第33話
映画館(?)に到着した僕らは、早速中に入った。
「随分簡素なものだな……。日本とは大違いだ」
スクリーンは一つ、椅子は木製、食べ物を販売する場所も無いし……。あまり期待はできそうにないな。
不服そうな顔をしている僕に対して魔王様は目をキラキラとさせており、無邪気な子供を見ているようだった。
「それで、今日見るのはどんなやつなんですか」
「わからんな、まぁ見ればわかるだろう」
僕と魔王様だけが座るこの薄暗い映画館の中で、静かにスクリーンに映し出され映像をただ眺め続けた。
内容は魔界ジョークがふんだんに込められたコメディ映画だった。
「ふわ……」
僕は娯楽がありふれた
出たのだが……やはり、王都も魔界も、この世界はまだだいぶ遅れているらしいな。師匠と旅した
欠伸を何度をしながら、なんとかして目を開けてスクリーンを見つめ続けている。
横でテンションが上がっている魔王様が、一旦落ち着きを取り戻して背を椅子に預けた。そして、肘掛に手を乗っける。
「あっ」
「ん?」
最初から肘掛に腕を乗っけていた僕に触れた。
「あ、えっと! そのだな……」
「落ち着けノクテム。映画館では静かに、な。シィーッ……」
「ひゃ、ひゃい……」
あと少しで寝れそうなのだ、騒がれたら困る。
僕は少し強い言葉で魔王にそう言い放ち、陸に上がった魚のように跳ねようとし始める手をギュッと握った。
「……ぅぅ!」
魔王は顔を茹で蛸のように真っ赤にし、頭から湯気を放出している。手から感じる熱は中々に心地良く、僕は魔王の手を握ったまま眠りに落ちた。
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無事に初上映が終了し、薄暗い空間は明るくなった。そのせいで起こされる。
「ん……」
思っきし爆睡してしまった。だがまぁ、映画の内容以前に改良したほうがいい点は多々あるから、レポートは大丈夫だろう。
「あ、すみません魔王様。内容全然見てないです」
「ぁ……うん……わ、我も途中からあんまり覚えてない……」
借りてきた猫みたいにおとなしい魔王様。
そういえば手を繋いでいたままだったが、そのせいでこんなことになってしまっていたらしいな。
「すみません魔王様、今すぐ離――」
「い、いいから次に行くぞ! 食事処だ!」
「あ、ちょ、魔王様!?」
魔王様に手を引かれて映画館を飛び出す。その横顔はどこか楽しそうで、幸せそうに見えた。
何がそんなに楽しいのやら……。
楽しそうな魔王様に免じて、僕は何も言わずに食事処まで手を引かれ続けた。
「食事処の調査って言ってましたが、なんで調査をするんですか?」
「今から向かう所は最近売り上げが急増しているところでな。違法な物を使用していないか、悪質な商売をしていないか、その他諸々を調べるため故だ」
「成る程。だからさっき、魔術で変装してたんですね」
店内に入る前、変装を予めしておいて魔王だとバレないような姿となっている。僕もさっきの騒動で顔が知れ渡っている可能性があるので変装している。
二人で席に着き、メニュー表を確認する。
「ふむ……。これといって高額な料理は無い、アレルギー面の配慮も問題無し、違法な食材も問題なさそうだな」
「じゃあ一旦、好きなもの頼みますか? 店員の対応なども見たいですし、昼時で小腹も空いてますし」
「うむ、そうしよう。すまん、注文したいのだがー!」
僕は肉の定食、魔王様はバランスのとれた料理を頼んだ。
店員の対応は良し。時間もあまりかけず、すぐに料理が僕らのもとに運ばれてきた。
「味も良いですね。(イアには流石に劣るけど……)」
「うむ! 美味いな! ……し、しかし、アッシュのも美味そうだな……」
「……じゃあ一口どうぞ」
「ふぇっ!!?」
フォークで肉を刺し、魔王様の口元にそれを近づける。
あわあわし始め、遠慮しようとするが食べたい気持ちもある、そんな葛藤の顔を浮かべていた。だが最終時に、覚悟を決めてパクリと小さな口で食べた。
「ぅ、ぅむ……おいひい……。わ、我だけ食べるのもアレだから……ほれ、我のもやるぞ」
「ありがとうございます。んー……美味しいですね」
「あ……そ、それは良かった」
「けどこれ、あーんして間接キスですねぇ?」
「〜〜っっ!?!? な、なななななっ、何を言うかあっしゅ!!!」
ニヤニヤと笑いながら僕が事実を述べると、思い通りに面白い反応をする魔王様。叩けば鳴るオモチャみたいでとても面白い。
しっかし……魔王とは思えないほどうぶだなぁ。
その後も、からかい甲斐のある魔王様と共に食事を一緒にするのであった。
[あとがき]
魔王様に爛れた関係を推奨する読者よ……これで浄化されたまえ……。かしこみかしこみ。
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