異端裁判をくり返す芝草人形の異端審査官たちは狂信者だといえた。
ベイケたちは異端審査官の芝草人形たちをひとり、またひとりと退治していった。人類の魔術師に多大な迷惑をかけてきた芝草人形の異端審査官たちだ。退治されてくれるのは、ベイケたち魔術師にとってはとても楽になることだ。
ベイケは契約魔術で毒魔術を使い、異端審査官を攻撃した。契約魔術の毒魔術が異端審査官に効く。つまり、ギルベキスタは異端審査官を守っているわけではないようだ。
試しに、ノアミーも契約魔術で雷撃を使い、異端審査官を攻撃する。やはり、契約魔術の雷撃が異端審査官に効く。魔術師アギリジアも、異端審査官を守っているわけではないようだ。
ベイケたち抵抗軍の異端審査官への攻撃は激しい怒りに満ちていた。納得のいかない異端裁判で迫害されたことを恨んでいる。理不尽なことだったと感じている。
ベイケは毒魔術で異端審査官を瞬殺する。
ミシアは杖の斬撃(物理魔術)で異端審査官を瞬殺する。
ノアミーは雷撃で異端審査官を瞬殺する。
ウォブルは重力操作で異端審査官を瞬殺する。
異端審査官が強いということはなかった。魔術に詳しいわけでも、魔術を練り上げているわけでもないのだろう。なぜ、その異端審査官たちに人類の魔術師は今まで迫害されつづけてきたのか。
誰が今まで芝草人形の異端審査官を守ってきていたんだろうか。芝草司令官が倒され、芝草兵士たちが散り散りになっている今、異端審査官を守る軍隊はいない。
残る異端審査官は、五十三体。今日のうちにすべてを逃がすことなく倒したい。
芝草の都の異端審査機関の本部に居た異端審査官は五十八体だった。この五十八体の芝草人形が異端裁判の最高の階級に所属して、異端者を裁いていたのだ。
許せないものがあった。組織の階層の人数比のからくりを感じる。たった五十八体であることを隠して、数万体の芝草兵士に守られていたのだ。
芝草人形の異端を裁きたいという欲求を満たすために。
「少年よ、芝草の都を攻め落とす前に、異端審査官に正統な教えが伝わっているのかたずねるか」
ノアミーがいう。
「いやあ、ぜんぜん、芝草人形に正統な教えをたずねる気が起きないわ。心の底から起きないわ」
とベイケが答える。
「そうか。わたしもだ」
ノアミーがいう。
「あと、異端審査官たちに何を聞きたい」
とベイケが三人に聞くと、
「わたしは、ギルベキスタが変態だったか、変態でなかったかを聞きたいな」
とミシアが答えた。
変態かどうかについてか。緊張感の走る質問が来たな。
「よし、ならば聞こう、芝草人形の異端審査官たちよ。あなたたちは三千年前に人類の教会を滅ぼしたという魔術師ギルベキスタが変態だったか、変態でなかったか、どっちだったか知っているなら教えてくれないか」
ベイケは声をはりあげてたずねた。
「変態だ」
「変態だ」
「変態だ」
と口々に異端審査官たちがわめきたてた。
「満足だ。戦いを続けよう」
ミシアがいった。
そして、四人は五十三体の異端審査官を倒した。残り四体だ。その四体だけは他の異端審査官とは異なる場所に位置しており、様相からして雰囲気がちがった。
残った四体の異端審査官のいる位置に移動すると、急にそこに大きな部屋があることがわかり、その部屋にたくさんの芝草人形が集まっていた。
仕事をせずに、異端審査官の利益をむさぼっていたものたちである。権力者のたまり場には、このような自由人がたくさん集まっていることがある。
ベイケは、芝草人形の異端裁判を終わらせるには、この役職のない芝草人形たちをすべて倒してしまわなければならないと考えた。そこまでしてはじめて勝利といえるものである。ここにいる三十四体の役職のない芝草人形が異端裁判の首謀者たちなのだとベイケはにらんだ。
三十四体の役職のない芝草人形を倒した。魔術で反撃してくる芝草人形もいたが、ベイケたちは無傷で瞬殺していった。ベイケは自分の毒魔術で時間が壊れていくのを感じていた。空間も毒魔術で操作できるようになりたい。
芝草人形が棍棒で殴りかかってくることもあった。ベイケが味方に対する攻撃を先取って、毒魔術で倒した。
三十四体の異端審査機関にいた芝草人形を倒した後、最後の四体の異端審査官との戦いになった。
五十三体の異端審査官にも、三十四体の役職のない芝草人形にも、強い権力を持つ四体の異端審査官である。
最後の四体の異端審査官と戦になり、すぐに四人ともびっくりした。この四体の異端審査官は、毒魔術、斬撃魔術、雷撃、重力操作の使い手だったのだ。ベイケたち四人と同じ魔術を使い戦うようだ。
「偶然ではないだろう。たぶん、敵の得意とする魔術で戦う魔術師なんだ」
異端審査官の毒魔術は放たれることなく、ベイケが攻撃を先取って毒魔術で倒した。
斬撃魔術の異端審査官は、ミシアの剣術の巧みさによって倒した。
雷撃の異端審査官は、ノアミーは電撃で迎撃するのに精いっぱいで、倒すことができなかった。だから、後でベイケが毒魔術で倒した。
重力操作の異端審査官は、ウォブルがより強い魔力による重力で押し合いを圧倒して、異端審査官を重力でつぶしてしまった。
これで、異端審査機関の本部を壊滅させることに成功した。
いったいどのようにして芝草人形が生命を持ちえたのか、それはよくわからない。芝草人形たちは個体の意思を持ち、みずから考えて判断し、行動する。芝草人形たちがすべて誰かの魔術師に操られていた可能性は捨てきれないものの、その可能性は低いとベイケは考えた。芝草人形たちの異端審査は、芝草人形たちの自由意思から生まれた活動であり、おれはギルベキスタが教会を滅ぼす以前から存在したのだ。
ギルベキスタは教会を滅ぼしたが、芝草人形を滅ぼさなかった。そのため、このような奇妙な権力関係が三千年間つづいたのだ。
厳しい戦いだった。ベイケは思った。厳しい戦いに勝利した達成感を感じる。
そして、四人は疲れを癒すために宿に一泊して夜をすごした。
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