魔術師でない者たち

 他の職業選択のやつらがどうなっているのかはわからない。

 しかし、魔術師選択をバカにしていた連中は、果たして、この四人より上手に戦えるのか。大半にとってそれは無理なのではないか。

 魔術師選択の四人は、試しに戦士選択のやつらの戦い方を見てみた。みんな、剣や槍や斧を使って戦闘熊と戦っている。四人がみんな瞬殺できる戦闘熊に何度も斬りこみ、突きさし、ぶった切っている。反撃で怪我をしている。回復役がいないから、怪我はすぐには治らない。この怪物退治が終わったら数週間、治療しなければならないのだろう。中には一撃で戦闘熊を倒す猛者もいるが、瞬殺といえる戦い方をしている戦士はほとんどいなかった。四人は、最も人気のある職業である戦士を選んだやつらが自分たちより苦戦しているのを見て、いい気分だ。自信が出てくる。戦士選択の者たちはそのまま筋力を使って、戦闘熊と死闘をくり広げている。ひょっとしたら、命を落とすものが出てくるんじゃないか。怪我の治療は間に合うだろうか。戦士選択の連中はちゃんと薬を準備しているはずだから、怪我を治すこともするはずだ。それで充分に戦っていけると考えられている。女戦士もいて、勇敢に戦っていた。剣を振りまわすさまは格好よいが、やはり、男戦士たちは女戦士を守るように立ち位置を決めて戦うようだ。

 格闘家選択のやつらは、もっと苦戦しているようだった。素手で怪物と戦うというのだから、まず、そんな凄腕の格闘家はこの中にはいないだろうと思っていたが、そのとおりにいなかった。しかし、格闘家選択のやつらは度胸だけはあるらしく、恐れることなく、素手で戦闘熊に殴りかかっていく。どちらも同じ生き物だ。武器がなくても、野生の素質から考えれば人と怪物も互角に戦えるものなのだろう。格闘家の戦いを見ていると、不思議と応援する気持ちが湧いてくる。素手で怪物と戦う格好良さはある。始めは、これほど苦戦する格闘家であるが、修行を積み重ねると、本当に素手で怪物を圧倒することができるまで強くなることがあるのだという。格闘家選択のやつらはそのような豪傑になりたい者たちなのだ。道は険しいだろうが、ぜひ頑張ってもらいたいやつらではある。そして、何より、この戦闘で死なないことを願うのみである。女格闘家が拳の突きで戦闘熊を倒したのを見て、みんなはその女格闘家に注目したが、倒れた戦闘熊はまた動き出し、致命傷には至ってないようだった。

 格闘家選択のやつらと戦闘熊の戦いを見ていたら、素手対素手の筋力の張り合いかと思っていたが、戦いにそんな穏便な要素はないらしく、戦闘熊の方が武器を持ってきた。剣や鉄爪を装備して、戦闘熊が格闘家と戦う。さらには、戦闘熊の中には鎧で身を守るものまで現れた。修行を始めたばかりの格闘家はこんな武装した戦闘熊と素手で戦うほどに過酷な戦いをするのか。なんてたいへんなんだ。格闘家選択のやつらはすげえなあと四人は感嘆して観戦した。

 職人選択のやつらは、鍛治屋の鎚で戦う者が多かった。職人選択は戦闘職ではなく、内政部隊なのだから、無理に戦うことはなく、逃げまわっている。職人選択の連中が怪物退治に来させられたのは、戦場を経験しなければ良い職人にはなれないと考えられているためなのだろうか。その辺りの真意はわからない。大きな盾を持ってきているものたちがいて、そいつらは鎚を武器に盾を防具に戦闘熊を撃退していた。そいつらは戦士たちより強そうに見えた。職人は武器や防具だけでなく、多種多様な道具を作る訓練を受ける連中で、戦闘で消耗されるのはもったいない貴重な人材たちなのだが、怪物退治の修行に来ざるを得なかったのは、仕方ないことなのだろう。

 そして、賢者選択のやつらがいる。賢者選択も戦闘職ではなく、内政部隊である。だから、無理に戦うことはない。今回は、賢者選択のやつらは戦士たちと同じように剣と槍と斧を持って戦っていた。苦戦しているようだが、戦士選択のやつらに比べて特に戦闘が下手なわけではなかった。やはり、怪我をして、治療を待つために仲間に担がれて撤退していくものたちが大勢いた。怪物退治の修行はなんと危険なことなのだろうと心配になってくる。

 誰も口には出さなかったが、戦闘熊を瞬殺している部隊は、魔術師選択の四人だけだなと思った。


 その後も四人は、巨大ガニとか、装甲狼とかと戦い、次々と怪物たちを撃退した。

 これくらいの敵が相手ならいける、とベイケは思った。

 しかし、ベイケが狙っているのは、世界魔術師ギルベキスタ。勝つためには作戦を練りに練っていかなければならない。

 まだ四人はみんな本気を出していない。戦闘は命のやり取り。常に全力でなければならないが、四人はそれぞれまだ使わない技を残していた。

 ウォブルの背中には、大きな大剣がぶら下がっている。軽い金属で作られているので、見た目の印象より持ち運びやすい。時々、抜いて振りまわすが、それを敵に向けて使ったところは見たことがない。

「ウォブル、あなた、持っている剣は使わないの?」

 ミシアがたずねると、

「魔術で倒した方が早い」

 と、ウォブルは答えた。

 ウォブルの使う魔術は重力操作だ。重力操作でねじ曲げたり、押しつぶしたりする。

 そして、宿に一泊すると、男女四人はお互いを認め合って、夜をすごした。

 脱ぐときれいなミシアは、世界魔術師ギルベキスタのことを質問した。

 ベイケは説明する。

「魔術師は魔力で物質や精神を動かすことができる。この世界は、世界全体を覆うほどに魔力を高め、魔術を練り上げた世界魔術師によって動いているんだ。おれたちの地域の物質や精神を動かしているのは世界魔術師ギルベキスタだ。そのことを、失われた教会では教えていたはずだ」

「へえ、ギルベキスタってすごい」

 ミシアはいった。

「これがこの世界の真理の中枢であるはずなんだ。でも、それを教えないおれたちの学校ってどう思う」

「なんで、教えてもらえないんだ」

「その話は、そのうちまた話すよ。とても難しい話なんだ」

「ふーん、そうなのか。今日は世界の真理を知って幸せな気分だ」

 そして、魔術師のみの変則組は疲れをとるために深い眠りに落ちていった。

 学校では世界の真理を隠していて、世界の真理に近付こうとする若者をどんどん追い詰めていく。ベイケはその証拠を見たことはないが、察しはつく。魔術師ギルベキスタは4000年以上前に生まれた。魔術師ギルベキスタたち少人数の世界級魔術師たちが世界を掌握したことを、かつて教会が教えていた。教会は、魔術師ギルベキスタの秘密を教えた罰で滅んだのだ。おそらく、魔術師ギルベキスタによって。

 魔術師ギルベキスタは、4000年たってもまだ生きている。ベイケはそうにらんでいる。

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