贋作事件

 なんとか、盗賊の襲撃を退け、『ギルベキスタの盾』をグラッドの屋敷まで運ぶことができた。

 依頼は果たした。これで報酬がもらえるだろう。

「ギルベキスタの盾を私が所有している。それは素晴らしいことだと思わないか」

 大富豪グラッドは手に入れた品を自慢したいようだ。

 しかし、この盾がいったいどんな意味を持つのか。それは四人の魔術師たちにはさっぱりわからなかった。もの凄い貴重品であることはわかる。

 大富豪グラッドは、四人を夕食に誘い、豪華な料理を食べさせてくれた。

 『ギルベキスタの盾』が発見されたといううわさをグラッドが聞いたのは、一年半前だという。それから、『ギルベキスタの盾』がどのような人たちの間でやり取りされているのかを調べていた。そして、聖遺物が空虚な扱いを受けていることを知り、グラッドは『ギルベキスタの盾』を手にするのにふさわしいのは自分であると考えるようになっていったのだ。

「このまま、伝承の通りに私に繁栄があればいいがね」

 グラッドは自嘲気味にそう語った。

 そんなところへ、使用人がやってきてグラッドに告げた。

「とても重要な報告があります」

「なんだ。ここでいいたまえ」

 グラッドがいう。

「よろしいのですか。聖遺物に関することなのですが。ご主人さまの名誉を傷つける可能性があります」

「なに」

 グラッドは使用人のことばに不機嫌な相槌を打った。それから少し考えて、

「かまわない。今、ここでいいたまえ」

 といった。

 四人はどうなるのか不安気だった。また盗賊鬼が襲ってくるんじゃないか。

 『ギルベキスタの盾』は食事の間で見えるところに置かれている。

 使用人は口調を整えて、冷静な声が出るように緊張しながらしゃべった。

「聖遺物『ギルベキスタの盾』はギリニーの領主が所有していると多くの証言者がいっています」

 そのことばの意味するところを聞いていたものたちはすぐには理解できなかった。どういう意味なのか、よく吟味して考えなければならなかった。

 うすうす事情がわかってきた四人は、大富豪グラッドの心持ちを心配した。

「『ギルベキスタの盾』はひとつしか存在しない。今日、私が競売で落札して、今、あそこの机に置いてある。偽物なら、競売場に取引の無効を申し出ることになる」

 グラッドがいう。

「あの盾を手放すのですか」

 使用人のことばに、グラッドは頭を抱えた。

「どちらかが偽物だということだな」

「そうです、ご主人さま」

 すごい展開になってきたなあとベイケたちは思った。

 ものすごく愉快な夕食になるはずのグラッドの気分は、いっきに暗く落ち込んでしまった。

 グラッドは頭を抱えて考えている。競売で落札した『ギルベキスタの盾』を手放すかどうかを。

 四人はグラッドを動揺させてはいけないと、緊張した面持ちで様子をうかがっていた。グラッドも、せっかく招待した有望な若者四人に対して、本当はいいところを見せたかったのだが。

「ふははは、ははははは」

 グラッドは笑い始めた。四人はどうしたらよいかわからず、困ってしまった。

「実はね、若者たち。聖遺物が発見されたという話は世間にはたくさんあるんだよ。海に沈んだという話もあれば、どこかの砂漠に埋まっているという話もある。私ではない大富豪が所有しているという噂もあれば、貧民街に置いてあるという話もあるくらいだ。どれが本物かは難しく、なかなかはっきりしないんだ。本当に難しい問題でね」

 四人はグラッドの話のつづきを待った。

「ひょっとしたら、私は贋作を買わされてしまったのかもしれない。贋作では、私に繁栄は訪れないからね」

 グラッドは明らかに落ち込んでいた。本物だと本気で思っていたのだ。

「きみたち、もしよければ、私からの依頼の追加だ。どれが本物の聖遺物『ギルベキスタの盾』なのか突き止めてくれないか」

 グラッドはいった。

 四人は困った。

「それは、ちょっとおれたちには無理な仕事ですよ」

 ベイケは断った。

「期限はない。少しずつ、本物の聖遺物がどれなのか調べてくれないかな。きみたちを有望な若者だと見込んでぜひ頼みたい」

 グラッドはいった。

 期限なしといっても、こんな依頼を軽く受けて、後で問題になったらどうするんだ。

「別室へ行って、四人で相談してから決めます」

 ベイケはそういった。

「ここで決めてはくれないのかね」

 グラッドは残念そうだが、四人がそういう対応になることは仕方がないとは理解していた。


 四人は食事を終えて、別室に行き、依頼を受けるかどうか相談した。

 ノアミーは引き受ければいいといったが、ベイケは、自分たち四人が聖遺物の真贋を見極めることなどできるわけがないので断るべきだといった。

 本物が海に沈んでいたり、砂漠に埋まっているなら、そんなものを取りに行くのは不可能だろう。

「珍しいな、少年よ。いつもなら、こういうおかしな話にはすぐ飛びつくのに」

 とノアミーがいった。

「慎重になった方がいい。ギリニーの領主の聖遺物を見て帰ってくるだけで終わりにしよう。それ以上は約束しない方がいい」

 ベイケはいった。

「ギリニーってどこにあるの」

「そんなに遠くはないよ」

 そして、そうしようということで四人は互いに同意した。

 四人は食事の部屋に戻り、ベイケはグラッドにそのように伝えた。グラッドはそれを了解した。

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