第2-1章 居場所探しの職場体験〜王室直属騎士〜

第7話

 ザムアさんが騎士に連れていかれた後、僕も事情聴取を受けることになった。別に八百長試合が違法なことではないが、良いことではないのでこれからしないようにと注意を受けたくらいで特になし。

 まぁ金(食事)と場所と時間さえあればいいし、他のことは心底どうだっていい。


 そして翌日。

 僕は見事、無職になった。


「ゔーん……。これからどうしようか」


 昨夜は夜分遅くまで事情聴取をされたので騎士団の休憩所で就寝することができた。だが、今日も泊まらせてもらうなんてことは烏滸がましいだろう。

 本来ならば今日給料がもらえるはずだったので文無し、しかも家無し。魔術の研究とか言ってられない状況になってしまった。


 やっぱり新しい職に就くのが最善かな。


「見つけたぞアッシュ」

「え? あ、はい、アッシュです」


 突然後ろから声をかけられる。振り向くとそこには、白をベースとし、金と青の模様が入る鎧を纏った騎士の姿があった。

 先程まで事情聴取をしていた騎士は銀一色の鎧だったので、この人は部署とかが違うのかもしれない。


「突然で申し訳ないが、我が国の城までご同行を願いたい」

「そりゃまたなんで……。もしかしてとんでもない犯罪をしてしまったとかですか!?」

「いや、そういうわけではない。正直に話すと、昨日の試合を見させてもらい、王室直属の騎士にならないかという勧誘をしにきた」

「お、王室直属の騎士ッ!? ……具体的に何するんです?」

「うーむ……説明することが多いゆえ。一度来てくれないか。そこで詳細を説明したいとのことだ」


 青天の霹靂とはまさにこのこと。

 無職になってちょうど職について迷っていたところだし、言ってみて説明を聞くだけでもいいだろう。僕の性に合っていなかったら辞退すればいいし。


「わかりました」


 僕は騎士さんに連れられ、城まで同行をすることになった。騎士、しかも王室直属のなんてとても誇らしい職だ。しかも金がたんまり入るのも確定だろうし、なかなかいいかもしれない。


 ……しかし、僕はここで断っておけばよかったと、後々後悔することとなる……。



###



「うぉおおおおん! アッシュ君まじでここで働いてくれェた〜の〜む〜よ〜!!!!」

「かしこみかしこみ、暴れん坊お嬢様を沈めたまえアッシューーッッ!!!!」

「ふ、ふふ……騎士なのに……ッ! なんでバニー服なんか着させられてんだ俺ぇ! グスッ」

「ふ、ふふ……私はここで子供並みの下ネタを言わされ続けるんだ……。う、うぅ! もう『ちん』はやだよぉおお!!!」


 魑魅魍魎。

 僕がやっぱり王室直属の騎士を辞退しようとした途端、このような有様となってしまった。


 この人たち曰く、王室直属の騎士は選ばれた者しかならないので数が少ない。そしてなんと言っても国王の愛娘がおてんばでクソほど大変だと。金は溜まれど、使う時間がない、と……。

 もう壊れてしまってこんな哀れな姿になっているらしい。


「とんでもない職場だ……。屍鬼グールの吐瀉物を超濃縮させて『芳香剤ヨ』って置いたみたいな……そんな環境だな」

「アッシュ君言い過ぎネ」

「実質間違ってるとは言えないのが悔しいな」


 時間がなくなるのは僕にとってとても困る。趣味こそが生きがいゆえに、自分の時間が取れない労働環境なんてごめんだ。

 丁重に断りたいのだが……。


「ほんっっっとにお願いアッシュくん!」

「3日! 職場体験ということでいてくれよ!」


 なんだかこの人たちが可哀想に思えるので、3日だけ職場体験という程で働くことになった。


 早速別室にて白ベースで青と金の刺繍が入った服に着替えさせられる。甲冑は用意できていないらしく、とりあえず正装ということらしい。

 場所を移動して、場内の一室の扉の前までやってきた。


「ここに国王の娘様である、シエル・リーヴェ様がいらっしゃいます。なにぶん厄介な性格をしているので……頑張りましょう」


 重厚なドアは見た目よりも重そうに見えた。この騎士さんの内心が現れているのだろう。

 そんな考察をしていたら、ドアが完全に開き、部屋にいる一人の少女の姿が目に入る。


「初めまして、アッシュと申します。3日間の職場体験としてこの場に馳せ参じました。よろしくお願いいたします、シエルお嬢様」

「ふーん? うふふっ、いいわよ。きっちり遊んで使ってあげるわ!」


 絹のような銀髪を編み込み、蒼玉サファイアのように異質なほど煌めく瞳を持つ可憐な少女。この子こそがこの国の王の娘であり、騎士たちを苦しめる元凶らしい。

 どうせ3日だけの就労だしな……。良い職場だったらそのまま働く。悪かったらまぁ、僕がいなきゃ生きていけないくらいにまで完璧にこなしてそそくさと退散するのもありだ。


 基本的には自分が「面白そう」と思ったことを追求する質だ。このお嬢様をとことん堕落させてやろう……!



[あとがき]


※主人公は基本優しいですが鬼畜な面もあります。

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