異端裁判篇

嫌疑

 ベイケたち四人は学校に通っていた。卒業するつもりでいる。まだ学校は魔術を古代の架空理論の知識だといっているが、少しは参考になるところがある。

 ベイケたち四人は同学年で下から四位を独占する劣等生であるらしい。ベイケたちは学校での評価を気にしないことにして、楽しくすごしていた。

 そんなところに来訪者が来た。

 芝草人形だ。

 芝草人形の異端審査官だという。

 ベイケ、ミシア、ノアミー、ウォブルの四人が異端思想に取り込まれていると異端審査官は主張する。

 それを聞いて、ノアミーは涙を流した。

「うそだ。誰よりも正統であるはずのわたしが」

 泣き始めたノアミーの背中をミシアがさする。

 厄介ごとが降りかかってきたようだな、とベイケは思った。

「異端になるとどうなるんですか。何かおれたちが悪いことでもしたんですか」

 ベイケが芝草人形にいう。

「異端者は異端裁判で裁かれたのち、教会の仲間ではないと認識されるようになってしまう。それはとても気を付けた方がよいことだ」

「教会なんて三千年前に滅びたじゃないですか」

「教会が滅びても、異端審査機関は滅びていない。我々は、いつまでも異端が現れるたびに取り締まる」

 芝草人形の説明を聞いても、どうしたらよいのかわからない。

 ウォブルは、

「異端判決が出ても、この学校での魔術師の生徒であったことは認められるのか。おれにはそっちの方が重要なんだが」

 という。

「だけどさ、この学校は魔術が存在することを認めてはいないぞ。魔術が存在しないとされる環境で生きているのに、魔術の正統と異端を裁く連中に巧く対応できないといけないのか。どれだけ面倒くさい問題なんだよ」

 ベイケが怒る。

 エンドラルド先生はまだ大怪我で休んでいるので、対応は四人の高校生が考えなければならない。

「勘ちがいしてもらっては困る。異端者が裁かれるのは義務だ。あなたたちが異端裁判から逃れることはできない」

「異端裁判ってどこでやるんです」

「異端裁判所でだ」

 芝草人形は明確に答える。

「どうする。教会の仲間でないとされると、おれたちは何か困るのか」

 ベイケが疑問をたずねたが、他の三人は頭を傾げるばかりだ。

「異端になると契約魔術が使えなくなるということはあるのか」

 ノアミーが泣き止んで質問する。

「さあ、契約魔術はたぶん使えるよ」

 ベイケが答える。

「物知りなきみならわかるか。世界魔術師たちと教会は仲間なのか、仲間でないのか、どちらなんだ」

 ミシアが聞いた。

 ベイケはどうだったかなあと自分の記憶を探った。

「世界魔術師たちは教会より偉い。世界魔術師の判断は教会のどの階級の神官よりも優先される。教会が異端裁判を行うのは、世界魔術師の意向とは関係なく、教会独自の活動だ。異端裁判は世界魔術師の行動と契約を何も束縛しない」

 ベイケは難しく説明した。難しい話になってきた。

「それなら、異端にされて何が困るんだ」

 ウォブルがいうと、

「おれたち魔術師は今まで秘かに異端審査機関の助けを受けていたのかもしれない。その恩恵は異端に認定されればなくなってしまうのだろうね」

 ベイケが答える。

「きみたちは勘ちがいしている。あなたたちが異端であると判決が出たら、異端の種類と度合いによって、罰を受けることになる」

 芝草人形が答える。

 それは困ったな、とベイケは思った。

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