道がつづく

 ギルベキスタが住む西の町の魔術の家に向かっている。

 その道は、奇妙な飾りが置いてあり、ありえない形に曲がりくねり、登ったり降ったりしながら、不思議な道になっていた。

 世界の物質を掌握している魔術師ギルベキスタが自分を訪ねる来訪者を歓迎しているのだ。ギルベキスタが何を狙っているのかはわからない。

 ベイケとミシアが先頭を歩き、ウォブルとノアミーがその後ろを歩いている。四人の世界魔術師はその後ろから歩いてついてくる。

「あの人たちが、きみが目指していたという世界級の魔術師なのか」

 ミシアが聞くと、

「そうだよ」

 ベイケが答えた。

 四人の世界魔術師が一度に集まると、ベイケも慎重になってしまう。

 ベイケ、ミシア、ウォブルは魔術師ギルベキスタと魔術の契約を結んでいて、ノアミーは魔術師アギリジアと魔術の契約を結んでいる。

 すべての生物が魔力を持ち、それによって発動する魔術を個人魔術という。世界魔術師と契約を結んで発動する魔術を契約魔術という。

 どの世界魔術師と契約を結ぶかは、実はとても重要なことである。世界魔術師たちは黙っているが、世界魔術師たちの間の魔力の差というのはとても大きく、どの世界魔術師と契約を結ぶと強い魔力で魔術を発動できるかは大きく変わってくる。

「魔術師ギルベキスタに挑む若き挑戦者よ。きみはよいところに目を付けた。ギルベキスタは、いちばん最初に魔術で世界の物質を掌握したといわれている。わたしでもギルベキスタに挑もうなんて気持ちは起きないよ。きみの勇気は素晴らしいものだ」

 魔術師グルダヤがいう。

 ベイケはうなされるように黙って歩いている。

「魔術師ギルベキスタは人格者だ。我々に挑戦するなら、最初にギルベキスタを選んだのはとても賢明だった。ギルベキスタなら挑戦者に高潔な気配りを持って当たってくれるだろう」

 魔術師グルダヤがつづける。

 ベイケは、グルダヤが親切で話しかけてくるのか、いたずらしてやろうと話しかけてくるのか、どちらかわからず、心臓が止まりそうな緊張感を感じている。

「魔術師ギルベキスタの魔術は洗練されている。あそこにいる魔術師ドービーは、魔力の強さはギルベキスタの十倍はあるのに、魔術が洗練されていないために、きみに挑戦してもらうことすらできない」

 魔術師グルダヤがつづける。

 ベイケは何と答えてよいのかわからないので困っている。


 世界魔術師が四人も集まっているのはどういう状況なのだろう。世界の物質の動きを掌握している魔術師が四人いるのだ。つまり、この周辺の地域は、物質の動きが四者のそれぞれの操作によって決まることになる。それはものすごく難しい状況だ。

 そうだ。世界魔術師が四人も集まっているので、この魔術の道の物質がびっくりしているのだ。

 この先には、さらにギルベキスタの家がある。ギルベキスタが加わり、世界魔術師が五人になれば、さらに物質の動きが複雑化して、物質がもっとびっくりすることだろう。

 ベイケにとって、ギルベキスタとの戦いの場所に他の四人の世界魔術師がいるかどうかは、あまりにも大きく状況がちがうといえる。

 ベイケは、ギルベキスタとの戦いをきっかけとして、世界の物質の動きの操作に参加したい。しかし、その始まりに、他の四人の世界魔術師がいて、物質の動きを複雑化されてしまうと、ベイケはどうしていいのかわからなくなるだろう。


 ベイケの狙いには、毒魔術を選んだ自負がある。生物が原始時代に獲得した機能は、雷撃回路と毒物である。雷撃回路はギルベキスタの得意分野。ベイケは生物が原始時代に獲得した機能である毒物の重要性を狙う。


 四人の世界魔術師は、これから始まることを極めて贅沢な出来事であると考えて、ぜひ観戦しようとしている。

 最も尊敬を集める世界魔術師と、弱冠十六歳の若者魔術師の一対一の戦いである。

 どちらもなかなかの食わせもの。こんな戦いは見なければ損だ。

「どうなると思う」

 ミシアがウォブルに聞いた。

「ギルベキスタが眠っていたって、ベイケが負けてしまうさ」

 ウォブルは厳しい意見を述べる。


 ギルベキスタは、ベイケたち四人が近付いていることに気付いているだろうという予感がする。とても緊張する。

 四人は少しずつ魔術の家に近付く。

 四人の世界魔術師がベイケたちを観察している。そして、ギルベキスタもすでにベイケの接近に気付いてこちらを観察しているだろうとベイケは想定している。


 ギルベキスタの使いが二体、四人のところへやってきた。二体とも槍を持っている。

 ギルベキスタの使いの一体がベイケに槍を突き刺そうとする。ベイケはその攻撃を先取って、毒魔術で攻撃して倒す。

 ベイケの意思と実力を確認にきたのだろうか。

 倒れたギルベキスタの使いをもう一体が担いで、来た道を引き返していった。つまり、ギルベキスタがいるはずの魔術の家に帰っていった。

 ベイケたちもそれを歩いて追う。

「ギルベキスタの家を通りすぎるなよ」

 ウォブルが助言するが、

「大丈夫だ。あの家に集まる魔力が高すぎて、まちがえようがねえ」

 とベイケは答える。

 すると、その先にまた邪霊と巨大ガニが三体ずついて、ベイケたち四人に襲いかかってきた。邪霊と巨大ガニは世界魔術師たちには襲おうとはしないようだ。


 邪霊が素早くノアミーを攻撃しようとしたが、ベイケが毒時間を挿入して邪霊の動きを遅くして、毒時間から自分の活力を回収しつつ、毒魔術で攻撃を先取って攻撃した。邪霊が一体倒れる。

 これがベイケの戦闘の強さだ。邪霊一体にこれだけの行動をする。それに対して、世界魔術師たちはどうなのだろうか。世界魔術師たちが邪霊や巨大ガニとどのように戦うのかぜひ見てみたかったが、世界魔術師は誰一人攻撃を狙われず、戦う前から邪霊も巨大ガニも掌握しているようだった。

 この世界魔術師たちとギルベキスタは同じくらいの強さなのだろう。ならば、ベイケに勝ち目などあるわけがないと考えてしまいがちだ。

 しかし、ここに居る魔術師たちはみんな、ミシアも、ノアミーも、ウォブルも、魔術師ダイツアも、魔術師ドービーも、魔術師グルダヤも、魔術師アギリジアも、ベイケを底知れぬ実力を秘めたものだと想定していた。

 ベイケには、そこまでの可能性を感じていた。ひょっとしたら、今、ベイケを観察しているかもしれないギルベキスタも、ベイケにそこまでの可能性を感じているのかもしれない。

 ベイケの毒魔術と、ミシアの杖の斬撃(物理魔術)と、ノアミーの雷撃と、ウォブルの重力操作で、邪霊と巨大ガニを倒した。

 世界魔術師たちは手をかさなかった。

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