第11話
バレていないかハラハラしたが、無事に朝を迎えることができた。幸いにも明け方には僕を手放してくれたので、誤魔化すことができて助かった。
「さて……じゃあそろそろ僕は行くか」
職場体験3日目。
2日目と同様にお嬢様を甘やかしつつも仕事を淡々とこなして1日がすぎ、すっかり夕暮れ時。もう体験期間は終わりだ。
「アッシュ君本当にやめちゃうのかい?」
「もっと居てくれよぉお!!!」
「また地獄の日々が……」
騎士たちはげんなりとした様子だったが、微塵も気にせず片付けをしていた。横目でお嬢様を見てみたが、少しソワソワしている。
「3日間の職場体験ありがとうございました」
「仕方ねぇのかぁ……」
「まぁオレたちもやる気だけは上がったからな!」
「私たちは正門で手続き済ませておきますので、先に行っていますね」
そう言って騎士たちは部屋から退出し、この部屋には僕とお嬢様だけになった。
「んじゃ、僕も行きますか。ではお嬢様もお元気で」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「? 何ですかお嬢様」
部屋を出ようとするとお嬢様が僕の前に立ちはだかり、行く手を防いでくる。
何かを決意したような顔だったが、一体何を要求してくるのだろううか。ゲーム機はサービスであげたというのに。
「手の甲を、ちょっと出しなさい……」
「なぜ?」
「い・い・か・ら!!!」
「あ、はい」
何が何だかわからないまま、手の甲をお嬢様に差し出す。スーハーと深呼吸を繰り返した後、お嬢様は僕の手の甲に顔を近づけ……。
――チュッ……。
「え、お嬢様……? 一体何を……」
何をしてくるのかと待ち構えていたら、なんといきなり手の甲に口づけをされたのだ。ブワッと顔を赤くするお嬢様に対し、僕は呆然としていた。
「あの……あれよ……。ゆ、友好の印的なあれなのよ! 特別にこの私がやってあげたとかいうそういう感じで……」
「へー、よくわかんないけどありがとうございます」
「こ、これがあれば城に出入りすることができたりするって言ってたから……その……」
「……わかりましたよ。また会いにきますから」
「! ……ふ、ふんっ!!」
なんやかんや言って、お嬢様は別れるのが寂しかったのかもしれないな。
どうせこれからも放浪することになるだろうし、色々と困ったらお嬢様に助けてもらうという程で会いにくるとしよう。
「じゃあ……さよなら、アッシュ」
「えぇ。困ったらいつでも呼んでくださいね」
こうして、お嬢様から友好の印とやらを貰い、3日間という王室直属騎士の職場体験が終了した。
一応たんまり給料をもらったので当分困りはしないが、居場所を探さなくちゃいけないんだよなぁ……。
###
夜。
アッシュがいなくなった部屋で、シエルお嬢様は窓の外を眺めた黄昏ていた。時折ため息を吐いては指で唇を触れている。
――コンコンッ。
「……誰かしら?」
「あなたのお母さんのマリアよ〜」
「お母様! お仕事はいいの?」
シエルと瓜二つの女性がドアを開けて室内に入ってきた。彼女はシエルの母親であるが、現役で仕事をこなしているのであまり会えていなかった。
「今日は早く終わったから会いに来ようと思ってたのよ。寂しくなかった?」
「私は大丈夫。……あ、そういえばお母様に聞きたいことがあったんだけど、手の甲にちゅーするのって仲が良い人とするものなのよね?」
先程行ったシエルの行いについて母親に詳しく聞こうと思っていたのだが……。
「あ〜、違うわよ? あれは王族の婚姻の儀の時に使われるやつよ〜?」
「………………えっ?」
「お互いが同意の上で手の甲にキスし合ったら結婚成立。片方だけしたのであったら他の貴族とかにアピールするマーキングみたいなものよ〜?」
「なっ、なッ……!!?」
シエルが行なったこのマーキング行為は、後々隣国のお姫様との抗争の起爆剤となることは、今のシエルやアッシュは知らなかった……。
[あとがき]
王室直属騎士の職場体験はこれにて終了。
次も違う誰かの下で働くよ〜。
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