近所の森の怪物退治
修行の一環として、近所の森へ怪物退治に行くことになった。
ベイケ、ミシア、ノアミー、ウォブルの四人は、魔術師のみの組を作り、戦うことにした。他の職業選択のやつらと手を組む手はあるのだが、古代知識の役立たず職業だと思われている魔術師は、戦士たちに受けが悪かった。
戦士たちは、戦士こそが戦場の中心であり、戦士こそが組を指揮して、他の職業の連中は戦士の補助にまわるべきだと考えていた。
魔術師中心で戦いたいベイケたちは、戦士中心で考える他の職業選択のやつらと手を組む気になれず、それで、魔術師のみの組で怪物退治をすることに落ち着いたのである。
近所の森への怪物退治だといっても、途中で宿を一泊とることになる。どんな小旅行になるのかとても心配だ。
近所の森は深緑が生い茂り、小動物も多く、食料になりそうな植物の種や実がたくさんあった。
だが、ベイケの狙いは、食料より魔術の材料集めだ。あと、武器屋に売る装備の素材も集めたい。
戦闘熊四匹が現れたので、試しに四人で戦った。
ベイケの毒魔術で一匹目は即死し、ミシアの杖の斬撃(物理魔術)で二匹目は即死し、ノアミーの雷撃で三匹目は重傷を負い、ウォブルの重力操作で四匹目はつぶれた。
四人はまったく戦闘熊に付け入る隙を与えなかった。無傷の完勝である。修行としては申し分なく上出来であり、四人は四人とも素晴らしい戦闘の実力があることが示された。
つまりは、圧勝だったのである。近所の森で暴れているという戦闘熊など、戦力外の職業だと思われている魔術師選択の生徒にも楽勝であり、まったく敵ではなかった。そのくらいに四人は強かった。戦闘熊四匹を瞬殺である。これを知れば、教師たちも四人の実力を認めざるを得まい。
戦闘熊を瞬殺したベイケとウォブルは、ミシアとノアミーに腕を認められ、喜ばれた。魔術師選択の二人の奇妙な男であるベイケとウォブルは、ミシアやノアミーにも実力を疑われていた。それが杞憂であり、堂々とした強さを示すことができることが実証されたのである。高等学校の生徒にとって、強いことはやはり格好いい。ミシアとノアミーは、ベイケとウォブルが大人の仕事として怪物退治を任じられても、怪物を倒す実力を持っていることがわかり、好感を持った。
ミシアは救世主を目指しているだけあって、戦闘の腕には相当に自信があり、戦闘熊を瞬殺できることはもちろん、同年齢のほとんどの若者に戦闘では勝つ自信があった。ミシアは、戦闘熊は一般人には退治するのは難しいので、四匹の戦闘熊を見た時、ひょっとしたら、自分ひとりで四匹を倒さなければならないのではないかとそこまでの苦戦を想定した。それくらいに他の若者の強さへの信頼は低かった。魔術師選択の他の三人がどのような実力なのか、期待と不安を同時に思っていた。しかし、ミシアよりも素早くベイケが戦闘熊を倒したのを見て、大きく安心感を抱いた。ミシアは自分が周囲から抜きん出て強く、それゆえに目立ってしまうことを恐れていた。ミシアは自分がものすごく強いことがバレるのが怖かった。あまり目立つのは得なことはない。まして、若く将来の決まらない十六歳のミシアには、有名になることは避けたかった。魔術師選択の生徒を他の職業を選択した者たちはほとんど注意してはいないので、うまく隠れることができたと安心していたのだ。しかし、そこにこんな近所の怪物退治の修行である。怪物相手に手加減などできないが、全力で怪物と戦ったらどんな男たちに狙われるかわかったものではなかった。ベイケは少なくても、ミシアより速い。それがミシアにはわかった。
ノアミーは、自分では回復担当だと考えていたが、それは女の戦闘部隊ではよくある役目だった。ノアミーは回復魔術が使える。だから、仲間が傷ついても、自分が生きていれば傷を治すことができる。だから、本当は安全なところに隠れていなければならない。それでも、積極的に戦ってしまうのがノアミーの性格であり、今回も積極的に戦ってしまった。ノアミーは雷撃の魔術が使える。雷撃の威力は魔術師によってさまざまだが、ノアミーの雷撃は戦闘熊を瞬殺するくらいには強い。雷撃と回復を使い分けるのがノアミーの戦い方だ。ノアミーは武器による戦闘はほとんど考えておらず、魔術だけで戦おうをしている。それは魔術師選択のノアミーには当然のことであるのだが、魔術が実在することを知らない者たちにはノアミーの戦い方はまったく理解できないにちがいない。
ノアミーは魔術の契約を魔術師ギルベキスタではなく、魔術師アギリジアと結んでいる。
魔術について簡単に説明する。魔術には二種類あり、個人魔術と契約魔術に分類される。個人魔術は自分の魔力で魔術を使うことだ。命あるものは誰もが魔力を持っているというのが魔術の基本原理であり、魔術師選択の四人の若者は、それぞれ自分の魔力で魔術を使うことができる。ベイケの毒魔術、ミシアの斬撃魔術(物理属性)、ウォブルの重力操作は個人魔術だ。この三人は、自分の魔力で魔術を使っている。この三人は、魔術師ギルベキスタと契約を結んでいて、契約魔術としてもそれぞれの魔術を使うことができる。契約魔術は、魔術を世界魔術師ギルベキスタを仲介して発動する魔術である。契約魔術の威力は、たいていの場合、個人魔術の数倍になる。慣れてくると、みんな、威力の強い契約魔術を使うようになる。どう考えても、術師個人の魔力により魔術を使うより、魔術師ギルベキスタの魔力を借りて魔術を使った方が魔力の効果が高いからだ。
ベイケ、ミシア、ウォブルの三人は、普段は個人魔術で戦うが、いざという時のために契約魔術を隠している。契約魔術を使えば、魔術の威力が数倍になり発動するのだ。
ミシアはギルベキスタがどんな人物だったのかは知らないが、魔術の契約をした相手がギルベキスタであったことは覚えている。魔術の契約相手と歴史上の人物が同一人物であることがまだ理解できていないので、ギルベキスタが何者か質問してしまうのである。ミシアは頭を整理すればわかっている。ギルベキスタとは、自分が魔術師になる過程で契約した相手だと。
そして、ノアミーであるが、ノアミーは他の三人には内緒にしているが、魔術の契約をギルベキスタではなく、遠方の魔術師アギリジアと結んでいる。これがノアミーの秘密であり、魔術師としての生き方の賭けである。他のみんなとちがう世界魔術師と契約していることで、うまく他の多数派を出し抜いてやろうと企んでいる。しかし、そのせいか、ノアミーは個人魔術より契約魔術を好んで使い、雷撃や回復を魔術師アギリジアとの契約魔術で行っている。それがうまくいくか、失敗するかはまだわからない。
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