第48話

 ―リ・ダーク・プリズン西の拠点―



「タハ〜! 国から盗った金で食う飯美味いぜ!」

「ここは天国だなぁ」

「女も抱き放題だしよォ」

「なんでもあっからな!」

「おい! 酒もってこぉい!」


 西の拠点、地下帝国。

 ここはリ・ダーク・プリズンの拠点の中でも1番の広さを誇っており、無い物は数少ないというほど栄えている。


 そんな空間に、一滴の破滅の雫が落とされた。


「おい、地下帝国の中心に変な奴がいるらしいぜ?」

「女子供が消えたんだがどーゆーこった!?」

「地上でも異変が起きてるらしいぞ」

「とにかく行ってみっか!」


 この拠点にいる多くの犯罪者たちが、地下帝国の中心に集まった。広場のような空間で、たった一人の男が佇んでいる。

 もちろん正体はアッシュだ。いつもの優しい笑みとは違い、瞳孔がガン開きで不気味に口角がつり上がっている。


「おい! テメェ、ナニモンだ? 部外者だよなァア……?」

「……部外者だが?」

「女拷問しながら抱いてたのによォ、お前が転移させたのかゴラァ!!!」

「あぁ、僕が転移させた」

「ケッケッケ! ここには何十万と仲間がいる……お前、終わったな」

「終わる? それはお前たちのことだぞ?」


 アッシュの言葉を聞いた者たちは一瞬硬直した後、笑いが止まらなくなり始めた。

 誰もが嘲笑をして、一人としてアッシュの言葉を鵜呑みにしていない。


「ダッハッハッハ!!!」

「『お前たちは終わりでェす☆』だってさァ!」

「勝てるわけないじゃ〜ん!」

「腹w 腹痛いww」

「うんうん、調子乗りたい年頃なんだよネ、プククww」

「見せてくれよ!」


 アッシュは周囲の煽りを受けても表情を一切変えず、一言呟く。


「ああ……よかった。これから鏖殺する奴らが全員クズで」


 右腕を挙げ、掌を広げた。口角はさらに上がり、三日月のような形となる。そして、


「――〝黒絹に咲くは零の華〟」


 ある者は、何も理解できずに笑った。


「〝黒洞々たる万喰の渦〟」


 ある者は、に気がついて逃げ出した。


「〝今此処に顕れよ〟」


 ある者は、無謀にも手を出そうとした。


「いっぺん死んでこい、有象無象ども。

 壊星魔術かいせいまじゅつ――【くろ】!」


 ――記録・AM01:09

 フィアンマ王国最西の街、半径5キロ圏内の完全消失を確認。魔力濃度0%。空間ごと何かしらの魔術で消滅したと思われる。被害者は確認できず。

 さらに……etc。


「…………次の拠点だ」


 頰についた血を指で拭い、虚ろな瞳をしながら淡白な声で呟いた。



###



 ―リ・ダーク・プリズン東の拠点―



 さて……西の拠点は【黝】で一瞬で崩壊させたからヨシ。いかんせん数が多いわ敷地広いわで大変だったなぁ……。

 まだあと二つも残ってるし、完全詠唱の【黝】で魔力残量が低い。温存しておきたいな。


 そうこうしてるうちに、東の拠点まで到着した。


「おい貴様! ここから先は通らせんぞ」

「ここから先はあのパルペブラ様の――」

「ああ、知ってる。退け、邪魔だ」


 ――キンッ。


 刀を一閃。

 後ろからグシャッと音が聞こえたが、振り返らずに拠点内部に侵入する。


 東の拠点はどうやら西とは違い、広大ではないらしい。しかも、隠し通路とかそういうのはなく一方通行らしいから、手間が省ける。


「おい、なんだコイt――グァッ!!!」

「や、やめ――ア゛ァア!!」

「だれか……だれかぁ!」


 壁というキャンパスに赤い絵の具を塗って行く。味気のない廊下にレッドカーペットを敷いて行く。

 刀を振るい、彩をつけながら奥に進んだ。叫び声にもがき苦しむ声。いつもなら心が痛むが、コイツらは微塵も可哀想と思わない。


「やれやれ……蝿がたかってきてうざったいな」

「「「「「うぉおおお!」」」」」


 数で押せばと考えたのだろう、一斉に僕に向かって襲いかかってきている。


「哀れだな。〝陸式ろくしき嵐鱗らんりん〟」


 刀を左から右に思い切り振ると、鋭い竜の鱗でも巻き込まれている嵐が通り過ぎたかのように、壁や人間をズタズタに裂いた。

 ここは一方通行だ。僕が放っておいたら、さっき放った刀術が勝手に奥の奴らも皆殺しにしてくれたようだ。


「さて……もうすぐ会えるな、パルペブラ」


 少しほくそ笑みながら、僕はこの東の拠点を後にした。



[あとがき]


……いやアッシュ、怖……。

まぁ相手は極悪集団だし、後から蘇生させるらしいから……いっかぁ!


ブチギレアッシュは多分当分見れない(出さない予定)だろうから、噛み締めて摂取しましょう。

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