第25話

 日もだいぶ沈んできたので修行を終わりにし、二人で街に戻った。

 受注したクエストの内容が書かれた紙に目を通して、どうやって納品するのかを確認する。どうやら普通にギルドに戻って報告すればいいとのこと。


「シアン、お前もまだついてくるか?」

『……すー……すー……』

「寝たのか」


 だいぶぶっ続けで修行をさせていたから仕方ないか。今日のとこはこれくらいで許してやることにしよう。

 ひんやりとした体温を背負いながら、僕はギルドまで向かった。


 ギルドは変わらず騒々しく、夜が近いからかわからないが、香ばしい匂いと酒の匂いが充満している。


「アッシュさんこんにちは。クエストの達成報告でしょうか?」

「ああ。これで頼む」


 とりあえず回復薬エリクサーを10個、受付嬢に差し渡した。


「回復薬の納品ですね。これは薬局に手渡して本物と確認がされたら報酬金が与えられます」

「時間がかかるのか……。まぁいいや、じゃあ次はコレで」


 回復薬10個を回収してもらった後、僕は【無限収納ストレージ】を開いて入手した素材を取り出した。

 瞬間、邪竜がの死骸がギルド内を埋め尽くす。あらかじめ解体は済ませておいたので、回収して値段付けするだけだ。


「うわぁぁあなんだこれ!?」

「や、やばいほど魔力含んでるぞこの鱗!!」

「ここここれって邪竜……!?」

「あの職場体験の人がやったのか!!?」

「ぶくぶくぶく……」

「傷一つつけたら損害額ヤベェぞこれ!」

「んがっ。な、何が起きたんですか師匠!」


 阿鼻叫喚。

 ギルド内は騒然とし、気絶する者まで現れた。


(ただの邪竜なのに……。これだけの騒ぎようからして、僕の田舎が異常だったのかぁ。面倒になる前に立ち去るか)


 既にカオスな状況なうえ、これ以上巻き込まれたくないから一刻も早くここを立ち去りたかった。

 シアンを下ろし、踵を返す。


「じゃあ後日にまた伺うから。僕はこれで」

「え、ちょ、待ってくださいアッシュさん!」

「待ってくださいししょー!」


 僕とシアンは足早にこの場を立ち去る。

 この日の夜はシアンに教えてもらった宿屋に泊まった。久々に一人で集中して魔術研究ができたので、宿屋はかなりいいかもしれないと思うのであった。



###



 ――翌日。

 ギルドに行くのは面倒臭かったという程で、厄介ごとに巻き込まれないようにするために早速クエストに行くことにしていた。


「ここが二つ目のダンジョンですかー!」


 もちろん、シアンも一緒に。

 けれど今回の職場体験はこれで終了にするつもりだ。冒険者はなんか、性に合っていないような気がするからやめにする。


「〝不可解な迷路〟ってダンジョンだが……ここは異質だな」


 昨日のダンジョンとは違い、洞穴の入り口のような場所から下に続くダンジョンらしい。


「何がですかー?」

「明らかに手が込んでる。魔王直々に手を込めて作ったっぽいんだ。……人も中にいるし、最大出力の【黝】は無理だな……」

「乗り込みましょう!!」

「今回ばかりはそれがいいかもな……」


 あの魔王様が手を込めて作ったダンジョンなら期待できる。願わくばもう一度会って話してみたい者だ。


「んじゃ、行くか」

「はい!」


 ダンジョンに足を踏み入れて数秒、シアンが床のタイルを踏んだ瞬間、


「あれ、師匠これっt――」


 ――ブンッ。


「……え、シアン? シアン!?」


 隣にいたはずのシアンが姿を消していたのだ。一瞬思考が追いつかなかったが、すぐに頭が回転し始める。


(分断させるためのトラップか! おそらく足元のタイルを踏んだことで発動したんだろう。とにかくシアンの安否を確認しないと!)


 【念話】を発動させ、すぐさま連絡を取る。


「おい大丈夫か!?」

《ん、どうしたのアッシュ。産気づいてないから大丈夫だよ》

「あ、ごめんイア、間違えた。……ってか産気づくわけないだろうが! まだデキてないんだし!」

《うん。、ね。まだ……♡》


 含みを持たすな、含みを。

 仕切り直して、シアンに念話をした。


「あー、シアン、大丈夫か?」

《この声は師匠!? 助けてください! なんか真っ暗でなんかやばいですぅー!》

「うーん、大丈夫そう」

《だいじょばないです! うわ、なんかここ坂になってて――! ブツンッ》

「シアン!」


 大丈夫そうだけど大丈夫じゃなさそう。自分でも何思ってるかよくわからないが、とにかく急ごう。

 一時的とはいえ僕はシアンの師匠だ。何かあったら僕の責任。責任を押し付けられたくないからさっさと助ける!


「うぉおおお!!!」


 【探知】をして、シアンの位置はおそらく58階層だ。【空間転移テレポート】も使用できない仕組みになっているため厄介だ。じっくり進めていたらそこまでたどり着くのに数日はかかるだろう。

 しかし、いかんせん時間がないため、僕は刀術・魔術・体術と、ありとあらゆるものを行使して爆速でダンジョンの階層を駆け下がった。


「はぁ……流石に疲れる……。多分このあたりだよな。シアン! どこだー!?」


 少し息を切らしながらシアンを呼んだ。

 すると奥の方から『ここですー!』と間抜けな声が聞こえてくる。


「シアン! 大丈、夫、か……」

『師匠の声が後ろから聞こえます!』


 そこには、壁に埋まって下半身だけ飛び出てるシアンの姿があった。


「……シアン、何してんだ」

『見ての通り壁にはまってしまいました!』

「……今さぁ、足とか変形できる?」

『それは勿論! ほらっ!』


 だったらなぜ抜け出さないのか。なぜ念話を返してこなかったのか。

 大急ぎでここまできた自分がバカらしく感じられるとともに、ふつふつと怒りが湧いてきた。


『いや〜、これで一件落着ですね! さすがボクの師匠です!』

「……っ! 能天気なのもいい加減にせいッ!!!」


 ――ベチィィィィンッッ!!!!


 思い切りシアンのケツをひっぱたいた。


『っっっっ!?!?♡♡♡♡』


 良い音がダンジョン内に響き渡る中、ポンッと花が音を立てて花開くのが聞こえたような気がしだ、この際どうでもよかった。



[あとがき]


やっと勇者ちゃん本性が書けるよ〜。

ってなわけなんですが、もう少しで冒険者&勇者師匠の職場体験も終わりです。

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