全力

 ギルベキスタの顔を見て、ベイケは不敵に笑った。

 ここからがベイケの全力だ。

「無限暴走」

 ベイケがつぶやく。

 ベイケの魔力が増幅効果を使って、限界を超えて広がり始めた。

 魔力の順張り増幅。それは無限に到達することができる。

 世界を掌握する魔力を持っているギルベキスタに勝つには、この技しかない。

 ギルベキスタは一代で世界級の魔術師になった。それは、人には世界級の魔術師になるほどに強い魔力を得ることができることを示している。それなら、ベイケにだって、一代で世界級の魔術師になる可能性はある。

 毒魔術全開。

 魔術の家の中で、ベイケの毒魔術が暴走して拡大して、家の外まで魔力が広がっていく。

 この技は本当に魔力を無限に暴走させることができる。ベイケの魔力が暴走によって、ギルベキスタの魔力より大きく広がらなければならない。

 それを狙って、ベイケが無限暴走した毒魔術を動かそうとする。


 ベイケの魔力がギルベキスタの掌握している地域の大きさにまで拡大していく。ベイケは必死に無限暴走する毒魔術を健康的な毒にしようとしている。香辛料のような毒物ならたぶん良いだろう。

「これが狙いか」

 ギルベキスタは魔力耐性が高いが、さらに、防壁を魔力で作り、敵の攻撃を防いでいる。その防壁がベイケの無限暴走した魔力で少しずつはがされていく。

 かなり見所のある魔術師だ。ギルベキスタは自分の中で考えていたベイケの評価をあげた。


 観戦していたものたちは、二人の戦いがこの地域の危機になる可能性が出てきたので、ものすごく不安になってきていた。世界魔術師たちは笑い飛ばしている。

「おれが、おれが、あんたに変わってこの地域の世界魔術師になる」

 ベイケが宣言した。

 ベイケは、ギルベキスタが自分の体が世界に溶けているといっていたので、自分もこの地域の世界に溶け込もうかと考えた。


 世界を掌握しているギルベキスタの魔力と、無限に暴走したベイケの魔力が同じくらいの強さになってきた。

 無限暴走がここまで危険な技だったとは。ギルベキスタは、挑戦者が世界級の魔術師の二段下くらいまでには自分の魔術を練り上げていることを理解した。

「おい、ウォブル。ひょっとして、ベイケが勝つとこの辺り一帯の地域は毒魔術に支配されることになるのか」

 ノアミーが聞く。

「どうかなあ。でも、ベイケの使える魔術なんて毒魔術ばかりだからなあ」

 ウォブルが答える。

 どうなるのだろう。ミシアも、ノアミーも、ウォブルも、心配だ。


 ギルベキスタは次々と襲ってくる毒魔術に対処しながら、ベイケを雷撃で撃つ。ベイケは暴走した魔力が次々と毒栄養で回復してくれるので、傷はすぐに治る。

 ベイケはその時、いっきに重要なことを理解した。

 こうやって世界級の魔術師になるんだ。きっかけは無限暴走だったんだ。

 ベイケの無限暴走で、町中に毒物が氾濫して、さらに町の外にまで毒物が汚染していった。この地域一帯が毒物で汚染される。

 しかし、ベイケにはまだ狙いがある。

 ギルベキスタを倒すためには、この程度ではダメだ。

 ギルベキスタを倒す策。

 無限暴走を行えば、勝算があると考えていた。いざ実行してみたら、ギルベキスタより大きな範囲を包み込む魔力にまで無限暴走させなければならないことに気付いて、かなりビビッてきた。

 ギルベキスタよ。4000年前に生まれた普通の人類。一代で世界級の魔術師になった英雄。900年間、教会で褒められていた人。3000年前に教会を滅ぼしたもの。教会の収穫をなくなってしまうまで遊んだやつ。そのおまえに、これからおれが勝つんだ。ベイケが心の中で強く決意した。

「無限制御」

 ベイケが無限暴走した魔術を高い精度で制御してギルベキスタを攻撃した。この地域に広がっていたベイケの魔力が、生命に毒栄養を与えて回復させるようにした。たくさんの無限に暴走して魔力の行うべき仕事を行った。

 ギルベキスタは、無限制御の毒魔術をくらってぎりぎりで立ち尽くしていた。

 相当に厳しい致命傷が入ったからである。


 わたしが挑戦者に負けるのか。そんなことはない。そう簡単には勝たせないぞ。ギルベキスタは慢心を捨て、慎重に戦わなければならないことを再び自分に戒めた。

 観戦している四人の世界魔術師たちはすでにおおいに楽しんでいる。


 そして、最も強い精神の変化を経験しているのはベイケだった。ベイケは自分が無限暴走を無限制御したことによって、ベイケは、自分が世界級の魔術師になるにはどうしたらよいのかわかってしまったのである。

 ベイケはギルベキスタと同じくらいの魔力範囲を持つ世界級の魔術師になったのだ。


 ベイケはそのことを伝えるべきか、黙っておくべきか、悩んだ。慎重にいくなら黙らなければならない。

 偶然にも、というか、世界魔術師たちがこの時機にちゃんと戦いを観戦できる場所にいることは狙ったことであるとしか思えないが、今、ここにベイケの知る主だった世界級の魔術師がそろっているのだ。彼らに、ベイケが新しく世界級の魔術師になったことを伝えたい。

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