贋作工場

 賢明なる老婆に教えられた土地にそれらしき建物があった。

 四人は役人の許可を得て、贋作工場の中へ入っていった。贋作工場では、二十人の作業員がいて、ベルトコンベアを動かして贋作を流れ作業で作っている。

 こんな工場で作られた贋作が次々と売られていくなら、人類の経済圏は破綻するんじゃないか。

 『ギルベキスタの盾』の贋作を製造している現場を目撃してしまった。

 ベイケたちはしばらく贋作作りを見学していた。金属の精錬をしたり、溶けた金属を型に流したり、それを水で冷やしている。冷えた金属の形を仕上げ担当者が巧妙に整えていく。

 水蒸気がもうもうと立ち込めていた。これが、多くの大富豪たちをだまして売っていた贋作製造現場なのか。

 この贋作工場をぶっ壊すのだ。そのためにベイケたちは来たのだ。そうすれば、大富豪グラッドや、貧民街や、ギリニーの領主や、賢明なる老婆たちのような被害者がいなくなるのだ。

 贋作は、十日で三個作られる。それは半年以内にすべて売れる。

 贋作は、一年間で九十個作られる。それは半年以内にすべて売れる。

 贋作一個が一千万単位の値段で売れる。贋作工場は一年間で九億単位の収入を得る。莫大な利益を産む仕事だ。

 この贋作工場は、大富豪が巨額を出して買う聖遺物の贋作を次々と作り出して、世界中に売っているのだ。


 贋作工場の二十人の作業員は、一体の魔族と二十体のオークだった。贋作工場は魔族が就職するような高貴な仕事なのだ。

 四人は役人に贋作の製造を中止するようにいうように頼んだ。役人がそうすると、作業員のオークと魔族は作業をやめて、襲いかかってきた。

 魔族が工場の中で爆発魔術を使い、ベイケたちを襲う。ベイケは爆発魔術の攻撃を先取り、魔族を毒魔術で襲う。ベイケの毒魔術が時空を侵食して、爆発魔術が爆発を起こす時間線を侵食して、ベイケの毒魔術が先に作業員を攻撃する。

 魔族がベイケの魔術の熟練度に驚く。

「人類よ、我に手をかけた罪は重いぞ」

 魔族がいう。

 オークたちは作業を中断して、ベイケたちを見た。

「私は戦いが終わるまで、外で待っています」

 といって、役人は贋作工場を出て戦いから避難した。

 魔族が再び爆発魔術を使い、ベイケを襲う。ベイケが爆発を毒で浸食して打ち消し、そのまま、毒魔術で魔族を攻撃する。

「手練れだ」

 魔族がベイケの実力を認める。


 オークが火炎魔術を放つ。四人の体が燃やされるが、ノアミーが回復魔術で傷を治す。魔導士の服は丈夫で火炎魔術でも燃えない。

 ミシアが杖の特大の斬撃(物理魔術)で魔族を斬る。魔族の体を斬ったが、胴体を斬り離すほどではなかった。

 魔族はさすがに強い。

 魔族一体でも倒すのがたいへんなのに、他にオークが二十体もいる。

「衝撃波」

 ウォブルが魔族を吹っ飛ばす。魔族が後ろに吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

「人類よ、本当の衝撃波というものを教えてやろう」

 と吹っ飛ばされた魔族がウォブルに衝撃波を放った。

「増幅反撃」

 ウォブルが魔族の衝撃波を増幅して打ち返す。そして、再び魔族の方が後ろへ吹っ飛ばされる。魔族は、衝撃波の競い合いで負けたことに強く屈辱を感じた。

 ミシアが少しずつオークを斬り倒していく。

 ノアミーは回復に徹している。

 赤い犬の番犬の小屋にいた魔族は、ベイケがダイツアを召喚して倒したんだったな。またダイツアを召喚するのは怖すぎる。頼むからダイツアの召喚はやめてくれよ、と三人は思った。

 しかし、世界魔術師の召喚は人類が魔族に勝つ確実な戦略だといえる。魔族より強い人類は世界魔術師たちくらいしかいないのだから。いざとなったら、ウォブルが魔術師ギルベキスタを召喚するかもしれないし、ノアミーが魔術師アギリジアを召喚するかもしれなかった。


 ベイケが確実に魔族の攻撃を先取って毒魔術で攻撃していく。ベイケは魔族に攻撃させる隙を与えない。

 魔族の爆発魔術をベイケの毒魔術が打ち消していく。

 殴りかかってくるオークを四人は魔術で倒していく。動けるオークの数は少しずつ減っていく。

 かなり長期戦になりそうだ。四人の体力が持つか。

 ベイケは仲間に対する攻撃に対しても、攻撃を先取り、先制攻撃ができるようになってきていた。魔族やオークが他の三人を攻撃しようとするたびに、ベイケに毒魔術が先に攻撃してその攻撃を抑え込む。

 爆発魔術。

 毒魔術。

 火炎魔術。

 毒魔術。

 ベイケの魔術師としての力量が、この贋作工場の戦いで一段階向上している。何か、ベイケが新しいコツをつかんだのだ。

 魔族を倒すことはできないが、オークを一体、また一体とやっつけていき、もう半分以上を倒してしまった。

 殴りかかってくるオーク。それを毒魔術で抑え込むベイケ。

 この戦いでの集中力の高まりによって、ベイケの魔力が暴走し始めた。ベイケの毒魔術が急に数段階威力を増し、狙いが不正確になる。そして、暴走している証拠に、時々、毒魔術が他の三人の仲間を襲った。

「ベイケ、気をしっかりして。魔力が制御できていないぞ」

 ミシアが注意する。

 ベイケは、魔族に狙いを定めたまま、味方のすべてを守り、敵の攻撃に先制攻撃を仕掛ける構えをしている。

 魔族やオークの攻撃を抑え込んでくれるのはよいのだが、時々、乱れる仲間への攻撃がとても怖い。

 ノアミーが回復魔術に徹している。

「毒栄養もあったな」

 ベイケが仲間を毒栄養で回復させることも行うべきだと気付く。

 ベイケの魔力が暴走している。

 周囲をベイケの魔力が覆い始めている。

 魔族の支配的な魔力をベイケの暴走した魔力が上まわっている。

 ベイケの毒魔術による攻撃と毒栄養による回復が不正確な相手に対して行われる。そして、ベイケの暴走した魔力による毒魔術が少しずつオークを倒していく。

「暴走」

 ベイケがつぶやく。

 毒魔術が周囲に氾濫する。

 魔族はベイケをじっくりと観察している。慎重に戦わないと、勝てる戦いではないと魔族は考えていた。魔族を超える魔術師が再び人類の中から出るのか。魔族は警戒心を高める。

 ベイケの狙いは魔族だ。召喚を使わずに、魔族を倒す。それができなければならない。

「ベイケ、意識をしっかり持て」

 ウォブルがいう。

 わかっている。ただ魔力を暴走させただけでは優れた魔術師にはなれない。しかし、魔力を暴走させた時に何ができるか、それをベイケは確かめたい。

 魔族とオークは絶えまなく襲ってくる毒魔術に苦しんでいた。ベイケの荒い魔術には好きがあるはずなのに、その隙を突くことができない。

 このまま押し切る。ベイケが魔力を暴走させたら、魔族は反撃することができないではないか。

 魔族は、体当たりを狙ってベイケに突進した。武器を持っていないので、体術を使うのに体当たりを行ったのだ。魔族が魔術を放とうとすると、すべて毒魔術で先に反撃される。

 魔族の体当たりはベイケには届かなかった。ベイケが毒魔術で突進してきた魔族を押し返す。

「暴走制御」

 ベイケが魔力の暴走を制御して、魔族に毒魔術をくらわせた。極めて高度な精度で暴走した毒魔術がその標的を掌握する。

 魔族はベイケの毒魔術の暴走制御をくらって倒れた。

 ベイケが魔族に勝ったのだ。

 ミシアがすぐに残りのオークを斬り倒す。

 一体の魔族と二十体のオークを倒し、贋作工場を壊滅させた。

「きみは本当に強いなあ」

 ミシアがベイケを褒めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る