第43話

「ん〜〜!! ん! ん!」

「ちょ、痛いぞ! やめんかイア、背中を殴るでないわ!」


 無事に奪還完了し、魔道具からイアを解放したのだが、怒ってアイの背中をベシベシと殴っている。

 まぁいきなり手刀で気絶させられて、僕と戦って、散々なことしてたから仕方ないだろうな。


「ねぇアッシュ、この後あの人はどうするのかしらね?」

「そうですねぇ……。国に帰る、のでしょうかね。お嬢様はどうするんですか?」

「私は帰るわよ。一緒に帰る? えへへ、なんなら、と、泊まっていく?」

「そうですねぇ……」


 この暴れん坊破壊神をなんとかしなきゃだし、一旦城に帰るのが吉かもしれないな。

 お嬢様とオールでゲームするとかいう約束もしたし、それも有りだ。


「ん、アッシュ。私とタッグ組んでお姉ちゃん倒す」

「は?」


 帰ろうとした矢先、イアからそんなことを告げられた。


「カッカッカ! それは良いのう! 第2ラウンドと行くというわけじゃな!?」

「ん、そうと決まれば場所を移そう」


 二人は完全にやる気だ。

 やれやれと溜息を吐き、お嬢様に顔を向ける。


「お嬢様、また今度というわけで」

「むぅ……。わかったわ」

「……国王に話してくれたり、一緒に戦ったりしてくれてありがとうございます。これは感謝として、お返ししておきます」


 ――チュッ。


「な、なななななぁっ!?!?」


 あの時お嬢様がしてきたように、手のひらにキスをして見せた。


「んじゃお嬢様、これからもっかい戦ってきますね」

「ぇ……あ、っ、うん……。……こ、これって……婚姻の儀、成立しちゃった……!?」


 プシューっと音を立てて頭から湯気を出していた。困惑の色があるが、ニヤケが止まらないお嬢様の顔は僕が見ることはなかった。



###



 場所を移して、イアの家に到着した。

 ここで戦うのだろうか? 別にあの場所でもよかった気がするが……。


「こんな辺鄙な地に家を建てておるのじゃのう」

「ん、入って。勝負はこの家で行うから」


 この家で行う? 壊れないか??

 頭の上にクエスチョンマークが浮いており、イアの考えていることがわからなかった。


「とりあえずまずはご飯。それで三人とも強化する」

「久々のイアの飯じゃな! 何十年ぶりかのう? 楽しみじゃな〜」


 強化する?

 確かにイアの料理はめちゃくちゃ美味しいが、バフ効果などは含まれていなかったはずだ。


 ずっと唸りながら考えていたが、作った料理を机の上に並べている時に違和感を覚えた。


(……これ、前と同じ全部〝精〟がつく料理だ……)

「カ〜ッ! やはり美味じゃ! 酒が進む!」

「…………」


 あれ……もしかしてイア……。


「お姉ちゃん、取り敢えずお風呂はいってきて」

「なんじゃと? 何故じゃ?」

「いいから。冷えた紅茶用意しとくから」

「ま〜、なんか料理を食べてから火照っておるから入るかのう」

「…………」


 僕とイアがスる前はいつもお風呂をはいる。これはもう黒なのでは? 戦いというのはまさか、アレなのでは!!?

 イアの顔を見ると、ほくそ笑んでいる。疑惑が確信に変わった瞬間だった。


 数分後、ホカホカになったアイがラフな格好で風呂場を出てきた。お堅い軍服も似合っていたが、こういう姿も新鮮だ。


「ん、私たちも入ろ」

「むっ? 二人で入るのか?」

「当たり前」

「寂しいのう! 昔は姉妹一緒に入っておったというのに、今はその男か!」


 ギャーギャー叫びながら紅茶をぐびぐび飲みアイを放っておき、二人で風呂に入る。

 いつものように二人肩を並べて浴槽に浸かっていたが、とうとう今から何をするのか聞くことにした。


「なぁイア、今からするのってもしかして……?」

「ん、決まってる。をする」

「やっぱりか……。でも、精がつく料理だけでできるのか? なんか断ってきそうだが……」

「確かに、お姉ちゃんは前の私と同じ膜を破ってない者。だから断ってくると思うけど、手は打ってある」


 そう言って、イアは【無限収納ストレージ】から何かを取り出した。それを見た途端、僕は思わず声が出るほど驚く。

 あの夜、イアに手を出した元凶である例のアレがあったのだ。


「〝超ウルトラハイパーアルティメット媚薬〟!? 全部使い切ってたはずじゃ……!」

「ん、使い切った。けど、予備があった。ま、これももうほぼないけど」


 例の媚薬……一体どこで使ったのかと考えるが、すぐに答えにたどり着いた。

 塩っぱく喉が乾く料理、熱い体、風呂上がり……。そこから出す答えはただ一つ。


「紅茶に入れたのか!?」

「ん、正解。媚薬に茶葉を溶かした超高濃度の媚薬紅茶。それを1リットル。お姉ちゃんには散々うんざりしてた……だからここで……ふ、ふふ……」


 少しイアに恐怖を感じながらお湯に浸かっていると、何やらリビングの方からガタガタと音が聞こえる。

 もう影響が出ているのだろうか……。


「ん、もうそろそろ行こ。多分もう効いてるはず」

「えぇ……」


 僕らは風呂を出てリビングに向かった。

 するとそこには、イアの言葉が見事に的中しているアイの姿があった。


「う、うぅ……! おい、なんだか体が……下半身がなんか変なんじゃ! 助けてくれぇ♡」


 ムワッと僕の下半身を刺激する匂いが漂う室内。

 そんな部屋には、目がハートで、「ふー♡ ふー♡」と息が荒く、足をもじもじさせているアイの姿があった。


「ふっ、効いてる効いてる」

「な、なにをしたんじゃイア……!♡」

「ちょっとムラムラする薬盛っただけ。お姉ちゃん、ここからが戦いだから」


 するとイアはカップに残っていた紅茶を口に含み、僕に近づく。そして――


「んぐっ!!?」

「んっ、んっ♡ ぷはっ。これで、準備完了♡」

「ッ……イア……!」


 僕にそのままキスをして無理やり飲ませてきた。


「大丈夫、私も半分飲んだ♡」

「そういう問題じゃ……はぁ、もう怒る方にリソースを割けない」


 この薬、効くのが早すぎるだろ。

 ガシガシと頭をかいた後、僕はアイに近づく。


「義姉さん、体、治したいですか」

「治してくれ、頼む……体が変なの治してほしいのじゃ……♡ なんでもするからぁ♡♡」


 ――プチッ。


 本ッ当に……この姉妹は僕の理性の糸を切るのが上手いんだな。


「覚悟しろよ……。多分、手加減できないからな……!」


 ――第2ラウンド……それはあまりにも一方的で、戦いというより、蹂躙に近しいものだった……。

 いつまでも上から目線で調子に乗っていたアイだったが、甘い声で求められて小さな体に欲望をぶつけた。


 これで、主従関係ははっきりとしたようだ。



[あとがき]


アイ、良かったね。君もメンバー入りだよ。

いや〜、本当は軍服のままさせたかったけど仕方ないね。また今度させよう。


※報告ですが、第3章のタイトルを「独立戦線」に変更いたしました。サブタイトルもついたから見てみてね。

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