八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ(カエデウマ)
第1章 第22回リーヴェ王国最強決定大会
第1話
僕ことアッシュは、辺境の田舎からリーヴェ王国の王都に移り住んでいる平凡な人間だ。
そんな僕は月に一度この王都で開催される『リーヴェ王国最強決定大会』の選手として働いている。具体的に何をしているかというと、試合に出てわざと負け、場を盛り上げるというものだ。
いわゆる八百長試合と呼ばれるものなのだろうが、給料はもらえるし、地下室に住まわせてもらって魔術の研究もできるから嫌ではない。
約一ヶ月間の地下室生活をしていると、ドンドンとドアが叩かれる音が聞こえた。
「ん? はいはい」
『いつまで引きこもってんだ芋野郎! さっさと出てこい!!』
ドアの外から突然怒号が浴びせられる。何事かと思いドアを開けるとそこにはザムアという男がいた。
この男は大会の運営の一人で、僕を八百長試合をしないかと誘った張本人である。キレ症で酒臭く、風俗通いをよくする男と聞いている。
「いつまで引きこもってんだテメェ!」
「お久しぶりですね、でもここ使っていいって言ったのはザムアさんじゃないですか。給料で一ヶ月分の食料買ってたから大丈夫ですよ」
僕が暮らしているこの地下室は机・トイレ・人一人分のスペースのみだ。とても人が長い間暮らせる空間ではないが、そこんとこは魔術で補っている。
そんなことはさておき、もう一ヶ月経っていたのか。でも結構魔術を開拓できたし、なかなか有意義な時間を過ごせた。
「仕事ですか? 張り切って負けてきますね」
「そのことだがなァ……。お前はクビだ」
「そうですか! ……え? クビ??」
ザムアさんが放った言葉に対し、僕は鸚鵡返しをして首を傾げた。
「あぁそうだ。テメェはクビだアッシュ! ロクに働かずに金だけもらって地下に引きこもるゴミムシみてぇなやつは俺様の大会にはいらねぇんだよ!」
「そんな……」
「だいたいこんな紙切れにお絵描きなんかしやがってよォ」
「あ、それは――」
僕の部屋に入り、机の上に置いてある魔術の構築例が描かれた紙を手に取り始める。そしてそれをビリビリと破り捨て、足で踏んだ。
「俺様は金をたやすく横領できるようになって金が大量に手に入るようになったッ! 女も金も腐るほど手に入る勝ち組になったのさ! コネで王室に入って、姫様と結婚するのも近い! だからアッシュ、テメェみたいな寄生虫には消えてもらうんだよ」
「……そうですか、わかりました。今までお世話に――」
「おおっと待てよ。最後に大会に出てもらうんだよ。本気を出しても惨めに負ける姿を観客に見せてやるのさ! ガッハッハ!!」
約一年前から続けているのでルールはよく知っている。出場が決定している選手は絶対に出場しなけらばいけなく、できない場合は罰金。払えない場合は短期奴隷となる。一ヶ月前に金を使い果たした僕が棄権しようものなら奴隷になってしまう。
これをザムアさんは狙っていたというわけなのだろう。
「……出れば、いいんですね」
「そうだ。本気出してもいいんだぞアッシュ、出したところで負けるのは確定だがな!」
高笑いをしてこの場を立ち去るザムアさん。床に落ちた紙を拾い上げ、息を吐く。
「わかりましたよ。出せば、いいんですね。本気を」
もう八百長試合はおしまいだ。誰が相手だろうと絶対負けやしない。
###
2日後。
来たるリーヴェ王国最強決定大会の当日だ。月一のイベントというこで街は盛り上がっており、出店も繁盛している様子だった。
なんせ今回はとんでもない選手が出ているとの噂だ。盛り上がらないわけがない。
僕は選手の控え室で自分の出番を待っていた。すると、僕の第1試合の対戦相手が話しかけてくる。
「おやおやおやおや。君がこの俺の相手かい? 随分見窄らしく哀れで弱々しくゴミのような相手じゃあないか」
罵倒をつらつらと並べて僕に吐くこの男こそが対戦相手のヒューク・セントだ。隣国の貴族が旅行に来ているらしく、全身に宝石をまとわりつけて自分の財力を誇示している。
剣が得意らしいが、その実力やいかに。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「ふぉやふぉや、俺の言葉が効かないなんてねぇ……。まぁいいよ、戦いで君をコテンパンにしてあげるからね☆」
「さいで。お互い楽しみましょう」
こいつは一応件のとんでもない選手らしい。剣術はかなり上のランクになるらしいが、僕からしたらただのナルシスト貴族(笑)である。
出番までボーっと天井のシミの数を数えていると、いよいろ僕の名前が呼ばれた。どうやら出番のようだ。
控え室の外からアナウンスの声が響いてくる。
『さー続いての試合は初出場の選手です! 身なりの派手さは国一番ッ! 纏う宝石のように美しく勝利を決めれるか〜!? ヒューク・セント選手です!!』
会場がワッと盛り上がり、歓声がここまで聞こえてきた。さて、アナウンスで呼ばれたらいよいよ僕も出場だ。
『その対戦相手はもはやこの大会でおなじみッ! いつもは引き立て役として敗北してしまっているが、今回は果たして勝てるのか!? アッシュ選手です!!』
先ほどよりは歓声が上がっていない。理由はまぁ、普通だからだ。
表舞台まで歩き、巨大な円のフィールドまで向かう。周りには何万もの観客がおり、王様も見にきている。
「君は踏み台になるんだよ☆」
「ふわぁ……」
いつもだったらとにかく接戦を演出し、攻撃を食らった時には派手な演出(魔術)を出していた。いつだって相手を思っていた。
けどもう違う。僕はもう無職だ。金がもらえないならもう敬う必要もない。
『ではレディ〜〜? ファイッッ!!!』
「先手必勝さっ!」
腰に携えていた剣を引き抜いて俺に一直線で向かってくるヒューク。僕もゆったりと腰にあった木剣を取り出し、たった一言だけ呟いてそれを薙ぐ。
「〝
「ゴパァアアアアアアアアアーーッッ!?!?」
ヒュークはカエルが踏み潰されたような悲鳴をあげて後方に吹っ飛ぶ。そして場外まで飛ばされ、気絶してしまったようだ。剣は当たっていなくて、風圧だけだのに。
シーンと会場が静寂に包まれるが、アナウンスが慌てた様子で状況を説明する。
『あ、アッシュ選手、ヒューク選手を一撃で吹き飛ばしましたぁあ!? とてつもない威力でした! 場の盛り上がりなど一切考えない一撃ッ! 今までのアッシュではない! 進化を遂げて帰ってきたッ! アッシュ選手の勝利で〜〜す!!!』
「ふぅ」
随分とあっさりしたものだったが、会場はどよめきが起こっていた。
「え、い、一撃!?」
「あいつ弱いんじゃなかったっけ……」
「剣の動き見えなかったぞ!?」
「賭けた金がーー!」
踵を返して控え室に戻り、椅子に座った。
剣術は昔、剣の師匠に教えてもらったからそこそこ得意だ。でも、魔術の方が得意。
ぐるぐると腕を回してストレッチをし、再び時間を潰した。
とりあえず初戦は勝利だ。
[後書き]
なろうで短編として投稿したのが好評で連載化した作品です!
ぶっちゃけ後先のこと考えていませんが、ノリで書いていきたいと思っています。
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