温泉ツーリング同好会へようこそ 3rd

秋山如雪

第1章 新たな出逢い

1湯目 とある女子高生ライダーの悩み

 2030年4月。


 私、大田瑠美は3年生に進級した。同時に、自動的にというか、半強制的に「温泉ツーリング同好会」の「会長」に就任していた。


 そして、今。

 部室には、暇そうにスマホ画面でバイクレース走行動画を見ている、花音ちゃんと、新入生が来ないことで、頭を抱える私がいた。


 実際、すでに4月下旬になっていたが、新入生勧誘の部活動説明会を開いても、その後の勧誘活動をしても、全然「鳴かず飛ばず」の状態だった。


 狭い部室内に、花音ちゃんが見ている走行動画の、派手なエキゾーストノートだけが響きわたる。


「はあ。やっぱ来ないねえ」

 溜め息をつく私に、彼女は、


「そりゃ、こんな訳わからない同好会に好んで入る、物好きな1年生はいないでしょう」

 花音ちゃんは相変わらず、遠慮というか、忖度がまったくない辛辣なセリフで突っ込んでくるが、目は動画を見たままだった。

 というか、そういう花音ちゃんも相当「変わってる」し、「物好き」なのだが。


「訳わからないかなあ?」

「わからないですね」


「どういうところが?」

「考えてもみて下さい。バイクと言えば、普通は『ツーリング』です。ツーリング先に行って、美味しい物を食べるとか、いい景色を見るとか、サーキットで爆走する、とかそういうのがバズるんですよ。何を好き好んで、女子高生がババ臭い温泉巡りなんてするんですか?」


 相変わらず、彼女の一言は、辛辣だった。


「最後の『爆走』はともかく、まあ、花音ちゃんの言いたいこともわかるけど。でも、せっかく先輩たちから受け継いだ、伝統だから、守りたいというか」

 そう告げたら、彼女には鼻で笑われてしまった。


「下らないですね。伝統とか、歴史とか、そういうの私は嫌いです」


 そうは言うものの、私の代で途絶えさせたとあっては、先輩たちに申し訳ないという気持ちは、私の中にはあったのだ。


「それに、瑠美先輩も3年生でしょう。バイクで遊んでる暇なんてないのでは?」

 この一言には、まさに文字通り「ぐうの音も出ない」私だった。


 一応、実家が家業をやってる訳でもない私は、将来のことを考えて、大学に進学するつもりだから、確かに勉強もあり、この3年生の1年間は、これまでのように、頻繁に温泉ツーリングに行っている余裕はない。


 だが、それでも勉強の息抜きの意味も込めて、私は温泉に行きたかったのだ。


「でも、このまま解散ってのも寂しいね。受験勉強の息抜きに、たまには温泉行きたいしなあ」

 椅子に座って、天を仰いで愚痴る私に、彼女は溜め息を突きながら、


「仕方がないですね。同好会がなくなっても、私が暇だったら、付き合ってあげますよ」

 相変わらず、上から目線で、生意気だが、これも彼女なりの優しさなのかもしれない。


「ありがとう」

 一応、礼は告げたが、それにしても、誰も来ない、誰も入らないのは確かに寂しさを感じるのだった。


 二人だけの狭い部室が、いつも以上に寂しく感じられるのだった。しばらくはこの二人きりの部活動が続いた。

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