第9話

 ――翌日。


「「「な、なッ……!?!?」」」


 シエルお嬢様のモーニングコールをしにきたメイドたちは目が飛び出す勢いで衝撃を受けていた。


「アッシュ、もっと足広げて。座り心地悪いわ」

「じゃあちゃんと椅子に座ってくださいよ。はっきり言って魔術研究の邪魔」

「あなたは今私の騎士なのよ? それくらい我慢しなさいよ」


 僕の膝の上に座りながらゲームに勤しむお嬢様の姿があったのだ。

 基本的にシエルお嬢様はボディータッチを嫌うらしい。同性も嫌がるが、異性となれば殴り飛ばすほどだと。しかし、そんな彼女が僕に気を許している。驚かざるを得なかったのだろう。


「あ、あの……シエルお嬢様、アッシュさん、これは一体……」

「あぁ、すみませんメイドさん。ほらお嬢様、さっさとそっちの椅子に座ってください」

「いやよ。昼過ぎの魔術勉強までこうするのー♪」


 僕にもたれかかって、シエルお嬢様は頭を肩に乗せて顔を見つめていた。どこか恍惚としているような顔で、ゴロゴロと喉を鳴らしそうだった。それを見て、再びメイドたちは衝撃を受ける。

 お嬢様の親は王だ。それ故に子育てへの時間を割くことがしたくてもできず、愛情をたっぷり注ぐことができなかった。言ってしまえば、反動がきていると推測を立てた。


(まさかたった1日でここまで懐かれるとは思ってなかったな……。一応騎士なのに執事みたいなことしかしてないのもなんだかなぁ……)


 若干動揺していたが、気にせず紙に魔術回路を書き込んでいく。


 だがそんな自由時間ももう終わってしまう。面倒臭い気持ちはあるが、仕事を始めるとしよう。

 まずは朝食。【無限収納ストレージ】の中にはまだ食料あるし、これで大丈夫だろう。


「はい、朝食ですよお嬢様」

「あー」

「……何バカみたいに口開けてるんですかお嬢様」

「食べさせなさいよ」

「えー……。本当に仕方ないですねお嬢様は。さっさと済ませますよ。はい、あーん」

「んぁーん♡」


 食事は親鳥になった気持ちで給餌をし、


「アッシュ、ゲーム一緒にするわよ!」

「魔術の研究したいんですが」

「すーるーのー!!!」

「はいはい……」


 食後は当たり前のように僕の膝に座りながら、一緒に通信しながらゲームをし、


「アッシュが教えてくれなきゃ勉強しないっ!」

「お、お嬢様ぁ……そう言われましても……」

「お嬢様、家庭教師を困らせないように」


 魔術の勉強はなぜか僕に教えてもらいたいらしく、来ていただいた家庭教師の方は追放され、僕が勉強を教えることに。

 その後もなにかと僕に突っかかっては要求を繰り返し、再び夜になる。


「アッシュー、お風呂ー」

「行ってらっしゃい」

「一緒に入るのよ」

「……バカなこと言ってないで入りなさい。裸体を見るのは流石に死刑宣告されそうなので断固拒否します。メイドさんに付き添ってもらいなさい」

「ちぇー……」


 なんというか……僕に対しての容赦が無くなったように思えるな。言い換えれば気を許している、それとも僕に対して好意を抱いている、とかか。

 中々に面白いが、それと同じくらい面倒だ。どうせ明日で終わりだし、最後まで気を引き締めいこう。


 服がはだけて素肌が見えそうになるくらいだらしなくパジャマを着る彼女が脱衣所から出てきたので、それを直した後に魔術でツヤツヤな髪を乾かす。

 おなじみの地球の玩具でお嬢様をあやし、就寝させるように急かした……のだが……。


「ねぇアッシュ、今日は一緒に寝たいわ……」


 お嬢様は甘い声で、そんなことを口走った。

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