第58話

 この事態を収束させると言っても、なんの案も思いつかないな。

 魔術を使えば一瞬で解決してしまうだろうが、魔力の流れに敏感なエルフにはもしかしたらバレるかもしれない。万が一の可能性で気づかれでもしたら大変なことになるだろう。


「はぁ……。本当にどうしようかね」


 まさか呪いを解くことよりもこっちの方が大変だとは……。この国に来る前の僕は到底思っていないだろうな。


「ふむ、そうだな……。逆のことをしてみるのはどうだ?」

「逆? 例えば?」

「そうだな。例えば、いつもは優しくしていたがそっけない態度を取ってみたりとか、カッコイイ感じではなく可愛い感じになるとかだろうかな?」

「成る程ねぇ。逆効果になっちゃう可能性もあるけど、まぁエルフの価値観は知らないしな。試すだけの価値はあるか」


 ロブストさんからの案は必ずや成功するだろう! ……とはならないが、行動して見なきゃあなにも始まらないだろう。

 料理を黙々と食べ進めるルクスは僕に目もくれないでいる。仕方ないので放っておこう。


「そんじゃ、早速試してくるよ」

「気をつけるんだぞ」

「んぁ? 行ってらっしゃいアスミちゃん☆」

「はいよ〜」


 席を立ち、ひらひらと手を振りながらこの店を後にした。



###



 今までは女の子たちに甘い言葉を投げかけ続け、心の隙間に一瞬で潜り込んで懐柔するという流れだった。

 その逆ことをするということは、辛辣な言葉を投げかけたり、心を痛めるようなことを言ったりすることだろう。


 ……流石に気が引けるから、いつもシアンに言ったりしていることはしないつもりだ。


「折角だし、雰囲気作りに咥えとくか」


 白く細長い棒状の物を口に咥えた。

 地球で売られていた、中毒性が高く体に害のあるタバコ……ではなく、お菓子のココア○ガレットだ。


 ポケットに手を突っ込みながら眉間にしわを寄せ、いかにも不機嫌そうな顔で街を練り歩いた。

 すれ違うエルフたちは、目をパチパチさせて僕を二度見三度見している。


(これ……怖がられてるってよりもなんというか……)

「な、なんだか視線が鋭くてクール!」

「これはこれで……ゴクリ」

「別の一面観れて幸せ……♡」


 うん、ギャップによる逆効果な気がしてきた。エルフと人間の価値観は違うかなと思ったが、そんなことはないのかもしれない。

 悶々とした中歩いていると、ふと後ろから声をかけられた。


「あ、あのっ、アスミ様っ!」

「……何? 悪いけど構ってられる程暇じゃないんだよ。あっち行ってくれないかな」


 希望を捨てず、少しぶっきらぼうにエルフの子と接してみた。すると、


「ご、ごめんなひゃい……♡」

「あー……」


 体を子機が身に震わせて、目がハートになってしまっている。

 どうやら確信に変わってしまったようだ。ギャップ効果はエルフにも適応するということだな。


 ……遠くで変態シアンが反応した気がしたが、気のせいじゃないだろうな。


(こうなったら可愛いで責めるのもダメだろうしな。……ま、わざわざ服を着ずに済むならそれでい――)

「ふっ、俺がそれを許すとでも?」

「ろ、ロブコちゃん? どうしてここに?」

「僕もいますよ☆」


 食事を食べていたはずのロブストさんとルクスがなぜか僕の後ろまで来ており、僕の肩に置かれている手からは「逃がさん」という強い意志を感じる。


「俺たちだけこんな格好をさせられたのだぞ……アスミ殿も着るべきだッ!!!」

「いやぁ、悪いけど服は持ち合わせていないんだよねぇ〜」

「なら僕が用意しますよ? 任せてください☆ ――【因果改変:彎曲】」

「なっ!? 待てルク、ス……?」


 ルクスに手を伸ばそうとしたのだが、足が何かに引っかかって歩けなくなる。下を見てみると、黒と白のフリフリとした布が見えた。

 自分をよく見ると、クラシカルメイド服を着ていて、さらにはカチューシャまでつけられている。

 少し頰が熱くなる感覚がして眉間にシワがやるが、すぐにため息を吐いて冷静さを取り戻した。


「ルクス……やりやがったなぁ……?」

「チャイナ服か迷いました!」

「そういう問題じゃない。公衆の面前で服を変えるな、この邪神が」

「うわーん! 僕は最高神でs――痛ててててて!!!」


 ルクスの頰をつまんでグイーンと上に引き延ばす。

 ルクスの魔術で一瞬にして服装を変えられたんだろうな。にしても、つり目でウルフカット、さらにはタバコ(型のお菓子)咥えてる僕の姿は……まぁ、いけるっちゃいけるな。


「まぁ……地球あっちで散々着させられたから特に思わないけどねぇ……」

「ハッハッハッ! 似合っておるぞアスミ殿! 可愛いじゃあないか」

「はいはい、これで満足? ロブコちゃん」

「勿論だとも!!」


 ロリ(中身おっさん)の満面の笑みを見れて満足だよ、ロブコちゃん。けど、僕が危惧しているのは服装を変えられることではなく、周りの反応であってね……。

 チラリと周りを見てみると、全員呼吸を荒くして僕をみる目が恐ろしくなっている。


「はぁあ……前途多難だ」


 その後、周囲の圧に負けて色々奉仕させられた(非・意味深)。



[あとがき]


メイド服着たアスミちゃんの弱みを握って色んな奉仕させて蔑んだ目で見られたい人生だった。


《報告》


2日に1回投稿続けてましたが、カクヨムコンテストの作品をそろそろ仕上げてかないといけないという焦りがあるので、1週間に1、2回の投稿にさせてください……!

調子いいときは一週間に3回投稿するから!

申し訳ないです……。


あと余談ですが、最近私は時代を逆行する某ゲームを始めて世界観に引き込まれてしまい、まともに自分の作品が書けなくなっております。チクショウやられたぜ、拉致があかねぇな。(要約:神ゲー)


投稿はスローになりますが続けていく予定なので、何卒よろしくお願いします。

m(_ _)m

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