謎の大部屋

 その奥はとても大きな部屋だった。

 大勢の腐敗した神官がいる。

「まって、い、た。しょ、う、ぶ、だ。わ、れ、わ、れ、と、た、た、か、え」

 腐敗した神官たちが襲ってきた。

 この神官たちはこの大部屋で四人が来るのを待っていたのだろうか。

 何体いるんだろう。ベイケは腐敗した神官の数を数え始めた。十三体いる。それぞれが武装している。剣や斧を持っている。

 毒魔術。ベイケが先制攻撃で腐敗した神官の一体を攻撃した。

 ミシアが杖の斬撃(物理魔術)で斬りつけた。

 ノアミーが契約魔術で雷撃を放つ。契約相手はアギリジアだ。

 ウォブルは重力操作で腐敗した神官たちを次々と倒れさせていく。

 速い。

 ほぼ瞬殺で、四人は四体の腐敗した神官を倒した。腐敗した神官たちは攻撃の機会をつかむことができずに動揺している。ベイケたち四人が恐ろしく強いことを腐敗した神官たちは認識する。

「み、ど、こ、ろ、が、あ、る、な、わ、か、ぞ、う、よ」

 腐敗した神官がいう。

 負けることなど少しも考えていなかった腐敗した神官たちは、四体が倒されて、気をひきしめた。どうなる。まさか、腐敗した神官たちの方が負けてしまうのか。

「おい、聞き込みはどうする。遺跡調査なら腐敗した神官たちの話を聞かないといけないんじゃなかったのか」

 ウォブルがいう。

「そんな余裕はないぞ。なんで襲ってくるんだろうな、この教会遺跡の腐敗した神官たちは」

 ベイケが答える。

「見所があるっていっているけど、何の見所があるんだ、わたしたちに。腐敗した神官になる見所か」

 ミシアがいう。

「ギルベキスタは今どこにいるんだ」

 ベイケが腐敗した神官に聞く。腐敗した神官たちは答えない。

「み、ど、こ、ろ、が、あ、る」

 腐敗した神官が答える。


 教会遺跡で生きていた腐敗した神官たちは、どんな体験をしながら三千年を生きたのだろうか。教会遺跡を探索するものを襲撃するところを見ると、かなり武闘派な三千年間を生きたのではないか。体が腐敗していき、弱っているのに、なぜ教会遺跡を探索するものたちを襲うのだろうか。ギルベキスタを讃えることを民衆に九百年間教えていた教会の神官たちは、ギルベキスタに滅ぼされた後、何を考えて三千年を生きたのだろうか。自分もギルベキスタのような世界級の魔術師になってみたいと考えていた神官はいたのだろうか。いたのなら、それはベイケのような思想をしていたのだろうか。そのような神官とベイケの何がちがうのだろうか。若い、新しいというだけで、ベイケもそのような神官と同じにすぎないのだろうか。教会遺跡は、ベイケのような若者を三千年間でたくさん見てきたのだろう。その誰もが世界級の魔術師になることには失敗したのだ。

 腐敗した神官たちは、どの程度、考える力が残っているのだろうか。喋ることもたどたどしい神官がいれば、普通に話せる神官もいる。腐敗した神官たちの腐敗具合は個人差が大きいようだ。腐敗した神官たちの個人魔力で生きつづける意志は、何を求めているのか。


 ベイケが契約魔術で毒魔術を使う。ギルベキスタの魔力を利用した毒魔術は数倍の威力を持つ。ギルベキスタはその時、同時にベイケを識別しているはずだ。そして、この腐敗した神官たちを見たかもしれない。

 ミシアも契約魔術で杖の斬撃(物理魔術)を使う。同じく、ギルベキスタの魔力を利用したものだ。ギルベキスタがミシアを識別しているはずだ。ミシアは最近、ベイケの戦闘術を参考にし始めていた。常に先制攻撃をして、一度も傷を受けないというのはとても重要なことだ。傷を受けるたびにノアミーに回復してもらうのは、自分がノアミーがいなければ戦えないということになってしまう。それではダメだ。斬撃魔術を応用して攻撃を一度も受けずに戦うようになるにはどうしたらよいのか。考えなければならない。

 ノアミーが雷撃を放つ。

 ウォブルが契約魔術で重力操作で攻撃する。ウォブルの契約相手もギルベキスタだ。

 次々と四人は腐敗した神官たちを倒していく。

 腐敗した神官たちの剣が空を斬り、斧が床に突き刺さる。四人は攻撃をかわす。腐敗した神官たちの動きは遅い。注意深く動けば、攻撃をかわすことができる。今まで数多くの戦士たちをここで打ち倒してきた腐敗した神官たちは、新しくやってきた魔術師四人に遅れをとってしまっている。この四人の魔術師は、戦士たちよりも戦い方がうまい。

「み、ど、こ、ろ、が、あ、る」

 腐敗した神官がいう。若者の指導をしていた神官は、戦い方の巧みな四人を見て、面白がる。腐敗した神官は、自分の方が上の立場である気分を崩さない。

 バリバリバリと雷撃を腐敗した神官が放つと、ノアミーがバリバリバリと雷撃を放って打ち消す。

 簡単に勝てるつもりでいた腐敗した神官たちは、自分たちが負けそうであることを認識することすらできない。すでに倒された八体の腐敗した神官が床に倒れていて、歩きまわることの邪魔をする。落ちた剣や斧の刃で足を切らないか注意が必要だ。

 ウォブルが残った五体の腐敗した神官を重力操作で宙に浮かせて、歩けなくする。腐敗した神官はめったに会ったことのない重力操作の使い手に対処の仕方がわからなくなって困る。ウォブルはこの間に倒してくれと仲間に期待するが、宙に浮いた敵を攻撃するのは、ベイケたち三人も慣れない戦い方で調子を崩す。ミシアが杖の斬撃魔術(物理属性)で宙に浮いた腐敗した神官を攻撃したが、あまり深くは斬れなかった。うまくいかない。

 ウォブルは疲れて重力操作を解除した。五体の腐敗した神官が床に落ちる。

 戦いはつづく。

「み、ど、こ、ろ、が、あ、る」

「何の見所だ」

 ミシアがいうと、

「お、れ、に、ま、け、る、み、ど、こ、ろ、だ」

 腐敗した神官がいう。

 ベイケが毒魔術で一体倒す。

 ミシアが杖の斬撃(物理魔術)で一体倒す。

 ノアミーが雷撃で一体倒す。

 ウォブルが重力操作でねじまげて一体倒す。

 九体目、十体目、十一体目、十二体目が倒された。

 四人の攻撃は快調だ。

 負ける見所など必要ない。

 聞き込み調査はうまくいかなかった。腐敗した神官たちが好戦的すぎるからだ。襲ってくる相手から聞き込みをするのは難しい。そんなことはしてはいられない。

 十三体いて、圧倒的に多数を誇っていた腐敗した神官たちだったが、戦闘に勝つことはできそうになかった。数が多い方が強いということは確かにあるのだろうが、腐敗した神官たちとベイケたちでは、戦闘の強さに大きな差があったようだ。

 最後に残った一体の腐敗した神官が火炎魔術を使う。

 その火炎魔術に先制攻撃してベイケの毒魔術が発動する。ベイケの毒魔術が先に腐敗した神官に当たり、最後の腐敗した神官が倒れる。

 こうして、四人は十三体の腐敗した神官を倒した。


 教会遺跡を調査して、滅亡した教会がどんな建物だったのかは知ることができた。そこにいた神官たちがみんな腐敗した神官たちのようなものたちだったのかははっきりしない。教会が魔術師ギルベキスタとどのように交渉していたのかはよくわからなかった。ただ祈りを捧げていたわけでもあるまい。

 やはり、簡単には教会遺跡の調査などうまくはいかない。魔術の痕跡があったといえるのかどうか、それすらわからない。ベイケは教会遺跡に凄い魔術の教えがあって、新しい魔術を習得できるのではないかと考えていたが、そんなことはまったくなかった。

 一度は教会遺跡を見ておいてよかった。とりあえず、今回はそういうことができるだろう。教会遺跡の調査は、腐敗した神官が襲ってくるので、命の危険がある。あまりおすすめできるものではない。教会の神官たちは、知識人というよりは武闘派だな。残念だが、それくらいしかわからなかったのだ。

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