月についての授業

 近所の森の怪物退治が終了すると、再び、学校で授業を受けた。

 老齢のエンドラルドは、ベイケが持っているのと同じくらいの大きな重い本を持ってきて、そして、授業を始めた。

「ロケットで宇宙船を打ち上げることにより、魔術がなくても我々は月に行くことができるのです。それは素晴らしい教会滅亡後の人類の成し遂げた偉業なわけです」

「先生、まちがっていると思います。月に行くのは危険だ。月は、地球とは異なる世界魔術師ルドナルフが支配する世界だ。地球の原理は月では通用しない」

 ベイケが突っかかる。

「きみたちは、魔術師を職業に選択した問題児たちなので、難しくてわからないかもしれないが、この世界は魔術がなくてもやっていけるんです。そのことをよく理解して、魔術を盲信するようなことはやめるべきです」

 これは老齢のエンドラルドの深謀遠慮による親切な授業であるつもりだった。月に行ける者はいないかもしれないが、月の魔術師ルドナルフに関わるのは危険だ。どうせ、難しすぎて、この四人の生徒は誰も月の魔術師ルドナルフには届かないだろうから、月の魔術師ルドナルフに関わらないで生きた方が幸せだとエンドラルドは考えていた。


 授業が終わると、ベイケとミシアは話し合った。

 いったいどれくらいの秘密が生徒たちに隠されているのか。

「どうも、世界魔術師はすべてその存在について話すことが禁じられているみたいだね」

 ベイケがいった。

「世界魔術師って何人いるの」

「おれの知っている限りで、六人。六人の世界魔術師が地球と月の物質と精神を支配している」

「六人のことを教えて」

「一度に聞くとわけがわからなくなるよ」

「大丈夫」

「神聖教の魔術師ギルベキスタ、古老教の魔術師ダイツア、瞑想教の魔術師ドービー、月の魔術師ルドナルフとか」

 ベイケがそういった。

「どこでそれを知ったの」

「調べたんだよ。根拠は秘密だ」

「きみは物知りだなあ」

 ミシアがそういってくれる。


 ウォブルとノアミーは占いをして遊んでいた。

「ウォブル、きみの恋愛運は最悪だあ。もう手遅れだから、あきらめろ」

「その占い、やめろ」

「何度やっても、きみの恋愛運は最悪だあ」

「だから、やめろって」

 ベイケとミシアはそれに混ざって、遊び始めた。


「明日、また怪物退治に行こう。次は、赤い番犬の退治だ」

 他の三人は同意した。

 しかし、ベイケは考えた。我々四人は魔術師であり、魔術を使うことができる。その魔術は、みずからの魔力により発生させていることもあるのだが、実際は個人の魔力はわずかで、我々四人はみんな誰かの世界魔術師の魔力を利用して魔術を使っているはずなのである。

 ベイケの毒魔術は、ギルベキスタの魔力を使っている。他の三人の魔術がどの世界魔術師の魔力を使っているのかベイケにはまだわからない。いつかそれを知る時が来るのだろうか。まさか、あまりにも意外な世界魔術師の魔力を使っていたら、それはとても面白いなとベイケは思った。

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