第27話

 Sランク相当のダンジョン・不可解な迷路。

 そのダンジョンは、たった二人のみで完全制圧、そして破壊が完了したとの報告が入った。


 そんなダンジョンの最下層で二人の姿があった。


「はぁぁぁあ……。一応シアンは成人済み。彼氏や婚約者はおらず、問題はなかった。なかったんだがなぁ……! 流されてヤっちまった」


 薄暗いダンジョンの空間で、僕はドロドロに溶かされた服を下に敷きながら床に寝そべり、天井を眺めていた。

 据え膳食わぬは男の恥とか言うし、仕方ないよな。


 隣にはシアンの姿があるのだが、半透明の青い肌は消え失せ、白濁とした肌に変わっている。……流石にハッスルしすぎた。


『ふふ、えへへ♡ なんやかんや言ってボクの所望通りしてくれてありがとうございます!』

「はいはい、ドM勇者さん……。ってか、キスするついでに自分の体の一部を僕に無理やり飲ませるのやめろよな」

『すみません師匠。ちょっと興奮しすぎちゃって……♡』


 体の一部というか、ジェル状のものだ。僕も満更でもなかったが、ちょっとやめてほしい。多分ジェルに興奮作用を及ぼす成分も入ってたから、ここまでシてしまったんだろう。

 『やめろ』と言って怒って激しくすればするほどコイツは興奮しだすし……。コイツ無敵か?


「そういえば途中、なんか硬いボールみたいなものも飲まされた気がするんだけど。何アレ。『大事なものだから噛まないで』とか言ってたけど」

『ボクの核ですね!』

「……は?」

『心臓に当たる部分です!!』


 スライムは、肉体をどれだけ切り刻んでも再生をする。これだけ聞けば一見無敵そうだが、スライムにはスライム核と呼ばれる心臓部がある。それを破壊すれば消滅し、討伐完了となる。

 そんな心臓部を……僕に……?


「なんッてもん飲ませてんだシアン!!」

『あっ♡ 再戦するんですね!』

「違ェよバカ! お前、し、死なないのか!?」

『これは主従の契約を結ぶものです! 簡単に言えばあれですね、テイムしてもらいました!』


 そういえば聞いたことがある。

 基本的に魔物のテイムは人が魔物を弱らせ、魔術を展開させることでテイムが完了する。しかし例外として、人間を魅入った魔物が自分の核を無理やり飲ませることで契約を交わすという手段もあると……。


「僕は勇者をドMを開花させるだけでなく、テイムまでしたのか……!? い、色々終わってる気が……」

『ストレス発散したい時はいつでもボクを呼んでくださいね! 吐け口になるので♡』

「ウン……ソーダネ……」

『あっ、あとボクの核は体に吸収されて特段問題ないらしいので心配ありませんっ!』

「問題はそこじゃないんだよなぁ……」


 この職場体験が終わったら、金輪際関わることはないと思っていたが、どうやら切っても切れない関係になってしまったみたいだ。

 はぁ、とため息を吐いたあと立ち上がり、魔術を使って一瞬で服を着た。


「シアン、今から帰るけどその白濁とした肌どうにかならないのか?」

『うーん……無理ですね、師匠のが濃すぎて全く吸収できません!』

「悪かったな……」


 街の人にはまぁ……トラップで肌の色が変化したとか言って言い訳しよう。

 ダンジョンコアを破壊した後、腰が抜けているシアンを背負いながら転移をして無事に帰還した。


「そういえば、子供とかってお前の場合はどうなるんだ? スライム? 人間?」

『4分の1スライム人間になるんじゃないでしょうか? ボクには人間の生殖器ありますし。……あ! 作りたいんですか!?』

「違う違う! 気になっただけだ!」

『ボクとしてはもう少し楽しみたいですが、作ろうと思えばいつでも作れますよ!』

「そ、そうなんだね……」


 ダンジョンに入る頃は朝だった。攻略したのは昼前くらいだろう。しかし今は斜陽が空にある。どんだけシてたんだ僕たち。

 ひんやりとしたシアンはもうおらず、生暖かさが背中に伝わってきている。


『師匠、ボク、今まで勇者として育てられて、ずっと色々なものを押さえつけてたんだと思います。人の顔を伺って、自分より他人を優先させて……。それが勇者としての使命だと思ってたんですが、ボクには荷が重すぎました』


 ポツリポツリと吐露をし始めるシアンに対し、僕は邪魔しないように黙って聞き、ゆっくりと歩く。


『ですが、師匠がボクのことを自由にしてくれました。押さえつけるだけじゃ、守れるものも、救えるものも、何もできないんだなって思い知って……。本当の力を知れたり、新しい世界を知れました。だから師匠――』


 ギュッと僕を抱きしめる力を強め、暖かい声でこう言った。


『ありがとうございます。ボク、今とっても幸せです』

「…………。何が幸せだ。そんくらいの幸せで満足するんじゃないっつーの。どうせこれからも関わりあるだろうから言っておくが、お前はもっと幸せになるからな、覚悟しとけよ」

『っ! はいっ!!!』


 ニヤッと笑いながら後ろを振り向き、シアンと顔を合わせる。斜陽に照らされたシアンの顔は、今まで見てきた中で一番いい顔で笑ってみせた。



[あとがき]


イイ話ダッタナー。

今回私の性癖詰め込みまくったけど、みんな引かないでね〜。なんならこっちに来いオラ(魔の勧誘)。



「今回の職場体験長いなー」と思ってる人もいると思いますが、一応“冒険者”と“勇者の師匠”という二つの職場を体験してることになりますからね。

そう考えれば短い方です。

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