第13話

「おじゃまします」

「ん、どうぞ」


 空気が薄い山の頂にある一軒家もとい、イアの家にお邪魔した。

 中は一見ゴミ屋敷だが、僕から見たら見事なまでの趣味尽くしといったところか。魔術の文献や本、魔術回路が書き記された紙の束が散乱しているが、全て取りやすい位置に配置されている。

 キッチンは違って綺麗なので、料理が第二の趣味というのは本当らしい。


「作業はここでする」

「……まぁ屋外よりはましか」


 ほとんど見えない床を踏みながら移動した先には小さい机があり、そこが僕の作業場になるようだ。八百長を引き受けていた時の部屋よりは広い机だが、いかんせん落ち着かない。


「んー……家、拡張してもいいけど集中が……」

「そういうのならやめといた方がいいか。これで我慢するよ。……そんで? 僕は何をすればいい」

「自分が思うまま、魔術の研究して」

「……何か手伝わなくても」

「いらない。アッシュの見たい。それで意欲掻き立て」


 この人は新しい刺激を求めて僕をこの家に招いたっぽいな。所謂スランプ期とやらに突入しているのかもしれない。

 好き勝手研究ができるならばありがたいと素直に思った。


「んじゃあ早速やるか」


 紙と愛用しているシャーペン(日本製)を取り出し、今研究している魔術について書き記し始める。

 イアは物珍しさにジーッと僕や紙を見つめては何かをメモしている様子だった。


「アッシュ、質問いい?」

「ん? 別に構わないぞ」


 手を挙げて鼻息を立て、やる気満々といったところか。研究に没頭は出来そうにないな……。助手だし、ちゃんと相手をするのも仕方ないか。


「いきなり魔術回路は描かない?」

「なんも思いつかない時は適当にやったりしてるけど、明確に作りたい魔術がある時はデータを集め、それを分析し、構築と添削を繰り返して作ってるぞ」

「ん、成る程。ちなみに今は何を作ってる」

「【奇跡に寵愛されし一撃ロイヤルストレートフラッシュ】っていう、宇宙規模で因果改変する魔術」

「……世界の均衡壊れる……。けど、一興」


 壊れるくらい恐ろしいものを作り出せる。そんな魔術だからこそ惹かれる。なかなかわかっているじゃないか。

 僕への質問が終わると、自分も椅子に座って羽ペンで紙に何かを書き記し始めた。


 その後も幾度となく質問をされたり、研究中に視線を永遠と送られるのが続けられる。彼女には悪いが、あまり集中はできなかった。

 そして再び質問が投げかけられる。


「そういえば、魔術の腕前はどうやって決まるの?」

「基本的には先天性のものだな。両親がどちらも魔術の腕が秀でていたら、その子は賢者とか呼ばれるほどの腕前だ。賢者同士の子だったら大賢者とかな」

「そうだったんだ」

「僕は魔術があまり得意じゃなかったけど、長寿してるおかげでメキメキ獲得できた感じだ」

「…………」


 この時、僕は知らなかったがイアはとあることを閃いていた。いいや、閃いてしまっていたらしい。


(魔女と呼ばれる偉大な魔術使いの私、そしてそれに並ぶアッシュ。……その子供だったら、私たちの知らない魔術も作れる……!? とても知りたい……未知なる魔術。

 ……よし、やることは決まった。!)

「ッッ!!? なんだかものすごい寒気がした気がしたぞ……」


 そして、僕とイアとの攻防戦が始まるのであった。

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