第56話

 襲撃を対処した後、無事に皆と再会することができた。

 場所は大勢の人が集まれる広い空間で、ルクスやロブストさんだけでなく、堕とした女の子たちも集めている。堕としてはいないが、特異人イレギュラーのリンネとその取り巻きにも来てもらっている。

 ……取り巻きの二人がビクビクと震えているんだが、ルクスとロブストさんは何をしたんだ……?


「さてさて、みんな集まってくれてありがとう。ここにいるみんなを信頼して、僕から頼み事があるんだ」


 僕が喋る度にキャーキャーと黄色い歓声が飛ぶが、気にせずに話を進める。


「僕がこの国に来たのは視察が目的だよ。けどね、実はもう一つあるんだ。大切な知人が呪いをかけられてしまってね、その呪いをかけた者がこの国の貴族なんだ」

「アスミ殿……そういう話は先にしておいてくれると助かるのだが」

「そういえばそうです。僕も聞いていませんでしたね☆」

「あー……忘れてた」


 ルクス、ロブストさんは『頼みごとあるから頼まれてくれないか?』的な感じで転移させたから何の説明もしていないんだった。

 まぁいい、今説明したからチャラだ。


「アスミ様の大事な人を!?」

「羨まし……じゃなくて許せないわ!」

「その呪いをかけたやつは拷問にかけましょう」

「必ずや焙り出します」

「ここにいる全員はあなた様の味方ですっ!」


 数は、時として圧倒的な権力を覆すことがある。今まさに、崩れ落ちる瞬間を目の当たりにしているのかもしない。

 ゾクゾクして自然と僕の口角が上がり、皆目がハートになる。


「ありがとうみんな。それじゃあ早速計画に移ろうか。……リンネちゃん、君ももちろん加担してくれるよねぇ?」

「おーっほっほ! 勿論ですわっ! ワタクシは負けた身……そして好敵手ブラザーのお願い事は絶対聞くんですのっ♪」

「ぶ、ブラザー……? まぁいいや」


 つい先ほど感じた面倒くささが早速感じられたような……。けれど、計画に参加してくれるのならばありがたい。

 彼女はエルフ公国で特異人イレギュラーという特殊な立ち位置だ。それ故に権力もそれなりにある。だから、参加してくれ方が明らかに動きやすい。

 デメリットとしては、裏切りが起こった場合は計画が全てなし崩しになることなのだが……。


「ふふんっ、ふふんふんっ♪」


 鼻息を立ててなんだか楽しそうな様子だ。

 なんとなくだけれど裏切りはしなさそうと感じたので、裏切り用の策を講じること無く進めるとしよう。


「相手はこの僕でさえ解呪することが躊躇われるほど呪いの腕が良い。未知数の相手に無策で特攻するのは馬鹿の考え」

「アスミちゃん、結構その戦いしてますよね。つまりアスミちゃんはバ――」

「口を謹んでね、ルクスちゃ〜ん」

「痛い!」


 余計なことを言おうとするルクスにデコピンをして黙らせる。

 コホンと咳払いをして話を戻した。


「えー……。つまりね、相手を知るためにデータが欲しい。事細かな個人情報や戦闘データ……。これをクリアするには厳重なセキュリティを突破する必要がある。そのために……」

「ワタクシの出番ということですわね?」

「そういうことだね。察しが良くて助かるよ」


 仮にも僕が数万年前に死闘をしたパルペブラと手を組んでいる奴だ。何かしらの力を持っていてもおかしくない。

 そのことで凄まじい被害を出すわけにはいかないため、慎重に行動することにしたのだ。


「しかしアスミ殿、具体的にはどうやって情報を収集するのだ? 機密情報故に王女などが黙っていないと思うが……」

「その通りだよロブコちゃん。情報を手に入れようとした時に邪魔になるのは王女様や貴族たちだ。だったらもう、わかるんじゃないかな?」

「……? ッ!? ま、まさか……!!!」


 何かに気がついたらしいロブコちゃんは冷や汗を垂らして半笑いになっていた。


「――王女様を堕としに行くよ」



###



 ――深夜。

 エルフ公国の王女であるナトゥーラ・ユグドラシル。ミルクティー色の髪と金色の瞳を持つ美少女のエルフだ。

 彼女は喉が渇いたため水を飲みに行き、自分の部屋に戻った。


 しかし 自分の部屋の窓辺には、見ず知らずの黒いスーツを着た女性ことアスミが居座っている。


「こんばんは、ナトゥーラ様」

「っ!! だ、誰よあなた!!!!」

「ふふ、貴女のファン、とでも言っておきましょうかね。貴女に会いたくて遥々隣国からやってきたんですよ」

「っ!!」


 王女は助けを呼ぼうと、今入ってきたドアノブをひねる。しかし凍てついているかのようにドアノブは捻ることができず、廊下に出ることができなくなっていた。

 恐怖と憎悪が入り混じった顔をしている王女に対し、アスミは余裕の笑みを浮かべている。


「こんな強引な形になって申し訳ないですが、どうか僕の気持ちを受け取ってもらえないでしょうか」

「なっ!?」


 一瞬で近づかれ、手を握られていた。


(なんなのこの人間は!? 怪しさしかない……なのになぜか警戒じゃなくて、別の感情で鼓動が激しくなっているような……)

「どうか、なされましたか?」

(ぐっ……に、人間にしては顔が良すぎる! なんとかして引き剝がさないとやばいことになりそう!)


 アスミの手を振り払い、キッと睨みを効かせる。

 長い耳の先端まで紅潮し、心臓の鼓動は高まるばかりだった。


「……そうですか。ならば仕方ないですね」

「そ、そうよっ! あんたみたいな変な奴は嫌いなのよ!!!」

「成る程。やっぱりこうするしかありませんか」

「きゃっ!?」


 いきなりお姫様抱っこされ、そのまま運ばれてベッドに投げられる。


「魔術も使ってるのに中々手強い王女様だ……。なら、悦びを教えて堕とすまでだよねぇ……」

「な、何を……っ!?」


 シュルシュルとネクタイを取り、ボタンをプチプチと外して行く。

 王女故の束縛。それによって生じる知的好奇心や俗世の探求……。それが重なることで、本気でアスミを引き剥がすことはできなかった。


「王女様、女同士でしかできないイイコト、致しましょうか♡」


 ――こうして、エルフ公国の頂に立つ王女様は一夜にして堕とされたのであった。



[あとがき]


ヒロインはもう出さないと言ったな。じゃあ王女様は何になるかって?

……アスミにとっての都合のいい女だ……。


そしてそして、3-3章はこれにてお終いッ!

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