第23話

 十分に魔術を教え込んだ後、場所を移しまして、イアがいる山のもう二つ奥の山。ここには特訓にはちょうどいい魔物がいるとの噂があった。


「ここ呼吸しづらいですね!」

「でも元気そうだな。半分魔物だからか?」

「多分そうです!」


 なぜちょうどいい魔物を探しているのかというと、そいつと戦闘訓練をさせたいからだ。魔術や剣術を覚えたとしても、それを活かして戦えなければ意味がない。

 あとは魔物の素材納品のクエストをこなすためだ。


 そういうわけで例の魔物の位置を索敵してそこに向かっている。


「あ、あの……師匠」

「どうした?」

「なんか奥からすごい威圧感がするんですけど……」

「え? 何もしないけど……。だってこの先にいる魔物って――」


 ブオンッという岩肌を剥ぐ勢いで羽を広げ、小さな山かと思える巨体が起き上がる。漆黒の鱗に紫色の吐息、伸びるツノを持つコイツは……。


「ただのだぞ?」

『グルオオォオオォォ!!!!』

「…………――ふにゃぁ……』

「あ、溶けた」


 邪竜なんか僕の村によく襲いに来てたから、いい魔術の実験台とか、刀術のサンドバックになってたんだよなぁ。

 過去の経験を生かしてシアンに修行させようと思ったのだが、これくらいでへこたれて大丈夫か?


「よしシアン、戦おう。戦闘の中で悪いとこ指摘するから」

『無理無理無理ですぅ! あんなのまだ戦えないですって!』

「いや、勇き者で勇者でしょ? 勇者が勇敢じゃなくてどうすんだ」

『強くなりたいのになる前に死んじゃいます! ボク炎苦手だし!! こんな化け物と戦えません!! 修行初日でこんなのに戦わせるなんておかしいですって!!?』

「……チッ」

「っ!?(な、なんか今変な感覚がしたような。ゾクッとした……? 嫌な感覚ではない気が……)」


 僕の師匠なんかもっと鬼畜だったのになぁ。小さい頃に魔術研究してたら拉致されて、1000階層あるダンジョンの最下層に突き落とされたことある。

 付き添って一から細かく教えるだけで優しい方だというのに……。


「はぁ、じゃあわかった。ちゃんと弱らせるから」


 【無限収納ストレージ】から木刀を取り出し、刀術を使う。


「〝伍式ごしき冥岩砕めいがんくだき〟」

『グギャァアア!!!!』


 邪竜の元に素早く移動し、手加減をしながら刀を振るって鱗に当てる。すると邪竜の全身に蔓延る鱗はボロボロと崩れて、黒いボディが露わになった。

 鱗だけ破壊するのは結構精密な技術がいる作業だな。


『〜〜っ!? す、すご……。やっぱこの人には逆らったらヤバイですね……』

「シアン」

『は、はいっ!』

れ」


 親指を下に向け、首の左から右にスライドさせて命令する。


『ひゃいぃ……!!!』

『グォオオオオーーッ!!!』


 その後、シアンと邪竜の戦いをしばらく見ていたのだが……まぁなんともつまらない戦いだった。


 ロブストさんに剣術でも教わったのか、体の重心や剣の持ち方などを気にして戦っている。僕が求めていたものではない。

 せっかく人間とスライムのハーフという類い稀なる肉体を持っているというのに、型にはめられた動きしかしない。もっと自由にしたら強くなれるだろうに。


「うーん……。言っても多分、そう簡単に癖は抜けないよな。よし、シアン!」

『はいぃ!!?』

「体、使わせてもらうよ。お手本を見せるから。【魂の商いソウル・バーター】」


 基本的にこの魔術は悪魔相手などに使われるが、それを応用して人格の入れ替え……まぁ入れ替わりを自由自在に操るということに成功した。

 なので、今はシアンの体に僕が入り、僕の体にシアンが入った状況だ。


『へー、人間とスライムのハーフの体ってこんな感じなのか』

「ええぇ!!? め、目の前にボクがいますよ!?!?」

『僕の体で間抜けな顔をするな。なんか鳥肌が立つ』


 体にはきちんと骨や肉がある。だが全てが柔らかく、骨折や捻挫は絶対しないという感覚がある。……あとなんかエロい……。

 日本の友人マイフレンド、お前が好きなスライム娘はこんな感じだぞ。羨ましいだろう。


『グルォオオォォーーッ!!!』

『そうだった、お前がいたな』


 僕は手に持っていた剣を捨て、丸腰状態となる。だが、作られた剣なんか元々いらないんだ。

 邪竜は尻尾を思い切り横に振り回してシアンに当ててこようとしてきていた。僕は右腕をゴポゴポと言わせて変形させる。そして、


 ――ズバッッ!


「し、尻尾を腕で斬った!?」


 右腕は鋭利な刃の形に変形させていたのだ。剣や刀なんぞより、自分の腕を変形させた方が絶対に良い。応用がきくからな。


『っし行くぞー!』


 この体の利点はめちゃくちゃある。斬撃や打撃が効かないことや、体のどこの部位も変形可能なとこなど。欠点は火に弱いところだろう。

 けどこれのおかげで、ドラゴンの爪撃や火炎放射は体を変形させて避けることができた。


 ドラゴンの頭上に飛び上がり、右腕に力を込める。するとどんどんとそれは肥大化し、ドラゴンよりも巨大な青い拳が出来上がる。


『ゴムゴムの〜! ……は流石にまずいから、普通にデカイパンチ!!!』

『グァァァ!!!!』


 ドラゴンはぺちゃんこになり、ピクリとも動かなくなった。パンパンと手を払い、シエルの方に顔を向ける。


『シエルー、これくらいできるようになってもらうから』

「……が、頑張ります……」


 お堅い体術や剣術を使うたびに体がビリビリなる魔術をシアンの体に仕掛けておいた。ちょっと手荒かもしれないが、これで効果的に矯正できるだろう。

 ……変な扉は開かれないよな? Mしないよな? 流石に勇者だし、元々素質がありでもしない限り大丈夫か。



[あとがき]


特級フラグ建築士アッシュ。彼を前にして、建てれぬフラグなど皆無ッ!

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