第53話

 アッシュもとい、アスミたちが城下町に侵入してすぐのこと。とある人物が、彼らの存在に気づいた。


「……誰かが街に侵入しましたわね。無駄だというのに哀れですわ、おーっほっほ!!!」


 甲高い笑い声を上げるその者は、荘厳な佇まいで素材の良い服を見に纏っている。縦ロールの髪型をしている彼女は、笑いが堪えきれずに笑い続けていた。


「リンネ様、どのようにいたしましょうか」

「パレードしよ! パレードー!!!」


 リンネと呼ばれる縦ロールの女性の側には、二つの人影があった。

 一人は派手な見た目で目にひし形の模様が入った者、もう一人は両目とも切り傷がありふさがっている者だ。


「うふふ♪ 二人とも愚問ですわね。決まっているでしょう? ワタクシたちが直々に排除しに行きますわ。特に侵入者のリーダーは、このワタクシが始末しますわっ♪」


 椅子から立ち上がり、煌びやかな衣装を靡かせながら歩き始めた……。



###



 僕らは無事に城下町に侵入することができたのだが、案の定女性しかいないな。

 国までの移動や交渉(口説き)でもう陽が傾き始めているので、さっさと宿の手続きを済ませてしまおう。


「あの門番の子にオススメの宿屋聞いたし、そこに行こうか」

「了解した」

「れっつごー☆」


 僕らは少し変わった格好をしているせいなのか、顔が良すぎるからなのか、周囲からは大量の視線が浴びせられた。

 一目見ただけでも僕に見惚れている女性もいることから、『僕からなんかしらのホルモンが出ているのでは?』とも思ってしまう。

 そんなことは……ないと思うけどなぁ……。


 道中足止めを食らいながらも宿屋に向かい、なんやかんやあって泊まれることになった。


「有難う、宿屋のお嬢ちゃん。一緒の夕飯楽しみにしてるよ」

「は、はひ……♡」


 先ほどの『なんやかんや』の中には、宿屋の従業員を堕とすことも入っていた。

 部屋も無事借ることができ、三人部屋で一息つく。


「アッシュ殿! やりすぎてはないか!?」

「えぇ? これからもっと増えるんだし慣れてよロブストさん」

「むぅ……。ま、エルフ公国は少々横暴な面もあることで有名だし、多少かき回すくらいならはよいのだろうか……?」

「僕は面白い方に一票です☆」


 貴族の元に転がり込むには、多少の知名度が必要だろう。ある程度知名度が上がれば、余興などと称して城に潜り込み、呪いをかけたやつを始末することができる。

 知名度を上げるために惚れさせる予定だが、どのくらいの人数をメロメロにすれば良いかわからない。なので、手当たり次第口説くだけだ。


「いや〜。にしてもベットもふかふかだし、風呂も付いてるらしいからなぁ。みんな入るか?」

「いや……俺とルクス殿は無理だぞ」

「え? ……あっ、そうか。ロブストさん、一応ショタだから付いてんのか。小さそうだな」

「なッ! 舐めるなよアッシュ殿……これでも妻を喜ばせた俺の邪竜を見よ!!!」

「ひゅ〜♪ 小さくて可愛いねぇ」

「かぁいいですね☆」

「ッ……!? こ、これは、体が縮んでいるからだ!! というか、小さいと思うなら貴様も見せるがいい!!!」

「僕は今女だから無理でーす」


 今日のところは急ぐ予定がないので、男子中学生のノリみたいな感じで時間を潰すことにした。



 ――翌日。

 僕らは身支度を済ませ、宿屋を出ようとしていた。


「にしてもロブストさん、寝てる間に男に戻ってたぞ? いびきでバレたらどうしようかと思った」

「う……す、すまん」

「昨晩いびきがうるさかったですねー」

「すまんかったなァ、ルクス殿!!」


 僕はキッチリとスーツを、ロブストさんはフリフリの可愛い服を、ルクスは制服を着る。

 口調や呼び方に気をつけながら、宿屋の外に出るとそこには……。


「あ、アスミ様っ!」

「おはようございます!」

「あ、朝から見れるなんて……ふへへ♡」

「昨夜は、楽しかったです……♪」

「今日も良ければ……」


 大勢の女の子が僕を取り囲んだ。

 昨日堕とした女の子は門番の子と宿屋の従業員数名……。だが、それはロブストさんとルクスの前で堕とした子だ。

 実は昨日、深夜に出歩いて手当たり次第女の子に声をかけては口説いてを繰り返していた。


「あ、アスミ殿……これはどういうことだ……」

「う〜ん、やりすぎたかなぁ?」

「有象無象どもが寄ってたかってますね☆」

「ルクス、邪神時代の口の悪さになってるぞ」

「はっ!?」


 何かのパレードでも始まるのかと思わせるほど民衆が集まっている。これだけの数がいればもう次の段階に行けるだろうか?

 そう考え込んでいると、集まっている子たちが何やらざわつき始める。


「え、あれって」

「どうしてここに!?」

「きっとアスミ様に用があるんだわ!」

「まさかあののお目にかかるなんて!」

「アスミ様流石ですね」


 リンネ……? そういえば国を出る前、国王からその名前を聞いたような気がするな。確かそいつは……。


「初めまして、ワタクシはリンネ・リュミエールですわ。この国を掻き乱す侵入者さん♪」

「っ!」

「サテン、転移ですわっ!」

「おけおけ! パレード会場に招待〜〜!!!」


 派手な格好をした人間の女の子が両手を挙げた途端、地面が沼地のように変化し、そこに吸い込まれた。


 ……思い出した。

 リンネ・リュミエール、エルフ公国にいる〝特異人イレギュラー〟が一人だ。



[あとがき]


エルフ公国の特異人は金髪縦ロールお嬢様ですわ〜!

※この子はヒロインメンバーには入る予定はありません。


次回はルクスとロブストの戦闘で、次々回はアスミちゃんの戦闘だぜ!

それはそうとアスミのせいで一夜にしてエルフ公国がもう既に傾き始めているぞ!?

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