43湯目 温泉ツーリングフォーエバー
ということで、ホテルに行く前に、風呂に入ることになった私たち8人。
この温泉が、高校生活最後の温泉となる。
7つある外湯のうち、「一の湯」を選んだ私たち。
ここは、古い歴史的な建造物が特徴の、歴史ある日帰り温泉で、人で賑わっていた。
そんな中、露天風呂に浸かる私たち8人。
いつものように、「効能」や「泉質」の話になっていたが。
ふと、彼女が言及した一言がきっかけだった。
「やっぱ温泉はいいだろ」
まどか先輩だった。
「何よ、まどか。今さら」
「まあ、今さらだけどな」
前置きしてから、彼女がおもむろに語り始めた。
「こんなことを言うと、ババくさいと思われるが、今は人生100年とも言われる時代だ。温泉に入ることで、健康にいいというのは本当でな。今はまだしも、年を取ったら、温泉に入りまくるといいぞ」
「いや、先輩は年中入っとるやないですか」
と、美来ちゃんに突っ込まれて、
「まあな」
と、まどか先輩は照れながら答えていた。
「でもまどか先輩の言う通りですね。温泉に入ることで、皮膚病に効いたり、お肌がツルツルになったりますからね」
「病中病後にもいいし、全国に様々な効能の温泉があるから、自分の体調や疾患に合わせて行くのがいいわ」
琴葉先輩が付け足す。
「でも、温泉って、湯治って言って、何日も滞在しないと効果ないんですよね?」
1年生ののどかちゃんが積極的に声をかけた。
「まあね。湯治というのは、本当は1週間以上滞在しないといけないらしいんだけど、忙しい現代人に、それは難しいわね。でも、2、3日の滞在でも効果はあるらしいわよ」
「私は東北のひなびた温泉街とかに泊まりに行きたいなあ」
と、私が密かに夢見ていることを告げると、
「瑠美先輩。文豪か何かですか」
と、花音ちゃんから突っ込まれていた。
「いいんじゃない。東北にはいい温泉がいっぱいあるし、最近は『おひとりさま』ブームだから、一人で和室の温泉宿に泊まれるところもいっぱいあるわ」
琴葉先輩に言われて、俄然東北に行きたくなっていた。
「でも、今の時期の東北はちょっと怖いネ。道路が寒さでツルツルになってたら終わりネ」
フィオが言うように、3月とはいえ、東北や北海道はまだまだ寒さが厳しく、路面凍結がある。
その意味でも、今回、この西日本にやって来たのだ。
「お前らはまだ若い。これからも色々な温泉に行けるじゃねえか。それこそ温泉の達人と言って、1年に3000湯くらい回った男もいるし、確か温泉ソムリエっていう民間資格もある。まあ、がんばれ」
分杭先生が言うと、何だか妙な説得力を感じるが、温泉ソムリエというのは少し興味があった。
「3000湯! マジっすか。1日平均で、えーと」
「1日8湯とちょっとね。まあ、出来なくはないけど、普通はやらないわね」
美来ちゃんに琴葉先輩だ。
「そうですね。4月から私は東京に行きますが、時間を見つけて色々回ってみます」
「いいですね、東京。熱海とか草津とか行きやすくなるんじゃないですか、先輩」
のどかちゃんに言われて、思い出すが、実は八王子は、東京でも結構外れにあるので、本当に色々行けるかどうかはわからない。
「まあ。それはわからないけどね。私はどうせなら北海道とか九州に行きたいけど」
それがきっかけだった。
「いいわね。北海道にも九州にも、数えきれないくらい、いい温泉がいっぱいあるわ。行ったら、是非私に報告してね」
琴葉先輩に言われていた。
こうして、私たちの温泉ツーリング同好会による、温泉巡りという活動は終わった。というよりも私が卒業しただけだが。
1年後。
北海道、登別温泉。
大学の長い夏休みを使って、バイクで北海道へ渡った私は、この有名な温泉に浸かりに来ていた。
(登別、カルルス、湯の川、定山渓、十勝川、川湯、層雲峡。北海道にはいっぱい温泉があるなあ)
この広い北海道を1週間以上かけてバイクで巡りながら、温泉に浸かる。
これは「バイク」と「温泉」の両方を楽しみ、さらに雄大な自然を持つ北海道をも満喫できる、私にとっては、「最高の夏休み」の過ごし方だった。
温泉がある限り、温泉ツーリングはいつまでも続く。
「山があるから登る」という山登りの達人と同じように、私にとっては「温泉があるから入りに行く」のだ。
(いつか海外の温泉にも行ってみたい。台湾にもいい温泉があるらしい)
今後の夢は、行ったことがない九州の温泉地、そして海外だ。
温泉があるところ、私のバイクがある。
そう。昔から「バイクと温泉は切り離せない」のだ。
(それにしても登別温泉、気持ちいい)
私はお湯に全身を任せて、ゆらゆらと水面を漂いながら、すでに秋口に差し掛かろうとしている8月末の北海道の空を見上げていた。
(完)
温泉ツーリング同好会へようこそ 3rd 秋山如雪 @josetsu
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