第54話

 ―ロブスト視点―



「これは……転移魔術の類か」


 先程足元に現れた沼のようなものに吸い込まれて放出されると、そこは深い森の奥にいた。

 人の気配がまるでない空間なので、応援を呼ぶのは見込めなさそうだな。今は剣を持っておらず丸腰状態……まぁだがなんとかなるだろう。


「……あなたには悪いけれど、侵入者を確実に仕留める必要があるからごめんなさいね」

「む?」


 目の前には全身黒い衣服に身を包み、両手で剣を構えるエルフの少女がいた。両目とも切り傷があり、開いていない様子だ。

 この子が先ほどの転移魔術を? ……いや、他の仲間か。


「ふむ。まぁ君が何かしら危害を加えようと言うのならば、こちらも抵抗させてもらおうか」


 近くに落ちていた小枝を拾い上げ、それを構える。エルフの少女は目で見えていないはずだが、眉を顰めて呆れた声を漏らす。


「……やめたほうがいい。確かに私は盲目。けどその代わりに他の感覚器官が発達している。剣技も上澄み。ましてやそんな小枝で。……あなたじゃ私に敵わない」

「その力で上澄み、か。いいだろう、世界が広いということを思い知らせてやる。来い、若輩者」

「……っ!! 人間の子供の癖にっ! 少し、痛い目に遭ってもらう!!」


 地面を蹴り、一直線に俺の懐へと飛び込んでくる。

 体の動かし方、剣の振り方、魔力の伝導……確かにどれも優れている。だが、この程度では俺に及ばない。


「甘い」

「っ!?」


 木の枝で容易く剣を弾き返し、赤子の肌をそっと撫でるかのように、優しく小枝を数ミリ空を斬る。


 ――キンッ。


「なッ……!?」


 一瞬音が鳴ったと思うと、近くに生えていた全木々が真っ二つになり地に伏せた。


 俺は過度にストレスを感じると魔力を体外に放出してしまう体質だ。魔力が放出され続けてゼロになればこの世から消滅する。しかし、俺は死なない。体が縮んだように見えるだろう。

 体外に放出された魔力は全身を包み、消滅した体を再構築する。


 言ってしまえば――


「ふんッ」

「ば……バケ、モノ……」


 世界を保つ魔力。その魔力の権化たる俺は、絶対的な力を手に入れることができる……。

 普段の俺は強い人間という扱いだが、この状態の俺は〝特異人イレギュラー〟だ。

 ……しかし、これでもアッシュ殿に勝てるビジョンは浮かばぬなぁ……。アレは別次元だ。


 やれやれと溜息を吐き、小枝をぽいっと放り投げた。


「さて、それではこの剣は没取させてもらおう」

「ぁ……」

「俺を元の場所に戻してもらおうか」


 アッシュ殿とルクス殿……。

 アッシュ殿は全くもって心配いらないが、ルクス殿は大丈夫だろうか。まぁ、あのアッシュ殿が招集したメンバーだ、心配するだけ無駄だろう。



###



 ―ルクス視点―



 転移魔術、それもテイムした魔物の魔術ですね。抵抗しようと思えばできましたけど、『目立つのは避けるように』とアッシュくんに言われてしまいましたしね……。


「パレードパレードー!!!」

「こんにちは☆ 此処は何処でしょうか?」

「パレード会場だよ!!!」


 転移させられた先は何もない真っ暗な空間。亜空間系統の範囲内でですね。これも魔物による魔術……。

 目の前に居る派手な格好をしている彼女はテイマーですか。


「悪いけどー、侵入者は成敗しなきゃなんだー! けど、ただ倒すにはあまりにもかわいそうだから、パレードで楽しくなって成敗されてもらうのだ!!」

「言っている事がよく解りませんね。言葉が通じない人の子はあまり好きではありません」

「はぁ〜〜? ぷっつーん! うちキレちまったよ! みんな〜もう手加減いらないからやっつけちゃえーー!!!!」

『『『『『グルオオオオオオ!!!!』』』』』

「……愚かですね。その魔物達は一体、誰が創り出したのかを知らないとは」


 多種多様の魔物が全方位から一斉に襲いかかるけれど、笑みを崩さず指を一度だけ鳴らす。


 ――パチンッ。


「…………はぇ?」


 一万はいた魔物の大群は一斉に消えました。

 残るのは僕と、間抜けな顔をしている人の子のみ。


「先に謝っておきましょうか、すみません。今日は機嫌が悪いので。折角アッシュく……アスミちゃんとお出かけができると思ったら三人で行動ですし、寝不足ですし、今こうして絡まれていますし……」

「はっ……はっ……!」


 おや、僕が発する魔力でもうすでに過呼吸気味になっていますね。できる限り抑えているというのに、この程度で根を上げそうになるとは……。

 人間も衰えたのでしょうかねぇ……。


「ふむふむ……。名はサテン、赤子の頃に魔の森にて捨てられ、エルフ公国の民であるユーリという老人に拾われ、テイマーとしての才能が開花。趣味はスタンピードモドキ、好きな食べ物は野菜シチュー、と」

「な、な、なんで、知って……!?」


 堕天したとはいえ、この程度の情報ならば容易く読み取ることができます。

 サテンと名付けられた人の子は浅い呼吸で、冷や汗がダラダラと溢れてている。


俗世アッシュと拳や言の葉を交わし、下の世界へ視察へ来てみれば……。ま、仕方ありませんよね、人の子は無邪気で残酷ですし」

「な、何を言って……」

「ふむふむ、まだ何か口答えをしようと? 今の状況は首の皮一枚、臨終の刻、今際の際……あらゆる言葉で表現できますけど」

「ぁ……ぁ、あぁ……」

「……あれ。……気絶してしまいましたね☆」


 人の子は面白い者が少なく、詰まらない者が多いです。前者はアッシュくんやイアさん、ノクテムさんなどのヒロインたちですかね。

 けれども、威圧で人の子を気絶させてしまうとはとんだ失態です……。心優しくあらねばなりませんから!


「アッシュくんは……ふふ、どうやら楽しんでいるみたいですね。終わるまで待ちましょうか☆」


 ――ルクスは基本的に温厚で慈悲深い神である。

 しかし、アッシュが関わると時折危険な一面が見え隠れする。


 

 その言葉を体現したかのような存在が彼、ルクスである。



[あとがき]


ルクスの鬼畜っぷりはアッシュが教えたみたいなもんです。

鬼畜最高神男の娘……興奮するじゃないか♣︎


今回は職場体験中に見せれなかったロブストさんの本気の初出しや、ルクスの実力を見せる回っス!

次回はアスミちゃんの戦闘シーンが見れるよー。

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